33話:久しぶりのデート

 冬休みが明けて一週間が経った土曜日。今日はセンター試験だ。


「……兄貴ぃ……未来さん、試験会場に着いたかなぁ……」


「しらねぇよ。本人に聞けば?」


「そんなことしたら未来さんが試験に集中できなくなってしまうじゃないか……」


「ならねぇだろ。めんどくせぇなぁ……貸せ」


「あぁっ!ちょっと!」


 兄にスマホを奪われる。返してもらうと画面は未来さんとのトーク画面に変わっていた。「着きましたか?」と勝手にメッセージが送られ、既読がついている。


「もー!」


 兄に文句を言っていると、スマホが鳴る。彼女から返信だ。「着い」で途切れており、すぐに「鯛」「タコ」「田村」と連続で送られてくる。明らかにテンパっているのが目に見えて分かる。「対」「追」「突い」と続いてようやく「着いた」と送られてきた。


「だ、大丈夫かなぁ……」


 心配せずにはいられない。すると私の心を読んだかのように「心配しなくても大丈夫」というメッセージとともに、手のひらに乗せたお守りの写真が送られてきた。そして「頑張ってくるね」と続く。「頑張って」と送り返してアプリを閉じてスマホを置く。


「……あー……会いたい……」


「明日で終わりなんだろ?」


「明日、未来さんが受験終わったら会場まで車出してくれない?」


「やだよめんどくせぇ。電車乗って行け」


「……お前の部屋のエロ本食卓に並べんぞ」


「……そういう脅し良くない」


「じゃあ車だーして♡」


「くそっ……つかお前、なんで隠し場所知ってんだよ……」


 別に隠し場所を知っているなんて一言も言っていないし、あることも知らなかった。あるだろうと思ってカマをかけたら勝手に引っかかってくれただけだ。

 まぁ、隠しているとしたらどこかなんて大体想像はつくが。参考書の後ろとか、辞書のケースの中とか。あるいはカバーを別の本のもの付け替えているとか。本棚をよく見るとケースと中身が隣り合って並んでいるのを見つけた。明らかに怪しい。

 てか、見つかるかもしれないってハラハラするくらいなら電子で買えばいいのに。





 というわけで翌日の昼過ぎ。彼女から「受験終わった」という連絡を受け、兄に車を出させる。


「安全運転でお願い」


「……へいへい……」


 舌打ちをしながらも、なんだかんだで車を出してくれる兄は優しい。私が脅したせいもあるかもしれないが。


「おら、着いたぞ。さっさと迎えに行ってこい」


「ご苦労」


「じゃ、帰るから」


「あ?」


「……冗談だよ。待っててやるからはよ行け」


 車を降りて入り口まで向かう。ちょうど、会場から未来さんが出てくるのが見えた。私に気づくとぶんぶんと手を振りながら駆け寄ってくる。はい。可愛い。私の彼女、マジ天使。


「咲ちゃん」


「お疲れ様です。未来さん」


「ありがとう」


「兄貴に車出させたんで。家まで送ります」


「えっ……あ……そうなんだ……」


 何故か少し残念そうな顔をする未来さん。理由を聞くと「時間あるしちょっとデートしたかった」と少し不満そうに呟いた。すぐさま兄にLINKで「ちょっとデートしてから帰るから帰っていいよ。ご苦労」と送る。


「しましょう。デート」


「えっ、でも車……」


「大丈夫です。帰りは一緒にバス乗ります」


「なんか……伊吹さんに申し訳ないなぁ……」


「良いんですよあれは。どうせ暇だし。さー行きましょ行きましょー。久しぶりのデートですね。どこ行く?とりあえずお疲れ様会する?」


「……じゃあ、うん。そこの喫茶店入ろうか」


 未来さんに連れられ、近くの喫茶店に入る。

 ジュースで乾杯をして、2種類のサンドイッチを2人でつつく。


「結果出るの楽しみだね」


「……ちょっと不安。解けなかった問題結構あったから」


「不安になっても今更結果は変わらないんだし、どっしり構えてましょうよ」


「……うん。そうだね。結果はもう変わらないよね。うん」


「そうですよ。あとは結果を待つだけですよ」


「……受かってると良いな」


「大丈夫ですよ。未来さん頑張ってたもん」


「……うん」


「ほら、たくさん食べて食べてー。食べないと私に取られちゃいますよー」


 彼女の皿に手を伸ばす。ぺしっと叩かれてしまった。


「こら」


「咲ちゃん、今日ちょっとテンション高いね」


「ふふ。久しぶりのデートだから」


「……寂しかった?」


「全く会えなかったわけじゃなかったからそれほどでも。……と、言いたいところですが、めちゃくちゃ寂しかったです」


 一週間の間、彼女とはほとんど朝しか会っていない。昼は勉強したいからと、別でとっていた。昼に会えないだけでも全然違う。


「ふふ。そっか。明日からはお昼一緒に食べようね」


「はい」


「お客様、お皿お下げしてもよろしいでしょうか」


「あ、はい。お願いします。って……小桜さん」


「あら。松原さん」


 皿を下げに来てくれた店員は小桜さんだった。年明け前に髪をばっさり切ったらしく、冬休み前は腰まであった髪が耳が隠れないほど短くなっている。一週間経つが、その姿にはいまだ見慣れない。未来さんも「誰?」と首を傾げている。「小桜さんだよ」と教えてあげてもなお、頭にハテナを浮かべている。


「コザクラさん?コザクラさん……えっ!小桜さん!?髪どうしたの!?」


「前からばっさりいきたいと思ってて」


「それにしてもばっさりいきすぎだよね。鈴木くんより短くなってるじゃん」


「けど、ショートも似合うね。大人っぽい」


「だよね」


 ただでさえ10代に見えないのに余計に10代から遠かってしまった。で同級生とは思えない。


「じゃあね。松原さん。デート楽しんで」 


「うん。ありがとう。またね」


「ふふ。ごゆっくりどうぞ」


 クスッと笑ってから、空いた皿を下げて去っていく小桜さん。なんだか最近ますます鈴木くんに雰囲気が似てきた気がする。笑い方とか特に。

 ちなみに、一年生の間では最近密かに、鈴木くん、姐さん、小桜さん、北条さんの四人合わせて女たらし四天王と呼ばれているらしい。モテたくて女子の比率が高い商業高校を選んだ男子が悔しそうに「四天王には勝てないわ」と嘆いていた。リーリエ曰く私を合わせてらしいが、断じて私は女たらしではない。

 ……まぁ、女子から告白されたことは何回かあるし、バレンタインデーにチョコレートもらったこともあるけども。


「そういえば、もうすぐバレンタインデーですね」


「あぁ、そっか。もうそんな時期なんだね」


 一月はまだ中旬とはいえ、世間はもうバレンタインムードに近づいてきている。


「……未来さん、チョコレート作ります?買います?」


「どっちが良い?」


「そりゃもちろん手作り」


「じゃあ、作るね。君も作ってきてね」


「あー……私はホワイトデーに……」


「作ってくれないの?チョコレート」


 うるうるした目で訴えてくる未来さん。正直、お菓子作りには自信がない。やったことが無い。チョコレート菓子は特に、溶かす過程で分離したりとか色々むずしそうだし、ホワイトデーならチョコレート使わなくて良いからまだ簡単かななんて思っていたが、そんな子犬みたいな目で見られてしまっては断れない。


「……上手くできるかわからないけど……頑張ってみます」


 すると彼女はパッと顔を輝かせてうんうんと頷いた。可愛い。


「楽しみにしてるね」


「あんまり期待しないでほしいです……」


今までバレンタインデーは貰う側だった。渡す側になったのは初めてだ。

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