第481話 何回王都へ帰ればいいのさ
「いやぁ、よく晴れた良い日だね」
「「ま、マスター、曇ってます......」」
『よせ、ご主人が晴れていると言ったら晴れているんだ』
『あ、あはは。王サマにとっては雨降ってなかったら全部晴れなんだねー』
『シュコー。曇っている』
『......。』
現在、聖国を出た僕らは、王国へ向かっている途中であった。
と言っても、全部徒歩じゃないけどね。途中までティアの【転移魔法】を頼ってショートカットしたのだ。
本当は王国が見えるとこまで転移してほしかったんだけど、それはティアが王国の場所を思い出せなくて叶わなかった。【転移魔法】って転移先のイメージが大切らしい。
で、聖国で購入した地図を使って、ティアには「どの辺なら転移できる?」と聞いてみると、「この辺!」と言われたので、その辺に転移してきた次第である。
なんとも漠然とした話だな。
『小僧、そろそろ吾輩の上から......』
「ん? ヤマトさん何か言った?」
『いや、だから』
「まだ休憩には早いから、きびきび歩こうね」
『......。』
ちなみに僕は神獣化したヤマトさんの上に乗っている。
え、なんでかって?
それはヤマトさんが僕にしでかしたことを考えれば言うまでもないよ。僕、人生初のレイプを受けたんだ。
このクソ虎とあのクソビッチに襲われて、だ。
なんとか操は守ったけど、あれは本当に酷かったな......。
美女二人に弄ばれてさ。抵抗しようとしても、僕の身体を麻痺させて動けないようにするんだもん。トラウマになりかねないよ。
つか、異空間に居るドラちゃんは仕方ないけど、ノルは僕のこと助けられたろ。なんで自分の主人かもしれない男が襲われているところを黙って見てたの。
とまぁ、そういうことなので、僕はしばらくヤマトさんの上に跨って楽する予定である。
僕がそんなことを考えていると、ヤマトさんの耳がピクッと動いた。
『む? この声は......』
「?」
ヤマトさんが僕らに知らせてきた。
『小僧、近くで馬車が襲われておるぞ』
「なに?! 襲われているのは女の子?!」
「「マスター......」」
『ご主人......』
『いや、ほぼ男だな。複数人で戦っているみたいだ』
そっかぁ......。
じゃあ悪いけど、その人たちは運が無かったということで。
僕がそんなことを考えていると、右耳の耳飾りの中に居るティアと紋章の中に居るノルが、僕に向かって言ってくる。
『この気配は......。王サマ、そっちには行かない方がいいよ。他の従者が居る』
「え゛」
『シュコー。この気配を全く隠していない感じは、<月ノ大神>マルナガルムだな』
僕は間の抜けた声を漏らしてしまった。
<月ノ大神>とか言うヤバそうな異名を持ってんじゃん。
え、ちょ、待って。どういうこと?
ヤマトさんが教えてくれた方角に<
するとヤマトさんが付け加えて説明してくれた。
『おそらくその者が馬車を襲っている感じだ』
「え、ええー」
<
というか、
「従者が人を襲っているってことは、僕の責任問題にはならないよね。僕には関係無いよね」
『シュコー。いずれ会うことになる。その時が来れば、マルナガルムはオウに付き従うことだろう』
『さすがに無関係は主張できないよ』
マジすか......。
そのマルナガルムって奴が罪の無い人間を襲ってるって聞くと関わり合いたくないな。
もし僕が<
白目をむいている僕に対して、ティアが言う。
『一応言っておくと、マルナガルムはノルと同様に魔力で感知とかできないから、このまま遠くに居れば、王サマの正体はバレないと思う』
『シュコー。しかしマルナガルムは耳と鼻が良い。奴がオウと同じく王国へ向かうならば、そのうち気づかれる。私とティアのニオイで、だ』
もうほんっと嫌......。芋づる式でどんどん増えてくじゃん。
『ご主人、さすがに助けないと夢見心地わりぃよ』
「「マスター......」」
と、言われましても......。
ん? 待てよ。マルナガルムは耳と鼻が良くて、僕には姿を消すことができる<ギュロスの指輪>がある。
それに......。
僕はヤマトさんを見つめた。
「......。」
『? なんだ、小僧。吾輩を見つめおって。発情したか?』
良いこと思いついた。
******
「クソッ! なんなんだよ、あのバケモンは!!」
「どう見てもウルフ系のモンスターじゃねぇ! 俺ぁ知らねぇぞ!」
<月ノ大神>マルナガルムに襲われた馬車には、総勢六名の人間が居た。
うち一名は馬車の持ち主で、近くの村まで商品を運んでいた御者である。
残り五名はその護衛の依頼を受けており、男三、女二の冒険者パーティーだ。ランクはC。それなりに場数を踏んできたパーティーで、この辺の盗賊やモンスターでは太刀打ちできない実力者の集いであった。
実際、Cランク冒険者パーティーとは言え、Bランクモンスターのレッドウルフを討伐することができる連中である。
パーティーリーダーであるダンは、御者以外のメンバーが全員満身創痍と言わんばかりに、傷だらけの様を見て悪態を吐く。
「ちッ。なんだってんだ、あの化け物は。急に襲ってきたと思ったら、俺らを弄ぶように動きやがる。知性でもあんのか」
「リーダー! 初級ポーションじゃ、エイナの傷には応急処置程度にしかならない!」
「ハァハァ......まだやれるわ」
「早いとここの場から逃げねぇと保たねぇぞ!」
「魔力だってとっくに切れてんだ。このままじゃマジで死ぬぜ」
そんな焦燥感に満ちるパーティーと相対するのは、一体のモンスターだ。
そのモンスターは狼のような見た目で、襲った馬車と同程度の大きさを誇り、また手足の爪や牙は鋭く弧を描いていた。
銀色の毛並みは鎧の如く輝いており、首や背、尾に金色の防具と思しき物を身に着けている。
両の瞳は満月のように純美だ。しかしその中央、細く鋭利な殺意を宿す瞳は、まさに獰猛な捕食者のそれであった。
そんな一体の謎のモンスターに、冒険者パーティーは壊滅寸前にまで追いやられていたのである。
すると巨狼から人の言葉が発せられた。
『グルルルル......。得物は弱らせてから畳み掛ける......狩りの基本............王の教え』
女性のような高い声。それでいて腹の底から響かせているような威厳に溢れた声だ。
モンスターから聞こえてくる声に、冒険者たちは驚いた。
「な?! こいつ喋ったぞ!」
「それに......“王”ってなに?」
誰一人として驚愕を隠せない状況で――それは起こった。
カッ。眩い閃光が全員の視界を埋め尽くし、激しい衝突音がこの場に響いた。地面に何かが打ち付けられるようにして、それは現れたのだ。
銀色の巨狼と冒険者たちの間に、一体の黒い虎が。
その黒い虎は雷光を纏って、巨狼を見据えている。
黒い虎が口を開く。
『ほう。これまた珍しいな。吾輩と同格か』
銀色の巨狼が口を開く。
『なんだお前......は............』
そして巨狼は次第に目を見開いていった。
『これは............ティアとノルのニオイ? それだけじゃない』
巨狼は鼻をひくつかせ、一つの結論に至る。
『王のニオイだッ』
巨狼は先程までの威厳に満ちた声音を捨て去り、まるで少女のような明るい声音で燥ぎ出した。
具体的には大きな尾を左右にブンブンと振り、眼前の黒い虎に注目しているのである。
一方の黒い虎はニヤリと笑った。
『ほれ。まずは吾輩を捕まえてみろ。大切な主人を取り戻したいのだろう?』
『王! 王! 王!』
瞬間、黒い虎は稲妻の如く、この場を走り去る。
そしてやや遅れて、銀色の巨狼もその姿を追ってこの場から立ち去った。
急な出来事に唖然としている冒険者たちは、目をぱちくりとさせて、ただただその場に立ち尽くすのであった。
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