第475話 異世界植物・オホ花、その名の由来は

 「な、なんじゃこりゃあぁぁああ!!」


 朝目覚めた僕は息子がヤバいことになっていて絶叫する。


 何がヤバいのかって言うと、すごく膨張しているのだ。


 息子がここまで熱くなって固くなっているのは初めてだ。まるで媚薬を飲まされたときのような勇敢さを感じる。いや、飲んだことないから知らないけど。


 「「ま、マスターのマスターがいつもよりすごいことに......」」


 『ご、ご主人、いつものことだけどよ、今日は特にひでぇな』


 『こ、今回の王サマは随分と立派なものを持ってるね......』


 見んな。比べんな。


 てか、このロリっ子どもは毎朝僕の息子を観察してたのか? 揃って唖然としちゃってるよ。


 「「マスター、私たちが処理しましょうか?」」


 『王サマ、ティアが手伝ってるあげよっか?』


 「でも急にどうしちゃったんだろ。いつもはここまで酷くないのに」


 「「無視しないでください!」」


 『ひどいッ!!』


 ちなみに僕は昨晩、レベッカさんたちによって椅子に縛られたので、朝起きても縛られたままだった。


 そのレベッカさんたちはこの部屋に居ない。窓辺のカーテンの隙間から差し込む陽の光が、日が昇ってからそれなりに時間が経っていることを示していた。


 ど、どこに言ったんだろ、二人とも。


 まぁ朝立ちを見られずに済んだようで何よりだ。


 そんなことを考えていたら、部屋の扉が数回ノックされた後、誰かが入ってきた。


 「スー君、起きた?」


 レベッカさんだ。


 レベッカさんは両手で抱えるような木箱を抱えて、この部屋に入ってきた。


 そんな彼女と僕は目が合った。


 レベッカさんは僕の股間に視線を移した。


 そしてすぐにその視線を明後日の方向へ移した。


 「今はもう昼過ぎよ。よく眠れたかしら?」


 「おかげさまで」


 さすが大人の女性。僕の性剣エクスカリバーを前にしても平然としてらっしゃる。恥ずかしいから見ないでほしかった。


 「あの、いい加減、この縄を解いていいですか?」


 「私を襲わないと誓うのなら」


 「僕の股間を見てくださいよ。説得力皆無です」


 「そ、それは自分で言うものかしら......」


 レベッカさんは木箱を机の上に置いて、ベッドの上に腰掛けた。


 彼女は愛も変わらずエロス漂うタイトドレス姿で、僕は彼女の組んだ足から目が離せない。


 「ちょ、ちょっと。血走ってるわよ、目」


 「うっ。それがその、今朝から息子が落ち着かなくて......。それになんか熱いですし、頭がどうにかしちゃいそうです......」


 僕が情けなくも包み隠さずに言うと、眼前の美女は苦笑しながら言った。


 「えっと、実はそれ、シスイちゃんがスー君の股間に【回復魔法】を使ったことが原因なのよ」


 「ん??????」


 それから聞かされる僕の知らない僕の股間事情。


 マジか。シスイさん、無知故に勃◯状態の息子に【回復魔法】を使ったのか。そら勃◯が治まらないわけだ。


 『んー。でも聞いた感じ、それって王サマステッキに【回復魔法】をかけてから大分経つんでしょ。効果がここまで長引くのは変でしょ』


 僕のち◯こを変身できる魔法のステッキみたいに言うのやめようか。


 これで変わることができるのは、世間様が僕を見る目だけだから。


 すると意外なことに、博識のドラちゃんがティアの言葉に便乗する。


 『だな。【回復魔法】を生殖器に使うと、一時的に元気になるだけだ』


 「へぇー。あれ、なんでそんなこと知ってんの?」


 『え? あ、いや! えっと、前のオレの契約者が娼館でそういうやり方してたから......』


 お、おおう......。聞いちゃいけないこと聞いちゃったよ。ごめんね。


 ん? ということはドラちゃんって前の契約者たちのセッ◯スを見てきたってこと?


 つよ......。


 何が強いのかわからんけど。


 『そらあの嬢ちゃんから唾液を注がれたそうなるわな。まだ半端に堕天使化してっし』


 と、レベッカさんの腰に携えてあった真っ赤な鞭、ベンちゃんこと<討神鞭>が言った。


 え、ちょ、唾液? シスイさんの?


 理解が追いついていない僕を他所に、<打神鞭>が続ける。


 『昨晩、あの嬢ちゃんは寝ている坊主にキスしまくってたぞ』


 「「「「『『な?!』』」」」」


 僕らは彼の言葉に驚きを隠せなかった。


 『たぶんそんときに、坊主の中に堕天使の体液が入り込んで、身体に異常を来してんだろ。ある種の拒絶反応みたいなもんだ』


 「ま、待ってください。あのシスイさんが僕に? なんで起こしてくれなかったんだ......」


 「し、シスイちゃん、なんて恐ろしい子......」


 「「ズルいです!」」


 『ティアが寝ている間に王サマの唇を奪うなんて......許せない!』


 『ご主人って本当に唾液に縁があるよな......』


 だからその評価やめろッ。好きで飲んでんじゃねぇんだよ!!


 いやしかしそうか、この一向に治まる気配が無い息子はシスイさんの唾液のせいか......。


 僕は軽く咳払いしてからレベッカさんに問う。


 「ちなみにシスイさんは今どちらに?」


 「聖女のお勤めよ」


 「まだシスイさんの瞳の色はもとに戻ってないんですよね」


 「ええ。『それでも聖女ですから』らしいわよ」


 レベッカさんは苦笑しながらそう言った。


 そうか......。彼女が選んだ道だ。もう何も言うつもりは無い。おそらく例の如くサングラスか、目元を隠すような物に頼っているのだろう。


 するとレベッカさんが僕の股間をじっと見つめてきた。


 実はこの人、部屋に入ってきてから、チラチラと僕の股間を見てくるのである。今はガン見だけどな。


 そんな彼女は視線をそのままに聞いてくる。


 「苦しい?」


 おっと。この流れはもしかして、もしかすると、大人のフィーバータイムに入っちゃうチャンス到来だろうか。


 僕はごくりとダマのある唾を飲み込んだ。


 「筆下ろしお願いしますッ」


 『“はい”か“いいえ”で答えろよ』


 「ふふ。ほんっとスー君って正直よねぇ」


 レベッカさんは困ったように、それでいてどこか面白そうにくすくすと笑う。


 「でもだーめ♡ するならシスイちゃんと一緒じゃないと、あの子が可哀想じゃない」


 おっと今聞き捨てならないことを言われたぞ。


 そうか。僕の初体験は3Pかもしれないのか。夢が膨らむぜ。


 いや、膨らんでいるのは海綿体だけど。


 「よいしょっと」


 僕がそんなことを考えいると、レベッカさんがなにやらこの部屋に持ってきた木箱の中から、植木鉢に入った植物を取り出した。


 その植物はチューリップのような見た目で、真っ赤な花びらが特徴だった。またその赤い花びらには白い線が三本、横に並んでいて見たことが無い変わった花であった。


 「なんですか、これ」


 「オホ花よ。南方の熱帯地域で生息している花ね」


 そ、そうすか。僕は植物鑑賞なんかしてる場合じゃないんだよな......。


 インヨとヨウイがオホ花と呼ばれる綺麗な花を指先で突いて遊んでいるが、安易に触って大丈夫なのかな、その花。


 レベッカさんは説明を続けた。


 「実はそれ、一部の貴族の間では人気商品なの。みたい」


 「..................は???」


 僕はレベッカさんの言ったことが理解できなかった。


 いや、聞き取れなかったのかもしれない。


 が、彼女は続ける。


 「オホ花を見なさいな。この花弁の壺の中にはローションっていうとろとろの蜜があって、男はその中に自身の生殖器を突っ込むのよ。抜き挿しを繰り返して、最後はびゅ〜って」


 オ◯ホじゃねーか。


 「ちょ、なんちゅーもんを持ってきてんすか」


 「だって仕方ないじゃない。少し前の私なら、スー君の性処理くらい手伝ってあげてもいっかな〜って思っていたけど、今はシスイちゃんが居るし」


 「い、いやいや。だからってこんな気色の悪い花には頼りたくないですって。パイ◯リしてください」


 『さり気なく注文すんな』


 「とりあえず......えいッ」


 「いたッ」


 レベッカさんは腰に携えていた<討神鞭>を取り出して、年甲斐もなく可愛らしい掛け声と共に、僕を鞭で打ってきた。


 え、なに、急に何すんの。


 すると次の瞬間、僕は身体に力が入らないことに気づく。指すら動かせない状況だ。


 こ、これは......麻痺か?!


 「何の真似ですか?!」


 「なにってスー君を痺れさせて動けないようにしてるだけよ。抵抗されたら意味ないじゃない」


 という彼女だが、一応、首から上は動くし、息子もピコピコできる。器用に局所だけ麻痺させたって感じだ。すげ、こんなことできんの。職人かよ。


 レベッカさんが人差し指を立てる。


 「スー君、昨日、シスイちゃんと交わした約束覚えてる?」


 「え?」


 「今晩、街でデートする約束よ」


 「あ」


 そう言えば昨日、そんな話してたな。厳密には、レベッカさんが提案してきた、だが。


 曰く、せっかくだからシスイちゃんと食事でもしてきなさいな、と。


 シスイさんに向かってデートと言わないのが、彼女らしい大人の小狡いところである。


 ちなみにシスイさんは、日が暮れるまでにはお勤めをやり切るって言ってたらしい。よくわからんけど、聖女様の仕事って、そんなやる気でどうにかなんの。


 「デートしたいのは山々ですが、この股間じゃ......」


 「だからオホ花を持ってきたの。聖国で手に入れるの、本当に苦労したのよ?」


 レベッカさんがパイ◯リやフェ◯、手◯キをしてくれれば、そんな苦労せずに済むと思うのは僕だけだろうか。


 レベッカさんはそのオホ花をインヨたちに渡した。


 僕は嫌な予感がした。


 「インヨちゃん、ヨウイちゃん、今からあなたたちはご主人様の◯◯を搾り取るの。オホ花を使って」


 「「おおー!! レベッカ、大好きです!!」」


 「おほほ。とても現金で良い子ね〜」


 「おいこら待て。インヨとヨウイに何させようとしてんだッ」


 『お、オレはまだ見てるだけでいいや』


 見てるんじゃなくて止めろや。


 レベッカさんが部屋を出ようと歩き出した。


 「別にティアっていう妖精に頼ってもいいわよ?」


 『交代ね!』


 「待って待って! 本当に待って! 僕はこんなエッチは望んでない!」


 僕が必死にそう訴えると、レベッカさんは振り返って小悪魔的な笑みを浮かべた。


 「エッチじゃなくて自慰行為の範疇よ♡」


 可愛らしくウインクを添えて。


 「じゃあね〜。夜までには済ませるのよぉ」


 「ちょ、せめてレベッカさんがやって――」


 バタンッ。部屋の扉は無慈悲にも閉ざされるのであった。



******



 「ちょっと味見したかったけど、我慢よねぇ......」


 鈴木が居る部屋を後にしたレベッカは、その部屋の前で、扉に背を預けてそう呟いた。


 シスイが鈴木を想うように、この女傭兵もまた鈴木に好意を抱いていたのだ。


 そんなレベッカは、今回選んだ手段を少しだけ後悔していた。


 なんせインヨとヨウイに渡した植物オホ花は、世の男性を快楽のどん底に突き落とす程、圧倒的な性処理能力を有しているのだから。


 そしてその“オホ花”という名称の由来は――。


 突如、部屋の中から鈴木の悲鳴にもならない絶頂の声が聞こえてくる。


 『オ゛ッ、ホぉぉぉお!!』


 「......ごめんね、スー君」


 申し訳なく思うレベッカは目端に涙を浮かべるのであった。

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