第457話 縛られて悦ぶとでも?
「調子に乗るな......人間風情が」
龍化した<2nd>の腕が、肘の辺りから先が無かったのだ。
それは疑いようのない、今しがた鈴木が投擲した土の槍が貫いた結果である。
ただの土で作った槍が、<2nd>の龍化した強靭な腕を貫いたというのか。その事実に<7th>と<6th>は動揺を禁じ得なかった。
しかしそれは至極当然のことであった。
土の槍の生成と、今の鈴木を全身強化状態にした【賢愚精錬】。
そして以前、鈴木が人造魔族ヘラクレスから得た核の力――【固有錬成:牙槍】。
(【牙槍】は自身が放ったものに付与するスキル。その効果は......防御不可避の攻撃で、我々は回避する他無い。......本当に厄介な存在になったもんだ)
以前、鈴木がヘラクレアスと戦って勝って得た力であることを知っている<1st>は、このことを予め部下たちに伝えていなかったことを後悔する。
そして鈴木の周辺には、いつの間にか大型の弩砲が数十と生成されていた。
「お、おいおい......マジかよ」
<6th>が眼前に広がる光景に息を呑む。
もし全ての弩砲に【牙槍】が付与されていたら?
そしてそれらが一斉に放たれる。
「支援します」
が、<
<7th>が仲間に向けて即座に【身体能力強化魔法】を行使して、弩砲が放った数々の巨大な土の槍を回避しやすくした。
掠れば致命傷。直撃すれば即死。そんないつ死んでもおかしくない状況下で、ただ一人、避けもせずにただ立ち尽くしている者が居た。
「二度も当たるか、そんなもの」
<2nd>だ。
<2nd>は瞳孔を細めて鈴木を見据える。剥き出しの牙が少女の怒りをあらわにしていた。まさか下等な人間に片腕を持っていかれるとは思ってもいなかったのだ。
鈴木を獲物として狩るべく絶対的な覇者――龍種が動き出す。
失った片腕の傷を治すこともなく、<2nd>は爆ぜるようにして跳ぶ。<7th>の補助を受けた今、<2nd>は迫る槍の大群を全て避けきり、鈴木へと急接近した。
それに合わせ、<7th>が風属性魔法を発動し、鈴木がいつ【泥毒】を使っても問題ないように風向きを調整する。
そして<2nd>があっという間に、鈴木を間合いに収めた。
「その目に焼き付けるといい。これが......魔の至高だッ」
<2nd>の手に光が収束し続け、一気に熱を孕んだ。
それを見た<1st>が<2nd>を呼び止めようとしたが、遅かった。
「ちょ――」
「【宵闇魔法:光ノ闇】」
瞬間、視界を白一色に染める閃光が辺り一帯を埋め尽くす。
が、それは束の間。
一瞬にして光が闇に呑まれる―――闇が爆ぜる。
ありとあらゆる物から景色を、色彩を、生命を奪い、黒で塗り潰す果てしない闇が大地に生まれた。凄まじい衝撃が爆風を巻き起こし、破壊の限りを尽くす。
やがて周囲一帯が色を取り戻した後、静寂がその場を支配する。
鈴木は......
「かはッ」
それでも生きていた。
口から血を吐き出しているが、戦闘時の黒ずんだ深緑色の肌は元の色へと戻っており、下着一丁しか身に着けていない。戦意すら感じられないほど満身創痍であった。
否、意識すらなかった。
「ズッキー!」
<1st>が柄にもなく慌てた様子で駆けつける。
「死んじゃう死んじゃう。<7th>! 早く彼を助けてあげてくれ!」
そんな<1st>の呼び声に、<7th>は落ち着いた様子でその場に到着し、呆れた様子で応じる。
「放置でいいのでは?」
「ふはははは! やはり私は最強の龍だ!」
「う、うわ。よくアレを食らって生きてんすね......」
<2nd>はいつの間にか失った腕を再生させており、両手を腰に当てて高笑いを決めている。<6th>はもう色々とドン引きであった。
******
誰かに攻撃された気がした。
たぶん寝込みを襲われたんだと思う。
すごい嫌な感覚だった。
ギュロスさんから拷問に等しい数々の苦しみを与えられてきた僕だけど、それよりもヤバい感覚だった。言うまでもなく、ジュマの呪いなんか屁でもないくらい。
生理的嫌悪感なんてものじゃない。
心臓が誰かに握られて、いつ潰されてもおかしくないような、生を弄ばれている感じだった。そのくせ、僕が苦しむのを楽しむように、時折心臓を強く握られては、解放されることを繰り返される。
そんな恐怖が僕を支配しようと襲ってきたんだ。
でも大丈夫。僕には抗う力がある。
意識が無くても戦えるように......誰かのために立ち向かえるように、多くの【固有錬成】がある。
意思なんて要らない。考えなくていい。ただ最善と思えるタイミングで、最適な【固有錬成】を使って、敵を排除すればいいんだ。
それだけで――。
『おーい。生きてんすかー』
???
誰だ、この声。
『お。反応あり。ちゃんと生きてるみたいっすね』
え゛。
『急に知らない人に声を掛けられて驚く気持ちはわかんすけど、あんたさっきまで暴走してたんすよ』
暴走?
ああ、無意識に力を使ってた覚えはあるな。
というか、この誰だかわからない人に、僕の心の声が聞こえている?
『聞こえてるっすよ』
マジか。ギュロスさんだけにしてくれよ、そういうのは......。
男相手にセクハラしたって何も面白くないじゃないか。
おっぱいをしゃぶりたい。
『うお。キモッ。いきなり何を言い出すんだ、こいつ。頭狂ってんのか』
ほら、この反応。
ギュロスさんだったら『嫌』の一言で冷たくあしらってくれるのに。ハァハァ。
『うえ......』
まぁ、それはさておき。
あなたは誰ですか?
『俺は<6th>。<
え、なんでまた幹部が......。
声からして僕と歳がそう遠くない男性な感じがするけど。
『俺のことは置いといて。あんた、目覚めたらまた暴走するんすか?』
しない、とは自信を持って言えないな。だって原因がわからないんだもん。僕が暴走した原因が。
『ああ、それは<8th>があんたに精神攻撃をしたからっすね』
“精神攻撃”?
『そっす。ボスがあんたの精神面の成長が見たいとかなんとか言って、<8th>に指示したんすよ。スキルを使って精神的に攻撃してこいって』
<1st>め。ぶっ飛ばしてやろうか。
『じょ、冗談とは言え、よくボスに向かってそんなこと言えんすね......』
冗談ではありませんが???
『......。』
しかしまた知らない幹部が出てきたぞ。<8th>って誰だよ。
その<8th>って人の【固有錬成】のせいで、僕は精神的に追い詰められて暴走状態に陥ったのね。本当に今までに味わったことが無いほど苦しかったな......。
というか、今更ながら、僕はヤバい連中に居る所で熟睡していたのか。
『とにかく、もう大丈夫そうなら起こすっすよ』
途端、僕は意識が浮上するように目を覚ました。
目を開けると、夜空の景色が広がっていた。
それと宙に光沢の無い黒い槍が複数、プカプカと浮遊していて、その先端が僕を捉えている。今にも僕を刺し貫かんと浮いている気がした。
僕は手足を鉄鎖で厳重に縛られていて、またパンツしか身に着けていない。
背中から伝わる冷たくて硬い感触は、僕が寝かされている場所がベッドなどの上ではないことに気付かされる。平たい石の台の上に縛り付けられている感じだ。
なにこの状況。
そんな僕の上......下腹部の上に、天色の癖っ毛が特徴のロリが一人、ちょこんと跨っている。
サースヴァティーさんだ。
「サースヴァティーさん、もしかして僕の入ってます?」
「聞き方。六百年守ってきた操をそう簡単には渡せないな〜」
良かった。僕も十数年間、捨てたくても捨てれなかったとは言え、童貞をロリで失わずに済んだ。
とりあえず、真っ先に確認したいことは確認できたので、ここで一言。
「だからなに!! この状況ぉ!!」
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