閑話 [パドラン] え、ちょ、どういうこと・・・

 「はぁ。スズキはいつになったら戻ってくるんだ」


 と、ルホスが何度目かわからないことを呟く。


 オレらはアーレスの家で脱力しきっていた。


 オレは仮面の状態でテーブルの上に置かれているから、別にダラけたくてダラけているわけじゃねーけど。


 この場にはルホスの他に、姉者と妹者、ウズメ、アーレスが居る。皆、静かに時を過ごしている感じだ。


 昨日、王国の第一王女アウロディーテの存命を、国を挙げて祝っていうのに、今日も街中の賑やかさは続いている。また王宮も王宮で、別の意味で賑やからしい。


 めちゃくちゃ忙しいって、アテラとかいう姫様が言ってた。


 五年前、死んだと思われたアウロディーテが実は生きてたって話題で、王宮内は色々と大忙しみたいだ。


 アウロディーテを今まで苦しめてきたのは、本人の証言からハミーゲとかいう貴族派の公爵の息子が黒幕だと判明したが、証拠なんて物は無いし、相手は否定の姿勢らしい。そりゃあそうだ。証拠がなきゃ罰せられないもんな。


 ま、オレには人間のいざこざなんて知らねぇーけど。


 つか、そんなことはどうでもいい。この国の王族貴族のことなんてどうでもいいんだ。


 問題は......ご主人が居ないことだ。


 『あ゛ー』


 「はぁ......」


 妹者と姉者がそんな情けない声を漏らしていた。姉者のは溜息程度だけど、妹者なんて死にかけのゴブリンが出すような声を漏らしてる。


 正直、かなり限界が近いと思っている。


 ご主人、アウロディーテに呪いをかけた奴を追って、どっかに行っちゃったんだよな。


 オレやインヨとヨウイの契約が消えていないから生きているとは思うけど、正直、いきなり離れ離れになるのは辛い......。


 ちなみにオレら<三想古代武具>はご主人と契約しているけど、元々姉者や妹者たちから魔力を供給してもらっていたからか、ご主人が居なくても二人から魔力を供給してもらうことができた。


 だからか、インヨとヨウイは中々ご主人が戻ってこないからイジけて、ご主人が使っている部屋に一日中引きこもってやがる。


 全部、ご主人が悪い。


 やること終わったんなら早く戻ってこいよ。


 「戻ったぞ!」


 バンッ。部屋の戸が開かれて入ってきたのは、人の姿に化けた神獣ヤマトだ。


 その容姿は褐色肌の巨乳美女だから、ご主人がヤマトを目にしたら鼻血を出しそうだ。卑猥な女め。


 元々、先の騒動、王都で暴れるという役目があって人化したっていうのに、あの姿で普通に街をほっつき歩いてやがる。なんでも、虎の姿のときよりも人受けが良くて、いろんな店主からサービスを受けやすいだとか。


 どうやら人々はヤマトが先日暴れた人物とわかっていないらしい。


 ヤマトが何やら紙袋の中から焼き菓子っぽいのを取り出して、それを行儀悪く食べながら言う。


 「なんだ、お主ら、まーだ怠けておるのか」


 『ご主人がいねぇーんだ。そりゃあやる気なんて出ねーって。アーレスなんか遂に無断欠勤してっからな』


 「無断欠勤ではない。気分が優れないから休暇を取っただけだ」


 「よくクビにならんな、お主」


 アーレスはソファーに座って新聞を読みながら受け答えをしていたが、平常心を装っているようで、実はそうじゃない。


 手にしている新聞が逆さまだ。もはや読んでない。何してんだ。


 「スズキぃ」


 「スズキさん......」


 ルホスとウズメは床に寝そべって天井を見上げているし。


 少し前までならご主人が居ないという寂しさを紛らわすために、この国の教会に遊びに行っていたが、やはり気を紛らわすにも限界があるようで、今はもうただただご主人の帰りを待っていた。


 最近、皆ずっとこの調子だから、オレもうんざりしている。


 だからか、オレは姉者たちに話しかけることにした。


 『なぁ。ご主人はこの国の王女に呪いをかけた術者を追っていったんだろ』


 「ええ」


 『無事かな? 生きているとは思うけど、返討ちにされていたとかない? オレ、そこがすげぇー心配なんだけど』


 「その気持ちはわかりますが、杞憂でしょう」


 『?』


 『たしかに今の鈴木は一人だ。あーしも姉者もついてねぇー。でも......鈴木は明らかに強くなってんぜ』


 「はい。正直......今の鈴木さんが怖いくらいです」


 あ、姉者がそこまで言うなんて......。


 しかし姉者の言葉を聞いても、オレより心配性なウズメが声を上げる。


 「で、でも、今のスズキさんは魔法も使えないんですよね?! たしかにスズキさんには多くの【固有錬成】がありますが、それだけではないですか」


 『逆だ。で勝てると確信してっから、鈴木は一人で行ったんだよ』


 なんかその話を聞くと、ご主人が急にどこか遠くへ行っちまったような気がして、不安な気持ちになっちまう。


 妹者がなんとなしでぼやく。


 『にしても鈴木のやろぉー、白髪になってたなー』


 「「え?!」」


 ルホスとウズメが驚いた声を上げた。


 「す、スズキ、なんで老けたの?! もしかしてハゲるの?!」


 「す、スズキさんハゲるのですか!」


 『ち、ちげぇーよ。よくわかんねぇーが、目を覚ましたら白髪になってたんだよ。ありゃストレスから来るやつだな』


 「それってハゲもあり得るってことか?!」


 「まぁ、可能性としては無くは無いです」


 なんで話題がご主人の頭髪事情になってんだ。


 「は、ハゲたスズキか......。ウズメはどう思う?」


 「ふぇ?! わ、私ですか? は、ハゲが嫌いなわけではありませんが、スズキさんには......えっと、ま、まだファサファサでいてほしいです」


 “ファサファサ”。すげぇ表現。


 と、そこで焼き菓子を食い終わったヤマトが会話に入ってくる。


 「なんだ。人間なんぞ元から毛無しみたいなものだろう。どこもかしこもツルツルじゃないか」


 『ばっか。おめぇーの目は節穴か』


 「にしても鈴木さんがハゲていたと思うと......


 何が?????


 『ハゲ......ハゲ......ハゲかぁ。あーしの【固有錬成】なら髪の毛復活するかな』


 「それ、遠回しにハゲは嫌って言ってません?」


 「アーレスはどうなんだ? ハゲたスズキ」


 とか、ルホスが黙っていたアーレスに問う。


 アーレスは組んでいた足を解き、その足を入れ替えるようにして組み直した後、静かに口を開いた。


 「ヘルムを被れば、そこまで気にならん」


 「「「『『......。』』」」」


 いっちゃん最悪な回答だな。


 オレがそんなことを考えていたら、


 ――――来て――――


 そんな誰かの声が、直接頭の中に響くようにして聞こえてきた。


 あまりの言葉の短さに、誰がなんて言ったのか聞こえなかった。


 『ん? なんだこの声』


 オレがそう呟くと、皆がオレに注目してくる。


 「どうしました? ドラちゃん――」


 そう、姉者が声をかけてきたときだ。


 ――ドラちゃん、こっちに来て!――


 ?!?!?!?!?!


 ご、ご主人の声?!


 そんなオレの驚愕を他所に、オレを異空間に閉じ込めている仮面がカタカタと震えだした。


 こ、これって......遠くに居るご主人に呼ばれてる?!


 瞬間、オレはアーレスんちの壁を突き破って、空へと旅立っていった。



******



 ガシャン。


 『う、うぅ......』


 まるで何かに引き寄せられているかのようにして、ものすごいスピードで空を飛んだ後、オレはどこかの城っぽい建物がある場所の付近の地面に落下した。


 いったいなんだったんだ......。


 いや、これはあれだ。


 <三想古代武具>と契約しているご主人がその力を使って、遠くに居るオレのことを呼び出したんだ。ただそれには魔力が必要だって聞いたんだけど......なんで今魔力が無いご主人がオレを呼び出せるんだ。


 呼ばれたオレは、辺りを見渡した。


 すると、


 『ご、ご主人!!』


 すぐ目の前にご主人の姿があった。


 が、オレのそんな歓喜に満ちた声は、今のご主人の状況を見て、間の抜けたものへと変わっていく。


 「んー!」


 「んちゅ」


 『え゛』


 石の台の上で縛られているご主人が別の女とキスしていやがる......。

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