第446話 命を懸けて嗤うモノ

 「な?! 貴様!! どうやってここに来た?!」


 僕は暗殺者ギルドと呼ばれる場所に来ていた。


 辺りを見渡せば、そこそこの人数がこの場に集っていた。ざっと見て三十名ほど。きっと全員暗殺者ギルドに所属する者だろう。


 僕は問い詰められても、それを無視して告げる。


 「僕は美少女限定ヒーローなんだ。鬼じゃない。全員殺すつもりは無いよ。逃げたい奴は逃げればいい。ただし......」


 僕は人差し指で眼前の老人――ジュマを指して言う。


 「あんたは逃さない」


 その言葉に、ジュマが瞳を細めて僕を見据える。


 「ひひッ。そうか、お前が第一王女の呪いを肩代わりしたのか」


 まぁ、肩代わりしたと言っても、体感ではほんの少しの間だけなんだよね。


 どちらかと言えば、ギュロスさんの精神世界で二年間もの間、いろんな痛みを味わってきた方が辛かったわ。


 「はッ! この場に一人で来たことを後悔するがいい!!」


 「お前ら、力を貸せ!!」


 「全員でこいつを殺すぞ!」


 おっと。誰も逃げずに僕を殺しに来たぞ。思ったよりも根性あるじゃないか。......いや、僕みたいな不審者に何を言われても退くわけが無いか。


 暗殺者ギルドに所属している者たちは、僕に向けて一斉に魔法を放ってくる。


 僕は自分でもわかるくらい、低い声を出して呟く。


 「なら全員死ぬだけだ」


 突如、地面や天井から人ひとり容易に押し潰す土の槍が突き出る。


 暗殺者ギルドの者たちは、足場を崩され、呆気なく土の槍に貫かれたり、押しつぶされて死んでいった。


 中には不意な攻撃を察知して避ける者もいたが、土の槍の数が多すぎて、回避も防御も間に合わずに命を落としていった。


 プチプチ、プチプチ。人という肉塊が圧倒的な物量に押し潰される音は、絶対にそんな可愛らしい音じゃない。


 でも聞こえないんだ。


 土の槍の出現が、この暗殺者ギルドを崩壊させている最中だから、人間が押し潰される不快な音なんて聞こえやしない。


 でも代わりに、


 「ぎゃぁぁぁぁああああ!!!」


 「誰かぁ!! 誰か助けてくれぇぇぇえ!!」


 人々の断末魔は鮮明に聞こえた。


 また、それでも僕に魔法を放ってきた者もいたが、それらの魔法は僕に直撃しても殺すことはできなかった。


 当たり前だ。僕は攻撃を食らったと同時に、【固有錬成:害転々】でまだ生きている者に怪我を転写させている。


 だから僕は怪我なんてしなかったし、なんなら一歩も動いていない。


 やがて暗殺者ギルドは崩壊し、瓦礫と死体の山と化した成れの果てが夜空の下に晒される。


 月が静けさを取り戻したこの場を照らしてきた。


 ここは......どこかの森の中だろうか。ギルドがあった場所は人気なんて皆無な深い森の中らしい。


 「夜......か。ここがどこかはわからないけど、王都に居た時は昼間だったから、きっとここは他国のどっかなんだね」


 僕は近くの瓦礫の小山に腰掛けて、頬杖を突いた。


 まだ生きている者が居るのか、崩壊しても各所から人々の呻き声が聞こえてくる。


 まぁ、それも時間の問題だろう。


 「ひひッ。笑えないねぇ。ああ、笑えない......」


 そんな中、ただ一人、この無惨な光景になるまで何もせず、突っ立っていた人物が呟いた。


 ジュマだ。


 ジュマは呆れたように嘲笑していた。


 僕も馬鹿にするように返してやった。


 「ね? 弱すぎて笑えないよ。暗殺者ギルドの人たちって、に陰でこそこそすることしかできないから、真っ向勝負には弱いのかな?」


 「......どうやってこの場に来たのか、教えてくれないかねぇ?」


 「ん? ああ、それは僕のスキルで、ね」


 「スキルだと?」


 ジュマは辺りを見渡した。


 僕が先程、土の槍という圧倒的な物量を見せつけたのが、魔法によるものではないと理解しているんだ。


 ならばあの攻撃はなんだったのか。当然、その考えの行き着く先は――【固有錬成】になる。


 じゃあ、僕が言ったことは?


 僕がこの場にやって来れたのは【固有錬成】によるものだと告げた。


 土の槍を形成した【固有錬成】と、ジュマと共に転移してきた【固有錬成】。きっとそれだけで、ジュマという老人には気づかれているだろう。


 「ああ、そうか。......お前があの噂の<口数ノイズ>か」


 「正解」


 やっぱ複数の【固有錬成】持ちは目立つか。


 僕は、よっこらせ、と重たい腰を持ち上げた。


 「さて、邪魔者は居なくなったけど、大人しく捕まってくれないかな」


 「はッ.....そんなどす黒い殺意を私に向けておいて何を言うか............


 ああ、バレてしまったのなら仕方ない。


 抵抗してくれなかったら、僕のこの怒りをどう鎮ればいいのかわからないよ。


 僕は堪えきれない笑みを隠すように、口元を押さえながら言った。


 「簡単に死なないでよ。僕はまだ......加減が苦手なんだ」


 「ひひッ。死なんて生ぬるい苦しみを与えてやろう」


 そして僕とジュマの戦いは始まった。

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