第442話 超ハードSMプレイ
「うぉぉぉああああああああああああ!!」
「頑張って」
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬじぬぅぅぅううう!!
現在、僕はギュロスさんから拷問を受けていた。
ギュロスさん曰く、現実世界で僕が食らった【呪法】に耐えるためにも、この精神世界で、精神を鍛えてあげるとのこと。
鍛える方法は至ってシンプル。激痛を味わい続けるのみ、だ。
ギュロスさんが同じく【呪法】を使って、僕をいたぶっているのである。
どういう痛みかと言えば、全身を針で抜き刺しすることを繰り返される地獄だ。
「じんじゃうじんじゃうってばぁぁあああ!!」
「大丈夫。まだ初級の初級」
「?!?!?!?!」
この人は何を言っているのかな?! 話が通じてないんですけど!!
「徐々に強くしていく。これも君のためだから」
ギュロスさんはそう言って、地面で転げ回る僕に向けて、手のひらを前に出してきた。
瞬間、最初に見たときよりもどす黒い瘴気を放つ魔法陣が展開された。
「あ、ちょ、待っ――」
「そろそろ中級に入ろ」
「いやぁぁぁぁぁああああ!!!」
*****
拷問生活、一日目。
「あひ......あひ......あひ......」
「......ちょっと加減間違えたかも」
僕は人語を忘れた。
*****
拷問生活、二日目。
「はぁはぁ......い、生きてる?」
「良かった。今日は理性を失わせないよう調整できた」
「ぎゅ、ギュロスさん、もうこんなこと止めて......」
「でもちょっと物足りないかも。えい」
「ぐああぁぁぁああああ!!」
僕はやっとの思いで這い上がった崖から、また突き落とされた。
*****
拷問生活、十日目。
「嫌だ! 嫌だ! もう嫌だ!」
「こら、逃げちゃ駄目」
うるせぇ! 僕はおうちに帰るんだ!
「仕方ない。膝枕してあげる」
「わーい」
「えい」
「ぬぉぉぉおおおおおお!!!」
僕はハニトラの恐ろしさを知った。
******
拷問生活、三十日目。
「今日は座学」
「え?」
「“痛み”をよく理解するには、人体がどうやって成り立っているのか、どうしたら壊れるのか、どこを刺激すれば激痛が走るのかを知るべき」
「は、はぁ」
「試しに君の息子を例に、ここをこうして、ここら辺の内側を見るために裏返してみると......」
「おえぇぇぇええええ!!」
「汚い」
僕はアダルトビデオの無修正を愛せなくなった。
******
拷問生活、五十日目。
「女王様ぁぁぁああああ!!」
「うるさい」
「あひん!」
僕は従順な豚にジョブチェンしてた。
「え、赤いロウソクも使ってほしい? なぜ赤?」
そんでもって、醜くくも、自らご褒美を所望していた。
******
拷問生活、九十日目。
「ふぅ。今までかなり多くの【呪法】を食らってきましたが、こうして話せるくらいには慣れてきましたね」
「素晴らしい。ところで、なんで私の下に居るの?」
「僕は椅子ですから」
「ここ三日近く四つん這いになっている気がするけど」
「椅子ですから」
僕は椅子に成り果てていた。
******
拷問生活、百日目。
「あの、僕の髪の毛、真っ白なんですが」
「今さら? 一ヶ月くらい前から真っ白だったよ」
「......。」
僕の髪はストレスでいつの間にか真っ白になっていた。
******
拷問生活、三百六十五日目。
「よく考えたら、もう一年経つのか、この世界に僕が居るの」
「うん」
「僕ら、毎日一緒に居ますし、もはや夫婦みたいなものですよね。子作りしましょ」
「それはできない。私は武具だから」
「......オナホにしても?」
「本当にすごいよ、君、色々と......」
ギュロスさんに呆れ果てられていた。
******
そして拷問生活――七百三十日目。
「驚いた。痛みで思考が鈍らずに、ここまで戦えるなんて」
僕の前に立っているギュロスさんは、彼女を囲むようにして異なる属性の魔法陣をいくつも展開していた。それらの魔法陣はまるで銃口を突きつけるようにして、僕に向けられている。
一方の僕はというと――全裸で仁王立ちしていた。
「これも全て女王様のおかげです」
「違う」
「すみません。ギュロスさんのおかげです」
なんと二年も経ってしまったのだ。僕がこのギュロスさんの世界に来て、二年もの月日が、だ。
最初は地獄のような日々だったけど、途中で女王様の忠実なる豚となり、物言わぬ椅子となり、何かの拍子で戦闘訓練も積まされる羽目になったけど、概ね順調に僕は成長していった。
今もギュロスさんと僕は戦っていた。
彼女は魔法陣を幾重にも展開して殺す気満々で僕を襲ってきた。
僕は相も変わらず、彼女に拷問なんて生ぬるい痛みを受ける呪いをかけられたまま応戦していたのである。
ちなみにここは現実世界と時間の流れが違うから、ここで二年過ごそうと、元居た世界は一日も経っていない計算なので、本当にこの世界は不思議だ。
「それは少し違う」
「え?」
僕がそんなことを考えていると、ギュロスさんが僕の思考に対して否定してきた。
「実は少し前からこの異空間の時間の流れ方が変わってきた」
「それはどういう......」
「君との戦いで、私がこの異空間の存在を維持することがままならなくなった」
「つまり?」
「時間の流れ方にまで影響が出て、ここでの一時間はあっちで三十分に相当するときもあったし、逆に何日経っても現実世界では一秒すら経っていないこともあった」
おおう......マジすか......。
まぁ、後半なんて酷かったもんな。休み無くドンパチやってた気がするよ。
ちなみに今の僕の身体には魔族姉妹は居ないので、僕は二人の魔法を使えない。使えるのは【固有錬成】のみだ。
それでギュロスさんと戦闘を繰り返していたのである。ギュロスさん、手加減してくれたと思うんだけど、全然優しくなかったな。
「優しかったら訓練の意味が無い」
ですよね。
「それに君が新たに目覚めた【固有錬成】......あれはズルいよ」
「たしかに、あと一歩で僕の勝ちでしたよね」
「......私が全力を出していれば余裕だった」
だからなんだよ。可愛いか。
「で、現実世界の方もいい感じに時は進んだ」
「お。ということは......」
「ん。訓練はお終い。元居た世界に戻ろうか」
おおー! ついに愛しの現実世界に!!
アーレスさんや肉体を取り戻した美女である姉者さん、果てはズルムケ王国ロイヤル美女姉妹たちに会えるのか!!
いやぁ、嬉しいなぁ。ムフフフ。
「......。」
あ、こんなこと考えちゃ駄目だ。ギュロスさんが妬いちゃ――
「妬いてない」
妬いてないらしい。
早いな、この照れ屋さんめ。
無意識に自身の頬を膨らませてたの、僕が気づかないとでも思ったのか。ベール越しでもバレバレだったぞ。
「え? 嘘」
と、不意を突かれたギュロスさんが慌てて自身の両頬に手を当てて、そこが膨れていないか確かめ出した。
無論、膨れていない。僕の嘘である。
「......殺す」
「ごめんなさい!!」
僕が土下座すると、彼女は肩を竦めて呆れながら言った。
「はぁ。君の相手は本当に疲れる」
「へへ、褒めなくてもいいですよ」
「そろそろあっちの世界に送るね」
という、どこまでもドライな彼女は、僕を現実世界に戻すための準備を始めた。
途端、僕の足元が白い陣と共に、淡い光を放ち始めた。それは瞬く間に強く輝き始めて、もうすぐ僕はこの世界とお別れなんだと察した。
僕はギュロスさんに告げる。
「お世話になりました。また来ます」
「二度と来なくていい」
「はは。......寂しくなったら、いつでも呼んでくださいね。いつでも来ますから」
「......考えておく」
そんな短い会話の後、僕の視界は眩い光で白一色に埋め尽くされていった。
なんやかんや言っても、ここでの生活の後半、ギュロスさんから話しかけてくること多かったもんなぁ。
そう思う僕は苦笑するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます