真撰組 〜白龍剣士伝〜

IZMIN

日本編・第1章「フランス大使館襲撃」第1話


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時は1870年6月27日、場所は武蔵国久良岐郡、横浜にて。

街を見下ろせる山中には黒い西洋軍服を着た幕府兵の他にもアメリカ兵やフランス兵、更に背に白文字で誠がある水色のダンダラ羽織を着て刀を腰に提げた人々が居た。

鎖頭巾を被った一人の黒髪の美青年、土方 政宗が横浜の街を見ながら独り言を言う。

「やっとだ、この戦いを制せば英国との戦争は終わって新しい時代が来る」

すると隊長格が立ち上がり幕府兵が叫ぶ。

「突撃!!前へ!」

幕府兵達は他国の小銃を持って叫びながら山を駆け下りる飛び出す。

政宗もモーゼルGew88を持って叫びながら駆け下りる。

「うぉーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

山からの奇襲に横浜を占拠していた英国兵や英国に味方していた薩長の藩兵が驚く。

激しい銃撃戦と白兵戦が起き、政宗はその中を駆け抜けGew88を巧みに扱う。弾が無くなると小銃を捨て左腰に提げてある愛刀、白龍刀を抜きバッサバッサと薩長の藩兵を斬り倒す。

そしては大声で腕を振って叫ぶ。

「俺に続け!勝てるぞーーーっ!」

すると突然、後ろから複数の英国兵がサーベルで政宗の背後に斬り掛かる。それを受けて政宗は血を流して倒れ込む。

「し・・・しまっ・・た」

複数の英国兵は畳み掛けにサーベルで政宗を滅多刺しにする。意識が薄れて行く。

(ああ、人が死ぬ時はこんな感じなんだ)

政宗は心で言いながら自分の過去を振り返る。

時は遡る事、江戸時代後期。ペリー来航がきっかけで動乱の時代になろうとしていた頃に武蔵国、多摩郡の石田村に生まれたのが政宗であった。この時の母、若林は日野宿の佐藤 彦五郎の元で働いていた。

そして6歳になった政宗は働いている母の親代わりで彦五郎に連れられて日野宿の道場に顔を出していた。

ある日、父親代わりとなっていた中年に近い彦五郎の連れで道場に顔を出して政宗はそこで多く門下生を次々と倒す一人の師範代の姿であった。

彦五郎は師範代に向かって大声で呼ぶ。

「トシ!少しは手加減しろよ。全員がもうクラクラだぞ!」

トシと呼ぶ師範代は竹刀を腰に挿して面を取る。その姿はまさに光源氏顔負けの美男子であった。

そしてトシは彦五郎に近づく。

「仕方ねえだろ義兄貴、ここの連中ときたら貧弱すぎて話しになんねぇぞ」

「だからと言ってお前のやり方は荒すぎる。もうちょっと優しく基本を教えないと」

「はーあー、面倒くせぇ」

政宗はジーーっとトシを見つめているとトシはそれに気付いて彦五郎に質問する。

「おい、義兄貴、このガキは?」

「ああ、この子は政宗。最近、家で働いている使用人の子でな。働いている間だけ俺がこの子の面倒を見ていてな」

「義兄貴は優しいな」

「仕方ないだろ。この子の親は母親だけで父親が居ないんだ。家に一人にするのも危ないから俺が面倒見るしかないだろ」

「そう言えば姉貴はどうした?姉貴だったら喜ぶのに」

彦五郎は弱った表情で話す。

「のぶに言ったら、男なんだらたまには貴方がこの子の面倒を見なさいって強く言われて」

トシは笑い出す。

「ハハハハハハハッ姉貴らしいなぁーーっ」

すると政宗はトシに小声で話し掛ける。

「おじちゃんは誰なの?」

トシは屈んで笑顔で政宗に答える。

「俺は歳三、土方 歳三だ。覚えておけよ坊主」

そう言うと歳三は立ち上がって彦五郎に提案する。

「義兄貴、端っこでいいからさ、この子に理心流の稽古を見せてやりたい」

彦五郎は歳三の提案に笑顔で頷く。

「ああ、そのつもりでこの子を連れて来たんだ」

歳三は振り返って中央に向かう。彦五郎は政宗を壁の方に連れて座らせる。

「よく見ておけよ政宗、トシの稽古は厳しいが何処か美しさを感じるから」

歳三は面を被って模擬試合を始めた。歳三一人に対して相手は三人、多勢に無勢であったが、歳三は激しくも美しい立ち筋で竹刀を振るう。

その姿に幼い政宗は目を光らしていた。

その日の夕暮れ時、自宅で政宗は黒髪で美しくも可愛げが残る政宗の母親、若林に相談する。

「お母さん、僕ねぇ彦五郎おじさんの所で剣道をやりたい」

突然、相談に若林は驚く。

「本気なの?別に剣術を学ばなくても読み書き出来れば純分なのよ」

しかし、政宗の瞳の奥には硬い決意があった。

「どうしても剣道を学びたいんだ、だからお願い!」

 政宗の深々と頭を下げる姿に若林は昔の自分を思い出す。

(私もこの子と同じ様に親に向かって頭を下げたっけ)

若林はそっと政宗の顔を上げさせ笑顔で話す。

「分かったわ。明日、彦五郎様に相談してみるから」

その言葉に政宗は喜ぶ。

「やった!ありがとう、お母さん」

そう言うと政宗は若林に抱きつく。

こうして政宗は歳三の戦う姿に憧れ、佐藤 彦五郎の道場に入って九年後の15歳の時である。

道場の中央では政宗と門下生が防具を着て模擬試合をしていた。

入ったばかりの政宗は長くいる門下生の強烈な突きを受けて呆気なく倒される。

その姿に試合を見ていた美しくも男前な土方 歳三が政宗に近付き厳しく指導する。

「たく!お前は本気で理心流を学ぶ気があるのか?」

政宗は大声で答える。

「はい!あります!」

すると歳三は持っていた竹刀で政宗の頭を叩く。

「だったら死ぬ思いで稽古しろ!身につくまでは何度でも試合をするからな、分かったな!」

政宗は頭を叩かれた痛みを堪えながら返事をする。

「はい!」

しばらくして稽古は終わり政宗は自分の防具を片付けていると歳三が近付く。

近付いて来る歳三に政宗は一瞬、恐ろしくなる。

(歳三さんこっちに来る!今度は何を言うんだ)

するとさっきとは違って歳三は優しく政宗に話し掛ける。

「おい、大丈夫か?突きを受けた所はまだ痛むか?」

歳三の変わり様に政宗は驚く。

「え⁉︎あ、ああ大丈夫です」

歳三は政宗の状態を知ってホッとする。

「それは良かった」

歳三はそのまま立ち去ろうとすると政宗は止める様に歳三に問いかける。

「あの、さっきまで厳しかったのに何故今は俺に優しくするんですか?」

歳三は立ち止まって振り返り政宗の問いに笑顔で答える。

「鍛えがえのある門下生を時に厳しく、時に優しくするのは師として当たり前な事だろ。それだけさ」

そう答えると歳三は政宗の前から立ち去る。

翌日、稽古の休憩中に政宗は汗を拭う歳三に話し掛ける。

「歳三さん、ちょっと聞きたい事がありまして」

歳三は振り向き笑顔になる。

「ああ、構わないぞ。それと俺の事はトシでいいぜ」

政宗は笑顔になる。

「はい、トシさん」

「それで俺に何を聞きたいんだ?」

「あ、はい。何故トシさんは剣術を習っているんですか?」

歳三は前を向き外を眺めながら政宗の問いに笑顔で答える。

「俺は・・・いや、俺とかっちゃんは農民の身であるが、昔から武士なろうと夢見ていたんだ」

「農民の身で武士に?」

「そうさ、でも世の中は厳しく農民は一生武士にはなれない。だから俺とかっちゃんの二人はある事を心に決めたんだ」

「近藤さんと決めた事?」

歳三は笑顔のまま再び政宗の方を見る。

「武士よりも武士らしく生きるって」

「武士らしく生きる?」

「ああ、武士になれないならどんな武士でも真似出来ない凄い生き方をする。政宗、お前も俺達の様に誰も出来ない夢を実現させろ」

歳三の一点の迷いの無い真っ直ぐな瞳と表情に政宗は感銘を受ける。

「はい!トシさん。俺も見つけてみます誰にも出来ない生き方を!」

すると歳三は右に置いてあった竹刀を手に取り立ち上がる。

「よし、その意気だ。それじゃ稽古の続きするか?」

政宗は気合の入った返事をする。

「はい!」

政宗と歳三は道場の中央で試合を始める。政宗は一方的に歳三に追い込まれがその際でも自問自答する。

(自分にしか出来ない生き方、武士でも真似出来ない事)

歳三は大きく上から下に目掛けて竹刀を振り下ろす。

「隙あり!」

政宗はその瞬間、何かを見出す。

(これだ!これなら誰にも出来ない!)

政宗は素早い動きで右に避け歳三の一撃を左肩で防ぐ。そ政宗はその痛みに堪えて政宗は片手で横払いをして歳三の横腹に強い一撃を与える。

歳三はその一撃で悶絶し、膝を着く。

政宗は喜び面具を取って歳三に近付く。

「トシさん!どうですか、俺の渾身の一撃は?誰にも真似出来ないでしょ?」

すると歳三は怒りの眼差しで政宗を睨み勢い良く政宗に殴り掛かり、押し倒す。

「お前はバカか!これが真剣での勝負だったら腕を失うどころか命を失っているぞ!そんな事も考えられないのか?」

政宗は涙目で歳三に言い訳する。

「俺は俺なりに誰にも出来ない事をしたまでで・・・」

「黙れ!そんな事は武士よりも武士らしく生きる事じゃねぇ!ただの犬死だ!」

そう言うと歳三は政宗を離なし何も言わずに立ち去る。

歳三の去る姿に政宗は怒りを覚える。

(何でだよ!武士は常に死ぬ覚悟で生きている、その覚悟を持って何が悪いんだ!)

その日の帰り道、政宗は歳三を妬んでいた。

(あんだよあの人は?意味が分からん、何で死ぬ覚悟がいけないんだ?)

目の前でゴロツキ、三人が自分と同い年ぐらいの若い村娘の体を触らり絡んでいた。

「なぁーーーっちょっとでいいからさ。一緒に付き合えよ」

村娘は抵抗して断っていた。

「いやです。やめて下さい!」

一人のゴロツキが村娘の胸を鷲掴みにする。

「おほほほっいい胸してるじゃねぇか。小さい体していやらしい物を持ちやがって」

政宗はその光景に正義の心が湧き起こり走って止めに入る。

「お前達、その子は嫌がっているじゃないか。すぐに離すんだ」

政宗の姿にゴロツキ達はゲラゲラ笑い、一人のゴロツキが政宗に近寄る。

「おい、坊や。痛い目が嫌ならとっとと立ち去りな」

政宗は瞬時に持っていた竹刀を取り出しゴロツキの腹に突きを喰らわす。

その光景に他のゴロツキが驚く。

「おい!うちのダチに何しやがる?」

政宗は素早い動きで残りのゴロツキを倒し、解放された村娘はお礼を言う。

「ありがとうございます」

政宗は笑顔で言う。

「いいてことよ、それよりも早く家に帰りな」

「はい」

村娘は立ち去ると政宗の後ろで倒れていたゴロツキ達が立ち上がる。

「てめーーーーーっただで済むと思うなよ!」

ゴロツキ達は腰に揚げていた刀を抜く。政宗は振り向き構え直す。

「来い!お前達何て怖くわない!」

ゴロツキ達は一斉に政宗に襲い掛かる。政宗は竹刀で応戦するが、竹刀は簡単に斬られ追い込まれてしまう。

ゴロツキ達は笑いながら政宗を取り囲む。

「へへへへっ覚悟しなガキ」

刀を大きく振り上げ政宗は目を瞑る。

(やられる!)

すると突然、左側から拳がゴロツキの頬を直撃しゴロツキが吹っ飛ぶ。

「大丈夫か、政宗?」

政宗は目を開けるとそこには歳三が居た。

驚く政宗だが、返事をする。

「あ、はい。大丈夫です」

他のゴロツキ達も驚く。

「何だ、てめーーーは?」

歳三は笑顔で答える。

「ただの農民だよ」

その答えにゴロツキ達は怒り一斉に歳三に襲い掛かる。

「舐めやがってーーーーー!」

「ぶっ殺してやるーーーーー!」

歳三は素早い動きで襲って来る二人のゴロツキを体術で撃退する。

そして歳三は怒りの口調で倒したゴロツキ達に言い放つ。

「とっとと失せろ!ゴミ虫共が!」

歳三の姿にゴロツキ達は怯えて一目散に逃げ出す。

政宗は歳三に近付き礼を言う。

「トシさん、ありがとうございます」

すると歳三はいきなり政宗に平手打ちを喰らわす。

「馬鹿野郎!一歩遅かったら死んでいたぞ」

政宗は叩かれた頬を押さえて謝罪する

「すみません。でも俺は・・・」

すると歳三は一変して政宗に優しく話し掛ける。

「あのなぁ政宗、誰にも真似出来ない生き方って武士の様に死ぬ覚悟で生きる事じゃないんだ」

政宗は驚く。

「え⁉︎」

「お前の覚悟は間違っていない、でもお前はまだ若過ぎる。死に急ぐ事はせずもっと別な事で誰にも出来ない生き方を目指せ」

歳三の言葉に政宗は道場での事を思い出す。

(そっか、トシさんは死に急ぐ俺を止める為にあんな事を)

歳三の行動を理解した政宗は突然、涙を流す。

「すみません、トシさん。俺がバカでした」

政宗の姿に歳三は優しく励ます。

「泣くな。これから凄い事をする、お前が泣いてどうする?」

「はい!すみません」

その光景はまさに間違いを犯した我が子を父親が厳しく正しい優しく励ます親子の様な光景であった。

すると政宗は歳三に問い掛ける。

「あのトシさん、よろしかったら俺の家に来ませんか?命の恩人として食事でも」

歳三は笑顔で答える。

「別にそこまでする事は無いよ。でもせっかくのお誘いだもちろん行こう」

歳三の答えに政宗は嬉しくなる。

「ありがとうございます。では一緒に行きましょ」

政宗は歳三を連れて自宅に向かった。

そして自宅に着くと政宗は大声で母、若林を呼ぶ。

「母上!今、帰りました!」

すると若林が駆け足で玄関に現れる。

「はいはい、お帰り政宗・・・‼︎」

若林は政宗が連れて来た歳三の顔を見て驚く。政宗は笑顔で若林に歳三を紹介する。

「母上、こちらが試衛館での俺の兄弟子の土方 歳三さん。皆からトシさんて呼ばれているんだ」

若林は戸惑いながら丁寧に自己紹介する。

「あ・・・あら、そうなの。初めまして歳三様、私が政宗の母、若林と申します」

歳三は笑顔で挨拶する。

「これはご丁寧にどうも。でも若林ってどっかで聞いた事が・・・気のせいか」

若林は笑顔で少し冷や汗をかきながら政宗に話し掛ける。

「ところで政宗、どうして歳三様を家に連れて来たの?」

「いやぁーーーっ実は帰り道に色々あって、それは夕食の時に話すからトシさんの分もお願い」

若林は笑顔で答える。

「別にいいわよ。さぁ歳三様、そこに桶に入った水がありますので泥を落としてお上がり下さい」

「これはかたじけないな、ではお言葉に甘えて」

政宗と歳三は並んで段に腰を下ろして足の泥を落とす。

そしていおりの部屋で囲むように夕食を楽しんでいた。

「トシさんって本当に女性にモテますね」

政宗の指摘に歳三は笑顔で自慢げに話す。

「まぁな、今までに相手した女は俺でも数知れないからな。政宗だって俺に及ばないけどいい顔付きしているぞ」

「そんな事ありませんよ」

「そう、照れるな」

政宗と歳三が一緒に笑う姿に歳三の目の前に座って居た若林は心配そうな表情をしていた。

(こうやって二人が並ぶとやっぱり、政宗はこの人の・・・言えるわけがない、もし今、政宗に言ったら歳三様の関係が崩れてしまう。でも・・・)

若林は二人が仲良くなっている姿に心苦しくなって行く。

別な日の帰り政宗はいつも通り試衛館での稽古を終えて母親の知り合いである僧、北廉のいる寺に向かっていた。

偶然、通りかかった奉行所の前に縄で手を後ろで縛られた農民の家族が連れて来られていた。

政宗は門の前にいた門番に声を掛けた。

「あのーーっあの人達は一体何をしたんですか?」

門番は丁寧に政宗に説明する。

「あの家族は昨日、捕まえた盗賊を匿っていたんだ。どうやら金に目が眩んだそうだ」

「金に目が眩むなんてまったく愚かな家族ですね」

「ああ、恐らく打首は免れないだろな」

政宗は奉行所に連れて行かれる家族の姿を見て何かを理解する。

政宗は奉行所を後にして北廉のいる寺に着き講堂で正座で微笑んだ顔をした老僧の北廉と向かい合って俳句を教わっていた。

政宗は北廉に通りかかった奉行所での事を話す。

「先生、ここに来る時に農民の家族が奉行所に連れて来られるところに出会しまして」

「ほぉーーーっそれで?」

「気になって門番の人に聞いたら、どうやらその家族は昨日、捕まった盗賊を匿っていたんですよ」

「成る程、それは許し難い事ですな」

「でしょ。しかも盗賊を匿った理由が金に目が眩んだそうなんですよ」

「それはそれは」

「だから俺、分かったんです」

「何が分かったんだ?」

政宗は清々しく北廉の問いに答える。

「どんな悪も絶対に許さない立派な武士、それが俺が共感し憧れたトシさんの目指す武士よりも武士らしい生き方だと」

すると北廉は立ち上がって吹き抜けに向かい外を眺めながら政宗に話す。

「政宗君、そんな考え方は捨てなさい」

北廉の意外な助言に政宗は驚く。

「え⁉︎何でですか先生?」

「いいか、確かにその家族は盗賊を匿った。だが問題なのは何故匿ったのか、君にはその理由が分かりますか?」

政宗は考えるが、答えに困る。

「それは・・・金に目が眩んだから?」

北廉は自分の座っていた座布団に戻り政宗と向き合って話す。

「良いか、この世には今だに貧しい暮らしをしている者が大勢居る。盗賊も匿った家族も貧しさから来た物かもしれない。そんな理由を知って君はそれでもその者達に重い罰を与えるか?」

北廉の指摘に政宗は黙ってしまう。

「だからこそ許すのだ」

政宗は北廉に反論する。

「しかし先生、理由があってもこの世には絶対に許さない悪があります。それも許せと?」

北廉は政宗の指摘に軽く頷く。

「確かに。でも最も肝心なのは見分ける事が大事なのだよ」

「見分ける?」

「そう、全てを悪の見做し断罪するばそこから生まれるのは争いと悲劇のみ。それを起こさない為にも見分け、許す気持ちが大事なのだ」

すると北廉は右手に筆を持って俳句紙に文字を書く。

「だからこそ君はこの言葉を胸に刻みなさい」

政宗は北廉から渡された俳句紙を見て口にする。

「斬る者は斬り、斬らない者は斬らない」

「その言葉を大事にすれば君が共感し憧れた人の夢を変える事だろ」

そして政宗が十七歳の頃に彼の運命を変える出来事があった。

ある日の夕暮れ時、政宗はいつも通り試衛館から家に着き戸を開ける。

「ただいま母上」

ゆっくりと歩きながら若林は笑顔で現れて政宗の帰りを出迎える。

「おかえりなさい政宗、ご飯出来てるから足を洗って食べましょう」

「はい、分かりました」

政宗は段に座って置いてあった桶の水を使って足に付いた泥を落とす。

若林は振り返っていおりの部屋に向かうと何かを心で決意する。

(あの子の大きくなった、今なら話してもいい)

若林は政宗が4歳の頃を思い出す。

衣服を縫う若林に向かって幼い政宗は不思議そうに話し掛ける。

「お母さん、なんで僕のお家にはお父さんが居ないの?」

若林は手を止めて政宗を抱き上げる。

「お父さんが居ないのが寂しいの?」

「うん、寂しい。他のお家だとお父さんがいて何だか楽しそうで」

若林は強く政宗を抱き締める。

「ごめんね。訳があって家にはお父さんが居なの、だからお前が大きくなっていつかお父さん事を話してあげるから」

若林は過去を思い出して父親について話す事を決意する。

(あの子には寂しい想いをさせてしまった。死ぬまで話さないと決めていたけど歳三様と仲良くする姿を見て、やっぱりこの子には父親が必要だわ)

泥を落とし終えた政宗はいおりの部屋へ向かい、そこには膳に置かれた和食が二つ置かれ若林が正座して待っていた。

二人は向かい合って食べ始め、しばらくしてから若林が少し不安気に政宗に話し掛ける。

「あのね政宗、お前に話しておきたい事があるの」

政宗は箸を止めて若林の話を聞く。

「何ですか?母上」

若林は手に持っていた箸とお碗を置き一瞬、目を閉じて勇気を振り絞る。

「今、近藤さんと京で素晴らしい働きをしている土方 歳三様の事なんだけど」

「ええ、トシさんがどうかしたんですか?」

「実は・・・その歳三様が・・私の夫・・・すなわち、お前の父親なの」

あまりにも衝撃的な告白に政宗は驚きを隠せなかった。

「それ・・・本当何ですか?母上」

「ええ、お前の目がその一点の曇りの無い黒真珠の様な目があの人にそっくりなの」

政宗は手に持っていた箸とお碗を置いて若林に質問する。

「どの様にして俺を孕ったんですか?」

若林は振るえる様な口調で答える。

「私が十四の時よ。土方家の使用人として奉公していて、ある日の夜に歳三様が私を蔵に呼び出してそこで肉体を交えてお前を孕ったの」

「トシさんの女癖は近藤さん達から聞いていましたから、すなわち俺は望まれた子ではないのですね」

政宗の言葉に若林は突然、涙目になる。

「ごめんなさい。でも隠していた訳じゃないの、ただ本当の事を聞いたらお前がお父さんを・・・」

政宗は立ち上がって若林の予想を裏切って大喜びする。

「やったーーーーーーーーーっ‼︎」

予想外の政宗の反応に若林は動揺してしまう。

「えええっ⁉︎どうしたの政宗?」

政宗は両手で若林の両手を掴んで喜ぶ気持ちを伝える。

「こんな嬉しい事は生まれて初めてですよ母上」

「どうして?」

「だって俺はトシさん、いや父上に会ってから俺は父上に憧れていたんです」

「あの人に憧れていた?」

「はい!」

政宗は嬉しいさの余り雨戸から裸足で外に出る。

「俺は父上の強さだけでなく人に厳しくも優しい所や自分の決めた目標に迷いもなく進む姿に俺は憧れ、しかも父上の抱く夢にも」

若林は立ち上がって雨戸の所で政宗に聞く。

「じゃ政宗はお父さん、歳三様の事を憎んでないの?」

「全っ然!むしろ俺が父上、そして土方家の子である事がとても嬉しいんです。うっしゃーーーーーーっ‼︎」

政宗は喜びながら飛んで右拳を空へ挙げる。

深傷を負った政宗は完全に目を閉じやり残した事を悔やむ。

(ああ、生きている間に俺の夢を実現させたかったな)

すると政宗の目の前に黒い人影が現れ政宗に話し掛ける。

「生きたいか?」

(誰・・・だ・お前?)

人影はあざ笑いながら答える。

「俺はお前さ、生きたいなら今は俺に身を任せろ」

(本当に・・・生きれる・・・のか?)

「ああ、今は俺を信じな」

政宗は弱々しく右腕を差し出す。人影は政宗の右腕を強く握る。

「これで俺はようやく・・・」

意識が遠くなっていたはずの政宗は急に目を覚まし、虚な瞳で目の前にいた英国兵の首を目に止まらない勢いで白龍刀で斬る。

その光景に他の英国兵が驚き政宗に斬り掛かろうとしたら政宗は一瞬で消えて一撃で二人の英国兵の首を斬る。そして政宗は街の中を風を切る様に走り出し次々とアクロバットな動きで英国兵を倒していった。

政宗が自分の意識が戻ると周りには多くの英国兵の死体が転がり政宗はその光景に驚く。

「何だこれは⁉︎一体何が?」

更に政宗は自分の体の異常に気付く。

「あれ?傷口が塞がっている⁉︎何でだ?」

すると何処から政宗に向かって囁き声が聞こえてくる。

「それが俺の力だ。これから仲良くな」

政宗がは周りを見渡し声の出所を探すとすると英横浜駐屯地から白旗が上がり、それを見た幕府兵が歓喜の声で叫ぶ。

「勝ったぞーーーーっ‼︎我々の勝利だぁーーーーーーっ‼︎」

それを聞いた他の幕府兵が大声で喜ぶ。

「幕府軍の勝利じゃーーーーーーっ‼︎」

政宗はホッとして全身の力が抜けて置いてあった砂袋に腰を下ろす。

「終わった・・・長かったこの戦争がようやく・・・」

政宗は戦争の終わりと新たな時代の始まりを実感して歓喜する。

それから時は流れて1875年、元号は「平念」。朝方、場所は武蔵国多摩郡、石田村の駅にて。

ホームには政宗と左側に一人の青年が居り、青年が緊張しており政宗は青年に話し掛ける。

「おい、大丈夫か?具合が悪いなら後ろの長椅子に座っててもいいぞ」

青年は心配する政宗に震えながら答える。

「大丈夫です、ただ・・・き、機関車に乗るのが初めてで」

青年の答えに政宗は少し安心する。

「あーーーっ分かるよ。俺も最初は君みたいに緊張していたよ、でも一度乗ればそんなの忘れるよ」

「本当ですか?」

政宗は笑顔で答える。

「ああ、本当さ」

するとSLが汽笛を鳴らして駅に入ってくる。

その光景に青年は驚き後ろによろめくが、政宗が左腕で差し出し支える。

「大丈夫、俺がいるから」

政宗は驚く青年を安心させ止まった列車に乗り込む。

SLは物凄いスピードで走り、政宗達が乗った列車には多くの人々が乗り込んでおり政宗達は窓際に座っていた。

流れ行く景色に青年は感動していた。

「凄いや!機関車ってこんなに早いんですね!」

子供の様にはしゃぐ青年の姿を目の前に座っていた政宗は笑顔で話す。

「君を見ていると昔の俺みたいで何だか懐かしいよ」

次の駅に着くと後ろの方から和服を着た三人のゴロツキが乗り込み乗客達に言う。

「お前ら、此処は俺達が貸し切る。さっさと別の列車に移れ」

他の二人のゴロツキも威嚇する様に客達に立ち去るように促す。

すると政宗は立ち上がってゴロツキ達に向かい落ち着いた口調で話す。

「お前達、列車は皆んなの物だ。そんな横暴な態度は止めるんだ」

政宗の注意にゴロツキ達は笑う。

「おい、にいちゃん。俺達が江戸で一番の極道、青鬼組だと分かっての指図か?」

政宗はさっきとは違い怒りの眼差しになる。

「誰だろうと関係無い、止めないのなら手加減はしない」

政宗の言葉に一人のゴロツキが怒り政宗に向かって拳を振るう。

「舐めんじゃねぇーーーーぞ、クソガキ!」

青年は見てられず目を瞑る。

政宗は素早い身の動きで拳を避けてゴロツキの腕を掴んで関節を外す。

関節を外されたゴロツキは悲鳴を上げて倒れ、二人のゴロツキはその光景に驚くが、すかさず政宗に襲い掛かる。

「この野郎!」

政宗は素早い動きで腹に強烈な拳を入れ込み、怯んだ隙に肩の関節を外し最後の一人を背負い投げして足を絡ませ肩と腕の関節を外す。

青年が目を開けると三人のゴロツキは政宗によって倒され、よろめきながら立ち上がる。

そして政宗は強い口調でゴロツキ達に言う。

「今すぐ消えろ!そして二度とこんな事をするな!」

政宗の姿にゴロツキ達は怯えて慌てて列車を降りる。

政宗の行いを見ていた乗客達は拍手喝采する。そして政宗は見出しを整え席に戻る。

青年は不思議そうに政宗に問い掛ける。

「政宗さん、何で刀を使わなかったんですか?」

青年の問いに政宗は笑顔で答える。

「簡単さ、使う必要が無かったからさ」

青年は自身の考えを政宗に話す。

「でもあいつらみたいな奴らはどんなに痛い目に遭っても反省しません。ならばいっその事、命をもって自分の行いを悔い改めるべきです」

政宗は少し腰を上げて青年の肩に静かに手を置いて笑顔で話す。

「いいか、この世には斬ってはならない事がある」

「斬ってはならない事?」

政宗は腰を下ろして話す。

「そうだ、どんな悪でも時は許す心が必要なんだ。あのゴロツキ達も列車を独り占めしようとしだけで他ら見れば子供のわがままだ、そんなつまらない事で命を奪えば無意味な争いが生まれるだけだ」

政宗は腰に提げている白龍刀を抜いて青年に見せる。

「俺の信条をよく覚えておくんだ。斬る者は斬り、斬らない者は斬らない、これはどんな悪でも見分ける必要があり、許す心が必要であると言う知り合いの僧が俺に教えてくれた遠回しな言い方なんだ」

政宗の信条に青年は感激を受ける。

「分かりました!俺も政宗さんを見習って立派な武士になります」

それを聞いた政宗は笑顔になる。

「その意気だ、誰にも負けない武士になれよ」

そしてSLが汽笛を鳴らし再び走り出す。

それから一時間後、煉瓦造りの大江戸駅にSLがゆっくりと入って来て停車し汽笛を鳴らす。

そして西洋服の駅員が誘電式の拡声器で案内する。

「終点、大江戸、大江戸。お荷物のお忘れがないようご注意下さい」

多くの人々が降りていく中で政宗が列車から降りる。

「ふうーーーーーっやっと着いた。おい、早く降りて来いよ」

すると政宗に呼ばれるかの様に一人の青年が降りて、駅に驚く。

「うわぁーーーーっ!これが江戸⁉︎国の中心はこんなにも発展しているのか!」

政宗は笑顔で青年に話し掛ける。

「凄いだろ?来てくれて、ちょっと寄りたい所がある」

政宗は少し歩いて壁に設置された木製のダイヤル式電話機の受話器を取って投入口に小銭を入れて電話をする。

何処かに繋がると政宗は話し始める。

「副長、俺です政宗です。はい、例の新人を連れて来ました。はい、これから屯所に向かいます。はい、では後ほど」

受話器を掛けて電話を終えた政宗は後ろを振り向き青年に言う。

「じゃ行こっか、はぐれるなよ」

「はい」

政宗と青年は人混みを掻き分け駅の外に出ると青年は近代化し多くの人々で賑わう江戸の姿に驚く。

「すごーーーーい!煉瓦造りの道や建物、それに西洋の馬車が走っている!」

すると目の前をゆっくりと路面電車が走り去り、青年は驚く。

「うわぁ!今のは何ですか政宗さん⁉︎」

政宗は笑顔で答える。

「今は路面電車だ。簡単に言えば街中を走る小さな機関車さ」

そう言うと政宗は青年を連れて屯所に向かう。大通りの脇道で新聞記者が大声で号外を配っていた。

「号外だいよ!号外!日英共同の豪華客船が発表された。世界最大級だよ!さぁ読んだ!読んだ!」

政宗も歩きながら徐に号外を手に取り記事を読む。

「なになに、本日の早朝、日英の大手造船会社が世界最大級の豪華客船計画を発表され完成は早くても平念十年の1879年を予定している」

右隣りに居た青年は記事が気になり政宗から取り上げる様に記事を読む。

「えーーーと、記者会見に居合わせた大手貿易会社、黒龍丸社会長の坂本 龍馬氏は記者に対して『日本の優れた造船技術が世界に広がる事を誇りに思う』と発言した。へぇーーーーっ開国してから日本は変わりましたね」

政宗は笑顔で話す。

「ああ、二百年以上も鎖国していた日本だったけど幕末を経て幕府は積極的に国外の文化を取り入れたお陰で日本は世界に負けない強い国になった」

青年が政宗の話しを聞いていると大通りに面する鍛冶屋の前でアメリカ人が大量の日本刀を買う光景に驚く。

「政宗さん!見て下さいよあれ!あのメリケン、大量に刀を買っていますよ!」

政宗は立ち止まって笑顔で青年に話す。

「珍しい事じゃないさ、日本を訪れた外国人が大量に日本刀を買って行くのは」

「どうしてですか?」

「開国して日本刀が世界に輸出されてから、その優れた斬れ味と丈夫さからわざわざ日本に足を運んであんな風に大量に買って行くんだ」

「それじゃ鍛冶屋を大儲けですね」

「日本刀だけじゃないさ、各地の農作物や陶芸品なんかも輸出される様になってから各藩も潤っているんだ」

政宗の説明に青年は感心する。

「まさに開国様様ですね」

しかし、政宗は一瞬、暗い表情で小声で呟く。

「でも、それでも血の争いは無くならないんだよな」

青年は政宗の言った事が気になり問い掛ける。

「政宗さん、何か言いました?」

青年の問い掛けに政宗はすぐに明るくなって答える。

「いいや何でもない、それより早く行こうか?」

「はい、政宗さん」

二人は再び歩き始め屯所へと向かう。

時は少し経って夕方、場所は江戸市谷甲良屋敷の試衛館。

此処は現在、新撰組の江戸屯所となっており、その道場では政宗が組員達を相手に稽古をしていた。

「えい!やあーーーーっ‼︎」

道場全体に響き渡る政宗の声、相手をしていた男性は一撃を喰らい大きくよろめく。

「はッはッはッはッ、政宗さんもう勘弁して下さい。俺を含めて皆んなへとへとです」

政宗は木刀を下ろし周りを見渡す。

「この程度で弱音を吐くな、ほらほらっさっさと立って素振り二十回やるぞ」

へとへとで座り込んでいた者は何とか立ち上がって素振りの構えをする。

「よし、えい!」

政宗に続く様に皆が素振りをする。

「えい」

皆の姿に政宗は素振りを止め喝を入れる。

「姿勢を正しく!声が小さいぞ!はい、もう一度、えい!」

皆は何とか余っている体力で姿勢を正し大声を出して素振りをする。

「えい!」

二十回の素振りが終わると皆は風船の様に疲れて座り込むが、政宗はピンピンしていた。

「よーーーし、今日はこれまで。皆、お疲れ」

政宗の終わりの言葉に皆は安堵し政宗は一人、道場を後にする。

政宗は和室で一人、正座をして右側に置いてある筆を手に取り硯に出した墨を筆先に馴染ませ白い紙に描き始める。美しい筆の扱いで滝とその中に立派な鯉の絵を描き、再び筆先に墨を馴染ませ描き終えた滝と鯉の近くに縦書きで一句を描く。『滝の流れの様な苦難があろうとも、龍になろうとする鯉の如く、誰もまだ見ぬ高みを目指す』

一句書き終えると今度は小筆に持ち替えて墨を馴染ませ自分の名、『土方 歳三の子、土方 政宗・作』と描く。そして政宗は目を閉じて心で語る。

(あの動乱の幕末から七年か、七年の間で国は大きく変わったな)

一方、政宗の居る和室の外では西洋服を着こなした女性が顔を赤くしてモジモジしていた。

(よし、政宗様。必ず貴方様に対する私の恋をお伝えする)

女性は携えた恋文を握り締め政宗の居る和室に向かって尋ねる。

「政宗様、政宗様は居りますか?」

政宗は立ち上がって目の前の襖を開け外に出て目の前に居る女性に問う。

「私に何か御用でしょうか?」

政宗は正座し女性は顔を赤くしながらモジモジと近付き政宗の問いに答える。

「あの実は私、どうしてもある物を直接、貴方様にお渡ししたくて」

政宗は女性の言葉に笑顔になる。

「それはそれは、わざわざどうも」

「それでこれを受け取って下さい!」

女性は政宗に手紙を差し出し政宗はそれを踏まえて受け取る。

「あの、出来れば誰も居ない時に読んで・・・」

「いやーーーっ珍しいですね、わざわざ我々への感謝の手紙を届けるなんて」

女性は政宗の言葉に疑問の表情をする。

「へえ?感謝の手紙?」

「ええ、うちには色んな人から感謝の手紙が届くのでこれもそうなんでしょ?」

政宗の発言に女性は怒りと悲しみの表情で政宗に向かって平手打ちを喰らわす。

「あ痛ーーーっ!どうしたんですか急に?」

「もーーーーっ!馬鹿ーーーーっ‼︎」

女性はそう言い残すと一目散に政宗の前から去る。

突然の出来事に政宗は驚きを隠せずにいた。

「え?え?俺・・・何か悪い事でも言ったかな?」

政宗は何が起きたのか理解出来ず自問自答していると塀の向こうにある街灯が次々と灯し始める

試衛館に面する大通りは多くの人で賑わいある居酒屋の中でテーブルを挟んで二人の中年男性が少し酔った状態で椅子に座って向かい合って世間話をしていた。

「いやーーーっ幕府が変わったお陰でうちの塩が飛ぶ様に売れて商売繁盛だよ」

「こっちだって今まで売るのもやっとだった陶芸品が国外との貿易で飛ぶ様に売れているよ」

「本当っ本当っむしろ開国して貿易する様になってから貧しい人達は減ったな」

「ああ、幕府が国外から色んな文化を取り入れ、国を近代化したお陰で日本は世界に負けない強い国なった」

陶芸品を売る男がテーブルに置いてある酒の瓶を手に取って酒をコップに注ぎながら暗い表情で話す。

「でも幕府が平和で豊かな国作りをしているのに今だに武力で尊王攘夷をしようとする野蛮な連中がまだまだいる」

塩を売る男も同じ様に暗い表情で大通りに面する左の窓から外を見る。

「ああ、特に七年前の幕英戦争で幕府に敗れ満洲やロシアに逃げた薩長親英派残党軍は今でも幕府を倒そうとしている」

「あいつらは尊王攘夷の名を借りてイギリスと手を組んで我が日本を支配しようとした。まったく卑劣な奴らだ」

陶芸品を売る男の話しに塩を売る男は前を向く。

「でも!そんな奴らから我が国を命を張って守っているのが新撰組だ。彼らこそ日本の守護神だ」

「ああ、頭が上がらないよ。新撰組のお陰で今の日本があるんだ」

「本当だな」

二人がお互いに大笑する。

1875年の日本は江戸幕府による治世は続いていた。

七年前の幕府と朝廷vs薩長親英派と英国の戦争、幕英戦争が起こった。

約二年に及ぶ戦争は横浜の戦いを最後に幕府連合軍が勝利、終結後は薩長同盟は解体され再び力を取り戻した江戸幕府は新たな秩序の元で日本を急速に近代化。

鉄道が引かれ蒸気機関車や馬車が新たな人々と交通手段となり、また日本国民の生活も変わった。

階級社会が無くなり誰もが名字を持つことが出来、また西洋の衣服を着こなす者や西洋風の建物、道には電線や街灯が立ち並びラジオや電話、電球が当たり前の様に普及し町は夜中でも太陽な灯さとなった。

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