最強無敵の彼女は僕の匂いをかがないと死んでしまう

白鷺雨月

第1話学生時代の夢

 二階の窓から運動場を僕は眺めていた。

 僕の席は窓際で後ろから二番目だった。

 そこでは別のクラスが体育の授業を行っていた。

 甲高い歓声が運動場を包んでいた。


 どうやら走り高跳びをしているようだ。


 一人の少女がウォーミングアップのため、軽くジャンプを繰り返していた。


 黒く、艶やかな髪が印象的だ。背が高く、スタイルも抜群であった。

 ジャンプする度に揺れるボリュームのある胸に僕は視線を外すことができなかった。


 ジャンプを繰り返していた彼女は意を決して、走りだす。

 その動作、姿勢、走り方。

 どれをとっても完璧だった。

 完璧に美しい。


 そう、僕は現代国語の授業なんてそっちのけでその少女の姿を目で追っていた。


 理想的な楕円を描き、その少女はグランドを駆け抜ける。

 バー直前でジャンプし、軽々と背面飛びでクリアする。


 その姿はとても美しく、文字通り息をするのも忘れて見ていた。

 少女がクッションから立ち上がり、乱れたスポーツウェアを整えていた。


 息をするのを忘れていた僕は呼吸を思いだし、大きく息を吐いた。


「また見てたのか?」

 背後から小声で声をかけてくるのはクラスメイトの田代だった。

 少し、頷いて僕は答えのかわりにした。

「月影響子って美人だよな。学力優秀、スポーツ万能、おまけに実家は江戸時代から続く名家らしいからな。商業科の俺たちとはまさにつきとすっぽんだよ」

 グランドで華麗なるジャンプを披露したのがその月影響子だ。


 高校三年生の卒業間際の一時であった。

 ほとんどの人は進路がきまり、残りの授業は消化試合のそれとなんらかわらなかった。

 同じ高校でも僕たち商業科の生徒と進学科の月影たちとはほとんど接点がない。

 せいぜいこうやって窓からその美麗なる姿を眺めるくらいだ。

 かくいう僕もある食品加工会社に就職が内定し、あと数週間もすれば社会人の仲間入りだ。

 田代の話では、月影響子は国立大学の法学部に進学するとのことであった。

 もともと接点などなかったが、高校を卒業することによって完全になくなるのだなと思うとなんだか不思議な気分になった。





 ピピピッと目覚ましが電子音を鳴り響かせていた。

 ベッドから手を伸ばし、目覚まし時計のスイッチを押す

 また、高校の時の夢を見ていたようだ。

 あの華麗なジャンプをする月影響子の夢を。

 もう高校を卒業して四ヶ月もたつというのに時々、あのスクールカーストトップであった月影響子が夢の中にあらわれる。

 学生時代まったく接点などなかったのに。会話すらしたことがないというのにだ。

 教室の窓からその美しい姿を見るだけだったのに。

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