第25話再び諍いが

 以降、クラウスからの直接の嫌がらせは無くなった。


 それでも、遠回りに嫌味を言うことは多々あったが、全て無視した。


 母さんから叱られたおかげで意識が切り替わり、何を言われても気にならなくなったのだ。


 ハッキリ言ってあいつは既に空気と化していた。


 本来であれば、クラスの中心にいる筈だったのに、盛大に初日からやらかしてしまい、クラスでも微妙な立場にいる。


 取り巻きはいるようだったが、それも周りの視線が気になるのか、オドオドしていることが多かった。


 しばらくはそれほど大きなトラブルはなかった。


 僕は現代の進んだ魔術を学び、一日一日がとても煌びやかに思えた。


 やはり転生して正解だった。


 学生の授業なので、それほど高度な魔術はないし、当然知っている魔術もあったけど、知っている知識とは、アプローチが違ったりしてそれがまた面白かった。


 そんなある日のことだ。


 僕らは移動しなければならない授業があり、別頭から自分達の教室へ移動している最中だ。


「はぁ」


 メリアがウンザリといった風にため息をつき、少々苛立っていた。


「メリア、どうかした?」


 僕が尋ねると、どんよりとした目でメリアは答えた。


「クラウスよ」


「・・・アイツ、懲りずにまた何かしたのか?」


 無視を続けてはいるが、あの粘着質はどうにも許容しがたい。


 でも、僕じゃなくてメリアに?


「『君はあんな奴と一緒にいるべき人間じゃあない。今度一緒に食事でもどうだい?』だってさ」


 アイツ、心臓鋼か?


「彼も諦めないね」


 リゼは他人事なのか、くすりと笑った。


 しかし、当の本人には堪った者ではないだろう。


「で、なんて答えたの?」


 ちょっと興味があり、僕は耳をぴくぴくとさせる。


「『邪魔』とだけ言って振り払ったわ」


「「うわ~」」


 きっついなぁ~。


「あんなのが、あんなのがアルフレート様の子孫・・・」


 目を血走らせて、メリアは怒りの声を上げる。


 安心しろメリア。

 アイツは違う。


 そう言って上げれたらいいんだけどね。


 そんな会話をしていれば、壁にもたれ掛かってキザったらしく待っているのは、話題のクラウスだった。


「無視」


 僕がそう言って、二人は頷いた。


 スタスタと歩いて行くと、さっとクラウスは僕達と並走し、メリアに甘く語り掛ける。


「やあメリア。さっきは酷いじゃないか。それとも照れてるのかい?」


 一周回って感心するわ。


 これだけあからさまに嫌っているのに、まだそんな歯の浮いたセリフを言えるのか。


 こいつ、強い。


 メリアは口元を引くつかせるが、なんとか無視。


 しかし、歩幅は広がる。


「こいつがそんなにいいのかい? そんなわけないよな。従妹だからしかたなく一緒にいるんだ? 違うかい?」


 殴りたい、この爽やかな笑顔。


「ミズ・リゼ。君も友達はもっと慎重に選ぶべきだ」


 リゼは全く表情を変えることなく、視線も移すことなく淡々と前を向く。


「お前が全て悪いんだぞ? 解っているのか!!」


 気が立ってきたな。


 もっと足を速めるか。


「止まって僕を見たらどうだ! 無礼だぞ!!」


 遂にクラウスは僕の肩を強引につかんできた。


「プランAだ!!」


 二人はコクリと頷く。


 僕はクラウスの手を強引に振りほどき、猛ダッシュした。


「え、なっ! おい!!」


 二人もそれに続く。


 プランA。


 それは、クラウスが力ずくで来たらとにかく逃げる。


 あくまでも相手にしない。

 これである。


 人目に付けばこいつも馬鹿はやらないだろう。


 人通りがある大廊下に出た。


 周りは生徒だらけ。

 これなら大丈夫。


「待てって! 無礼にもほどがあるだろう!!」


 げ、こいつまだ追ってくるのか?


 驚いて振り返ると、目の前に迫っていたクラウスは、僕を押し倒した。


「ふざけやがって! お前みたいなカスのおかげで、僕の学生生活は初めからぐちゃくぎゃだ! お前みたいな田舎者のせいで!」


「放してくれ」


「五月蠅い! 五月蠅い五月蠅いぃーーー!!!!」


 あー、これは完全に自分を見失っている感じだね。


「ちょっとクラウス。もういい加減にして!」


「止めた方がいい。君は君自身で立場をどんどん危うくしている」


「黙れ!!」


 到頭クラウスは拳を振り上げて、覆いかぶさりながら僕を殴ろうとする。


 強引に引きはがそうとしたその時。


「何をやっている?」


 クラウスが吹っ飛んだ。


「あれ?」


 何かが飛んできた。


 飛んできた方向に目をやると、ある一人の男性がいた。


「・・・あ、ゴイル先生」


 ゴイル先生。


 主に魔術戦闘を教えている学校随一の武闘派(学校で武闘派ってなんだよ)


 多分、圧縮した空気辺りを飛ばしたんだろうな。


「う、ぐ」


 吹っ飛ばされたクラウスはよろよろと立ち上がった。


「何をしているゴータ?」


「・・・何って、喧嘩ですよ。子供によくある諍いです」


「ふむ」


 ゴイル先生は表情の読めない顔で頷く。


「違います先生! 彼が一方的に突っかかって来たんです」


 メリアがそう言うと、クラウスは平然と言ってのける。


「喧嘩は両成敗さ。君も反省する部分はあるだろう?」


「・・・何を、言ってるの?」


 クラウスは不貞腐れて、太々しく鼻を膨らます。


「両者やり合ったんだ。どっちが悪いなんてないだろ」


「君が一方的に絡んできたんだろ?」


 リゼは冷静ではあったが、不快感を隠そうとはしない。


「話を聞く必要があるな」


「え、ちょっと待ってください!」


 ええ、不味いよ。


 これ以上のトラブルは勘弁だ。


「俺にもゴータが逃げる三人を追いかけているように見えた」


「えっ。いつから見て」


 サッと、クラウスの顔色が青く変わる。


「事情を聞こう。お前達の担任のミネルヴァ先生と、学年主任のアンザ先生を交えて」

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