第23話言語対決!
「お昼は学食行ってみようか?」
「そうね。一度見ておきたいし」
「私はお弁当があるから」
リゼはごめんねと、謝った。
「いいよいいよ。わっ、リゼのお弁当かわいい」
「そ、そう? 一応自作なんだけど」
「え、そうなの? なんだかクールなリゼとはギャップがあるね」
「クール、かな? 自分ではそうは思ってない。かわいいの、好きだし」
「そうなんだ。ねえねえどんなのが」
ガールズトークに花が咲こうとしている正にその時、クラウスが僕の席へとやって来た。
「やあ、イグッシュ語もろくに使えない田舎者」
はぁ。
本当に暇な奴だ。
「先に行ってるよメリア」
「・・・ううん。私もいくわ」
不快気にクラウスを睨んだメリアが僕の後をついてくる。
メリアに睨まれたのが悔しかったのか、顔を歪ませ、後ろから奴が吠える。
「明日も歴史はあるぞ! また笑い者に出来て嬉しいよ田舎者!!」
はぁー。
「無視よ無視」
「だね、ああいうのは構ってほしいから言ってくるんだ。徹底して無視すれば、つまらなくなって止めるさ」
歯ごたえのない相手にずっと絡み続けるのは並々ならぬエネルギーを使うからな。
いや、アイツそういったエネルギーを持っていそうな気もするけど。
「早く覚えないとね」
「うん。なんとかなりそうだよ」
「そう?」
「うん。頑張る」
そのまま僕達は学食へ行って昼食を取った。
因みにであるが、あまり美味しくはなかった。
リザのかわいいお弁当が、無性に美味しそう思えた。
僕もお弁当がいいかな。
メイさんかライさんに作ってもらおう。
*********
「なるほど。取り合えず、今日はそれ程トラブルは起きなかったのね」
報告を聞いて、ホッとした様子で母さんは息を吐く。
きっと心配していたんだろう。
申し訳ない。
「それで、お昼なんだけど」
僕は並んで立っているメイさんとライさんに視線を移した。
「それならばわたくしが」
メイさんが胸に手を当てて役割を買って出る。
「お願いしていいですか?」
「勿論ですアルフ様。それと、わたくし達に敬語は不要です」
「いやでも」
年上に偉ぶった態度は取りなくないな(あくまでも今の僕は十五歳だ)
なんかこう、成り上がった途端に嫌な奴になるみたいで。
母さんの顔を見ると困った風に笑う。
「アルフ。彼女にも立場や、仕事に対する教示があるの。ここはメイの顔を立ててあげて」
「ん、解った。頼むよメイ」
「かしこまりましたアルフ様」
そう言って、メイさんは一礼すると、食堂から出て行った。
因みに、メイさんは炊事。
ライさんは掃除が得意だそうな。
「そ、れ、に、しても、そのクラウスって奴はムカつくわねー」
「そうなんだよ。マジで嫌な奴なんだ」
「まあ、貴族って裏の側面が強いからね。そういうのもいるのよ」
「村にはいなかったタイプだなぁ」
「皆良い人達だもんね。前世では嫌な貴族はいなかった?」
食堂に誰もいないのを確認して、母さんは聞いてきた。
「いた。極力関わらないように逃げてた」
「そのクラウスって奴もそうすべきね」
「問題は、同じクラスってことさ。逃げるに逃げられない」
「あーもう。ツイてないわね。そんな奴に目を付けられるなんて」
「いや、全く」
「それもこれもあのクソ親父の」
「いや、それはもういいよ母さん」
再び母から黒いオーラが出ている。
それにこれ以上恨まれたらお祖父ちゃんが可哀そうだ。
「そうね。まずは目先の問題として、イグッシュ語ね」
「うん。それなんだけど、ほぼほぼ覚えたから大丈夫」
「・・・はい?」
きょとんとした後、呆れた顔で笑いながら、はぁ~とため息をつく。
え、今は呆れるようなこと言ってないだろ?
「あなたの頭の中は本当にどうなっているのかしら? 一日で知らない言語をマスターしたの?」
「実は全く知らないって訳じゃなかったんだ。五百年前にあったイグムって国の言語を発展させたもので、法則もスペルも似ていたからそれ程難しくなかったよ」
母さんはコクリと顎に手を当てて頷いた。
「なるほど。下地があったってことね?」
「うん。だから複雑な文法はまだ無理だけど、日常会話くらいならいけると思う」
「それならよかった。いや、うーん、いいのかしら?」
「何か問題が?」
特にないと思うんだけど?
「出来過ぎることが問題。昔から言ってるでしょ」
あ、はい。
そうですね。
学習しませんね僕。
「前世のことを言うわけにはいかないし。一日でマスターしたってなったらそれはそれで・・・」
「でも、授業についていきたいし、これはしょうがないだろ?」
「そう。そうね、ああ、どうなるかしら~」
母さんの悩みは尽きない。
ホントごめんなさい。
*********
「・・・ええと、正解です」
ざわざわざわ。
次の日の歴史の授業。
ミネルヴァ先生は、順番に指名して、教科書を朗読させていたのだけれど、僕が読めないと思っていたので、飛ばしてくれようとしたから、問題ありませんと言って、戸惑いつつも読むように促され、実際に読んでみた。
どうやら問題なかったようで、ホッとしたのだが、周りの反応は予想通りだった。
母さん。
ごめん、やっぱりこうなったよ。
「あいつマジなのか?」
「嘘でしょ? 一日で読めるようになったの?」
「いやでも、初日のあの魔術戦闘を見ると、あり得そうな」
そんな周りの反応に困っていると、
「茶番だ!!」
ほら来た。
クラウスが席から立ち上がり、僕を睨みつけながら指差す。
「自作自演だ。お前は初めからイグッシュ語が解ったんだ。なんだ? 『僕一日で覚えました。凄いでしょ?』とでも言いたかったのか?」
イラ。
その煽り方、マジでイラつくわ。
「本当に昨日までは解らなかった。これでも努力したんだ」
「嘘だな。つまらない芝居はやめろ」
こんにゃろ。
「いい加減にしてよクラウス。彼は単に授業に追いつきたくて必死だったってだけでしょ!」
メリアが庇うと、クラウスは益々顔を歪ませる。
「三ヶ国だ。明日までに三ヶ国語覚えてこい。そうしたら信じてやる」
「「はあ?」」
何言ってんですかこの子?
「出来ないだろう。ふふ、これで茶番と認めるんだな」
なんでそうなるんだ?
多分こいつ、本当はここまで馬鹿じゃないだろ。
僕が憎らしくて歯止めが効かなくなってるんだ。
「クラウス君。いい加減にしなさい!」
先生の怒られて、クラウスは若干怯んだ。
しかし、それでも止まらない。
「ふっ、女の先生に庇われて、さぞ嬉しいだろうな田舎者」
「クラウス君!!」
こいつ、先生にまで、いい加減にしろよ!
「いいだろう。明日までに三ヶ国、いや、五ヶ国覚えてやるよ!」
「・・・何?」
クラウスは信じられないという顔で、僕を見る。
「ちょ、ちょっとアルフっ」
メリアがこそっと止めに入るが、クラウスは更にいちゃもんを付けてくる。
「い、いや駄目だ。お前は本当は言語学が得意なんだ。騙されないぞ」
「だったら十ヶ国だ」
どぉおおお!!
周りから声が響いた。
「十ヶ国・・・」
「そうだ。国はお前が指名しろ。その国の言葉を覚えてやる」
クラウスが戦慄を覚えたように顔を引きつらせ、横眼で見たら、リゼは目を丸くし、後ろからはメリアが大きく嘆息する声が聞こえた。
「仮にだ。僕が言語学が堪能だとしても、母国語を含めて十二ヶ国語喋れるってことだ。それだけ出来れば十分凄いだろう」
「・・・いいだろう。それじゃあニ日後くらいに」
「明日までで結構だ」
どぉお!!
再び教室が沸く。
「あああ・・・」
メリアがどうしたものかといった声を上げた。
「か、勝手にしろ!」
そう言ってクラウスが吐き捨てるようにそう言った時。
「いい加減にしなさい!!!!」
バン!! と、思い切り教壇を叩きつけ、ミネルヴァ先生がキレた。
「私の授業はそんなにつまらないですか? そんなに喧嘩がしたいんですか!?」
「「い、いや、そんなことは」」
こ、怖ぇ~。
のんびりしてそうな人なのに、そういう人ほど怒らせちゃいけないって本当だな。
「アルフ君!!」
「ひ、ひゃい!!」
やば、変な声出ちゃった。
「『〇×△』」
ミネルヴァ先生が知らない単語を口にする。
「復唱してみなさい」
「あ、はい『〇×△』」
一応言ってみたが、先生みたいに流暢には言えない。
「ゴータ君!!」
キッと先生はクラウスを睨む。
クラウスは先生の圧に負けてビクッとなる。
「どの国をチョイスするかはお任せしますが、カランド語は入れておきます。いいですね?」
「わ、分かりました」
ふむ、今のはカランド語というのか。
「それと、アルフ君が明日出来ようが出来まいが、これ以上のトラブルはごめんです。これが最後にして下さい。出来なければ相応のペナルティーを課します」
「「はい」」
目じりを三角のまま、先生は大きくパンパンと手を叩く。
「はい、では授業を再開します。これ以上わたしを怒らせると何するか分かりませんよ!」
・・・それ以降、私語をする人間は一人も現れなかったのは言うまでもない。
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