第16話暴露!
会場に入った僕達は整列をさせられ、教師達それぞれの話を聞くという流れで進行していた。
教師達は自分の担当と、心構えなどを伝えてくれるのだが、正直言って眠い。
メリアはすぐ近くに整列しており、真面目に話を聞いていた。
やっぱり真っすぐな子なんだな。
それはそれとして、さっきからずっと視線を感じる。
ちらりとそちらに目をやれば、例のクラウスだった。
その視線は憎しみに満ちている。
メリアなら解らなくもないけど、何で僕なんだ?
入学式は滞りなく進んでいき、校長が僕達に言葉を送る段に入った。
司会の教師が声を発する。
「これより校長の挨拶がございます」
教壇へと上がる一人の男性を凝視する。
年の頃はおそらく六十前後。
魔術師らしい三角帽子を被り、目元にはモノクル。
足元まですっぽりと収まるローブを着込んでいるが、見たところは細身の体格だ。
そして、右手には足元から肩の辺りまである杖を持っている。
ほお、五百年前のデザインより長いな。
あれが今の流行りなのか?
僕は前世で指先から肘辺り程の長さの物を使っていたが、校長の持つ杖からを凄い力を感じる。
彼自身も相当の使い手と見た。
別段戦いたいわけではないけれど、どんな魔術を使うのかは見てみたい。
まあ、魔術師が研究成果を無償で見せてくれるわけがないので、こちらも見返りを用意しないと。
思わず、手をにぎにぎとしてしまう。
「さて、諸君。入学おめでとう」
校長は一度言葉を切り、一同を見渡してから再び口を開く。
「今年も厳しい入学試験を突破し、これだけの生徒達が学舎に招くことが出来て、大変に喜ばしい」
何?
試験だと?
そんなものは受けていない。
まさか、本当にコネで裏口入学させてもらったのか?
そんな馬鹿な。
「さて、今年はこの学校の創設者であるアルフレートの直径、ミスターゴータが入学した。彼に一度挨拶をしてもらおうと思う」
え?
アイツわざわざ挨拶するのか?
アイツが首席、なのか?
それともただアルフレートの直径だから?
奴は教壇に上がると、高い声で朗々と話し始めた。
「紹介に預かった、クラウス・アルフレート・ゴータです。これから三年、共に暮らせる学友達に向け、こうして挨拶出来たことを嬉しく思う」
まあ、無難だな。
そう思い、さっさと終わらせてくれと願ったその時。
ハッキリと奴と目が合った。
「だがしかし! 校長先生は厳しい入学試験を突破してこの学校に入学したと仰っていたが、不届きにも、裏口入学した者がいる!!」
おいおいおい、まさかこいつ!?
何を口走るつもりだ!!
流石に校長も眉間に皺を作り、教員の何名が立ち上がり、クラウスを止めようと走り出す。
だが、奴の口の方が早かった。
「君だ! ミスターアルベルト!!」
ご丁寧にも僕を指して奴はハッキリと告げた。
やってくれたな、あの野郎!!
爆発的に辺りがざわつき、僕は会場中から注目された。
僕は茫然自失となり、メリアは今にも悲鳴を上げそうな顔で口元に手を当てている。
「え、えーー! これにて入学式は終わりとします! ゴータ君はありがとう。教壇から降りてよろしい!」
司会の教師にそう言われ、クラウスは大人しく教壇を降りた。
醜悪な笑みで僕を眺めながら。
急転直下の事態に陥った僕は、メリアと共に逃げるように会場から出て行こうとしたのだが、無論、そうはいかなかった。
周りにいる多くの生徒達が、僕に向けて罵声を浴びせ、道を遮った。
「くそ、メリア。僕から離れろ。君まで巻き添えを食らうぞ」
「馬鹿言わないで。この状況で放って置けるわけないでしょ!」
この子の正義感は立派だ。
しかし、このままでは彼女も被害を受けてしまう。
こうなれば一刻でも早く、この会場から逃げなくては。
僕はメリアの手を握り、強引に出ようとしたが、なんと、植物が足元から急に伸び、僕を拘束した。
チッ!
植物を操る魔術か。
誰だか知らないが、中々やるじゃあないか!
その誰かはすぐにあちらからやって来た。
青い髪の凛とした佇まいの女生徒だった。
怒りを宿した瞳で僕を睨む。
「入学試験で不正をした。それは本当なの?」
僕は呼吸を整え、彼女を正面から見据える。
「なんのことかな?」
「今、ゴータ君が言ったことは本当か聞いているの」
「勿論、真っ赤な出まかせさ」
平然と大嘘をかます。
ここで認めると、どうしようもない事態になる。
僕だけではなく、アルベルト家そのものに大きなダメージを与えることになる。
とにかくだ。
とにかくここはこれで乗り切る。
「君のような漆黒の髪は珍しい。試験の時に見た記憶がないのだけれど?」
「さあ? 全員を覚えているわけじゃないだろう?」
彼女は目元をピクっと動かす。
「いいわ。でも、私達はちゃんと勉強してこの学校に入った。君が不正で入学したとしても、誰も君を認めない。どうせ授業についていけない」
「なら、認めさせるさ。嫌ってほどね」
「ふん」
目を細めた後、彼女は手を下に向けた。
植物を解いてくれるらしい。
「結構だ」
僕はパチンと指を鳴らす。
その瞬間に生えていた植物がするすると地面へと戻った。
彼女は目を見開く。
「急いでいたのは分かるけど、杜撰だね。式の構築はしっかりとした方がいい」
「・・・やるね」
「アルベルト君」
ちょっとぽっちゃりした男の人が僕を呼んでいる。
あの人、誰?
ああ、教頭先生だ。
さっき挨拶してた。
アルベルトって、僕か。
慣れないなアルベルト。
「すぐに校長室に来なさい」
「はい」
まあ呼ばれるわな。
「先生。私もアルベルトの人間です。同席しても構わないでしょうか?」
おい、だから。
一緒にいない方がいいってのに。
とはいえ、これだけ注目を集めてしまえば今さらか。
「・・・いいでしょう」
教師が出て来た以上、生徒達は黙って見ているしかなく、ようやく僕達は式場から出ることが出来た。
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