第446話 懐かしいな

 ――ここは……見知った天井だ。

 ベッドのから窓に目を移し外を見る。時間は丁度明け方ごろか。

 壁のせいで、外はまだ暗い。だけど壁の上に目をやれば、朝の光が見える。

 そして左右には風見かざみ児玉こだま。だけど俺を挟んで、恋人繋ぎをしたまま寝てやんの。器用なものだ。

 これがいわゆる“百合の間に挟まる”というやつか。

 というかこの状況は何度かあるが――周囲に目をやり調度品などの配置を記憶と照らし合わせる。

 成る程、今は173年か。

 ここまで4時間、3日、約4か月、3年、そして今度は9年か。

 確かに間隔はどんどん長くなっているが、特に法則は感じられないな。

 双子と協力の約束を取り付けたのが171年だから、今回が楽できる最後の機会か。


 二人を起こさないように動くが、やはりさすがは召喚者。僅かに動いただけで、意識があるかどうかが分かったのだろう。まるで寝ていなかったかのように起き上がる。


「おはよう」


「今日も早いね、また迷宮ダンジョン? 近場なら付き合うよ」


「いや、よく聞いてくれ。実は今、例の本体と戦っている最中なんだ」


 児玉こだまはキョトンとしているが、風見かざみはもう分かった様だ。


「未来の事は分からないけど、どんどん過去へと戻っている最中って訳ね」


 さすがに話が早い。


「だけどどんな勝算があって始めたの? こうして過去に戻っているって事は、根絶は出来ていないって事なんでしょう?」


「まあそういう事だ。詳細を話していきたいが、奴は過去に戻ってしばらくは弱っているんだ。そんな訳で、やる事は急いで全部やって行かなきゃいけない。詳細は後で話すが、無理そうならフランソワと平八へいはちから聞いてくれ。ついでに話しておくから」


 それだけ言って、フランソワの研究室へと飛ぶ――が、いねえ。

 そりゃ24時間ここに居るわけじゃなくて、どちらかと言えば迷宮ダンジョン生活の方が長いんだよな。

 彼女も召喚者として、色々なアイテムを集めているわけだよ。当然研究素材もな。

 だけど召喚者全員のスケジュールは頭に入っている。伊達に責任者をしていたわけでは無いのだ。

 そして今日の彼女は……迷宮ダンジョンとしか記載されてねぇ……。

 そりゃそうだ。細かな居場所まで全部把握できるわけがないよな、チクショウ。


 そんな訳で戻って来る事に期待して新型の塔を2本作っておいた。

 1本は直ぐに設置するが、もう一本はフランソワの研究用だ。彼女ならこいつから複製を作るだけの能力があるだろうからね。


 そして塔が完成する目途が立った時点で磯野いそのに連絡して本体の位置を確認。

 そのまま龍平りゅうへいに伝達だ。

 当たり前だが、本体はとっくに移動していた。

 しかもこの頃の奴がいた場所は完全にホームグラウンド。

 大変動の直後や根城を変える時に、奴は周囲の様子を眷族や同類の集団を使って把握する。

 この頃の奴は、完全にそれを終えて休んでいる状態だった。

 だから逆に、脅威を感じた時の移動も早い。周辺の状況は全部知っているわけだからな。

 しかも、双子が自分を殺しに来る事も知っている。そりゃ焦るだろう。


 磯野いそのから来る連絡だと、相当に複雑な動きをしている様だ。把握されているとも知らずにな。

 だけど時間がかかった事は間違いない。

 この時間を使って、龍平りゅうへいにだけは時計の件も話しておいた。

 まあ必要ないとは思うけど一応ね。


 そして新たな塔を設置し、余った時間で風見かざみ児玉こだまに説明。

 それでも時間が余ったので、神官長のミラーユ・二―・アディンに塔を取り換えた経緯や世間話をしていると、世界が再びガラリと変わる。

 これで6回目だな。





 ◎     ▲     ◎






 ここは俺の家。丁度仕事を終えて戻って来た時だな。

 テーブルの上には料理が並べられ、目の前にはケーシュとロフレがいる。

 二人とも30は過ぎたがまだまだ若い。

 会話の内容と料理から、今が大月歴の146年だと分かる。

 生きている二人との他愛のない会話に、思わず涙が出そうになる。

 丁度この頃は激動の時代だった。


 1年前の145年。俺たちは遂に本体を発見。

 きっかけは、磯野いそのが新人教育で迷宮ダンジョンに入った時だった。

 丁度通行しやすい迷宮ダンジョンに変わっていた事もあって、同じ期間でもいつもより遠くへ行けた。それが良い事だったのか悪い事だったのか……まあ両方だな。


 結局、磯野いその一行は奴の同類に遭遇。

 完全に遭遇しないルートは無い事が判明した後は戦闘して離脱となったが、それが逆に奴らを集める事になってしまった。

 眷族を含んだ連中の群れに飲み込まれ、第14期生はほぼ壊滅してしまった。

 だけどそのおかげで俺たちは本体を倒し、時間は戻されたが俺と奴は繋がる事になった。

 そしてこの戦いが帰還する予定だった磯野いそのの心に火をつけ、ここまで時間遡行をする大きな要因ともなったわけだ。

 世の中どう転ぶか分からないものだ。

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