第315話 これは俺のせいでもあるんだな

「さあ、そろそろクライマックスなのかな? それともクロノス様はまだ余裕?」


「どうだろうな」


 いやもう無理です、死にます、消えます。本当に勘弁して。

 戦えるやつが後1人か2人残っていたら本当にアウト。

 いざとなったらラーセットまで逃げ帰るという手もあるが、もうスキルを制御するアイテムが壊れそうだ。長距離移動は失敗の可能性もある。


 最初から無い時はもう暴走一直線。終局までノンストップだが、このアイテムはそうならない為のストッパーだ。

 有難い事でもあるが、同時に壊れると暫くは行動不能になる。スキルの使い過ぎは厳禁って訳さ。

 これは存在する限り、手放したって意味がない。

 いっそ壊してから来れば良かったとも思うが、その反動の代償をケーシュやロフレでは解消しきれなくなっているからそうもいかない。

 結局のところ――、


 飛んでくる武器を叩き壊す。

 全くもったいない。これを入手するのにどれだけの苦労があったか。

 だけどそんな事は言っていられない。どれだけ貴重でも、また探して来ればいいんだからな。


 避けては砕き、刺さったものは外す。

 もう部分ごと全部外すだけの余裕はない。武器をするりと外し、出血も外す。今出来るのはこれだけだ。

 痛みも外してあるとはいえ、こうもズタズタにされると動きも鈍る。制御アイテムも悲鳴を上げっぱなしだ。


 スキル自体の攻撃とは違ってカウンターも出来ないが、限界が近いのは児玉こだまも同じか。

 もう飛んで来る武器に迂回もフェイントも無い。ただ真っ直ぐ飛んで来るだけ。しかも同時に来る数も少ない。


「さすがにもう限界だろう」


「たとえそうだとしても、降参はしないよ。受け入れる気も無いんでしょう」


「そこまでわかっていながら、なんで風見かざみを裏切ったんだよ!」


 飛んで来る武器を砕きながら叫ぶ、結局は、これを一番聞きたかった。

 それに比べれば、連中が裏切ったって事自体も霞む。


「あいつとはずっと親友だったんだろうが!」


「言ったでしょ。あたしは男を選んだの。確かに絵里奈えりなは親友だけど、仲良しこよしだけで生きるには、この世界は辛すぎるのよ」


 言われて、今更ながら自分の迂闊さを呪う。

 召喚者を任せられると思った。だから任せた。

 実際に、彼らや彼女たちは応えてくれた。ここまで頑張ってくれた。

 新人を教育し、召喚者同士のトラブルを鎮め、迷宮ダンジョンでトラウマになってしまった者の心のケアもしてもらった。

 そうやって全てを丸投げした。そうして、時間が出来たと喜んだ。

 だけど、彼女は誰がケアしたんだ。彼女の苦しさを、誰が分かち合ったんだ?

 確かに風見かざみは大切な親友だろう。だけど、それだけじゃ足りなかったんだ。

 影に立つ風見かざみと色々な意味で最前線の児玉こだまでは、負担が全然違うのだから。


「俺は馬鹿だな」


 あの時、俺に抱かれても良いって言ったのは、こいつなりのSOSだったんだ。

 もしあの時応えていれば、彼女はあの男の元へは行かなかった。


「そうだねぇ。クロノス様って頭は良いけど、結構単純だよね」


 いやそういう意味じゃないんだけどな。

 最後に飛んできた巨大剣を打ち砕き、同時にこちらの手斧も限界を迎えた。


 ……あとは予備のナイフが2本ってところか。


 だけど俺が持っている武器を彼女は使えない。これで詰みだ。


「悪いけど、俺の勝ちだ」


「それはどうかな? 勝ち誇るには早いと思うよ」


 考えてみれば、何処にまだ埋まっているか分からない。

 こいつ意外と策士だしな。

 体に張り付けてある制御アイテムを意識で確認する。もう幾つもの亀裂が入り、限界はすぐそこだ。これ以上くらったら、さすがに終わりかもしれない。

 とは言っても、ここで弱気を見せてはだめだな。


「強がりはよせ。素直に降伏しろ」


「……それは意外。裏切り者は許さないと思っていたよ。実際許さなかったじゃない」


「ああ、許さないさ。それはお前でも変わらない。けじめは必要だからな。だから……」


「だから?」


「お前には帰ってもらう。日本にな」


「それって、結局向こうに現れる怪物モンスターに殺されるって事でしょ?」


「そんな事はさせないさ。必ずこの世界に居る奴を見つけ出して倒す。もう地球にあいつは行かせない」


 俺としては必死に言ったつもりだったが、児玉こだまは寂しそうに笑った。

 こいつ、絶対に俺には出来ないとか考えているな。


「信じてあげてもいいけど。一つだけ条件があるよ」


「なんでも聞いてやろう」


「あたしに勝ったら。単純明快で分かりやすいでしょ?」


 その言葉と共に、今まで砕いた武器が浮かび上がる。

 それは渦を巻きながら俺の周囲を囲み、さながら銀色の花吹雪だ。まあそんな可愛いものじゃないけどな。

 というか、これは反則だろう。

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