第66話 準備も覚悟も完了した
更に登って2日。俺達は、かなり狭い横穴で休んでいた。
元々大きな鳥の巣があったが、住んでいた極彩色の鳥には出て行って貰った。ついでに卵も頂いた。
大変動からそれなりに時間が経過したとはいえ、もう成鳥が卵を温めている。なんというか、無茶苦茶だ。
この調子でどんどん生き物が増えていくのだろうか。
「明日はもう地上に出る予定だ」
「もうですか!? それはそれで少し予定が……」
「何かあったのか?」
「以前に説明いたしましたが、地上に出る為にはセーフゾーンを通らなければなりません。それなりに工作が必要になるのですが、まだその支度が出来ていないのです。本当に申し訳ありません!」
頭を下げようとするが、止めてくれ。ここはとにかく無茶苦茶狭い鳥の巣だ。
当然体は完全に密着中。胸の間に俺の腕が挟まっている状態。動かないでくださいお願いします。
その点セポナは落ち着くなぁ……。
いやそっちの趣味があるわけじゃないぞ。というか、あったら落ち着いてなどいられないだろう?
だけどまあ、それも明日までか。
「ひたちさんの心配は無用だ。詳しい事は明日説明する。それよりセポナ」
「なんでしょう?」
「明日出発する前に、奴隷契約は解除する」
「はあ……もう用済みですか。予定よりだいぶ早かったですが、覚悟はしていました。せめて苦しくないようにお願いします」
「殺さねーよ!」
こいつのイメージの中の俺は、やはりまだ殺戮者なのだろうか?
そうだとしても文句を言える筋合いではないけどな。
「普通に解放だよ。どうせ俺の事は向こうに知られているんだ。聞かれた事も全部答えちゃっていいぞ」
「え、本当に解放なのですか?」
かなり驚いた顔だ。だけど何か違和感がある。
そうだ、もう少し喜ぶと思ったんだ。だけどそんな様子は無い。
どちらかといえば、少し考え込んでいる様子だ。
俺に惚れたか? まあ無いな。
「大手を振って地上に戻れるんだ。元々の
なんせ最初に“市民”と名乗ったからな。その辺りは間違いないだろう。
「え、ええ。そうです。もう奴隷契約をした時点で金銭面も解決していますし、完全に自由の身になるってやつですね」
笑顔で答えたセポナの陰に、もう少し注意を払うべきだったかもしれない。
だけど俺には、そんな余裕は無かったんだ。
△ ▽ △
翌日、もう縦穴の天井が微かに見えるような位置まで登った後、横道へと入った。
そしてそこから1時間ほどで、いかにも人工物といった空間に出る。
石造りの細い通路。いや、道じゃないな。臭い匂いの水が足首程の深さまで流れている。
「ここは……下水でございますね。本当に分かっておいでだったのですか?」
感心する口調だが、表情が硬い。はい、理由は分かります。
「俺だって悩んだけどな。最短で地上に出るには他に手は無かった。まあ今は問題無いんだ。大目に見てくれ」
迷宮の出口が地上に繋がる事がある。その話を聞いた時、もう予定としては決めていた。
迷宮の縦穴同士を塞ぐ壁を”外した”のと同じ事だ。単に迷宮と地上との間の薄い場所を外して繋いだんだ。
町の地形も知らない訳なんで行き当たりばったりだったが、まあ成功したのだから良いだろう。
「今は……でございます。使い続けてしまえば――」
「分かっている。もうこれ以上は注意する。俺だって消えたくはないしな。
「その……今更言うのもなんですが、上手くいくのでしょうか?」
「行くさ。心配するな」
そう。必ず上手くいく。その為にこんなにも迂回したんだ。
多少ひたちさんのニュアンスに引っ掛かりを感じたが、それは全てが終わった後で確認すればいいさ。
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