第59話 今は無事だと判ればそれでいい

 パンツと一緒に体も洗う。

 確かに長い迷宮生活のせいか、擦れば擦るほど垢が出る。

 だけど、あれほど激しい戦いをしたのに体の何処にも傷が無い。

 外した、ずらした……そんなニュアンスで説明されたけど、多分それも微妙に違う。

 本当になんなんだろうな、このスキルは。


 水に沈みながらあれこれ考えてるが、結局この世界に来てから同じ事。

 そう、考えるだけで答えの出ない堂々巡り。もう馬鹿々々しい。


「ひたちさん、少し聞いても良いか?」


「もちろん何なりと」


 ちらりと見ると、焚火の前で相変わらず服も着ていない。

 淡い炎に照らされた姿は幻想的で……はい、ストップ。それは頭からポイな。


「俺の事を色々知っているし、地上の事も詳しそうだ。だから単刀直入に聞く。俺と同じに日に召喚された、水城奈々みなしろなな水城瑞樹みなしろみずき、それに西山龍平にしやまりゅうへい。この3人の状況を知りたい」


「それは……」


 ひたちさんは言い淀む。だがそれが逆に不安にさせる。

 もう上へ行く。それは絶対に変えない決意だ。たとえ3人は死んでいると言われても、じゃあ止めますなど有り得ない。

 これはこの鍾乳洞で目覚めた時から続く俺の目的。生きてきた意味だと言ってもいい。

 他人からどんな情報が入ろうと揺らぐことは無い。


 彼女はどうしてハッキリと言わない?

 知らないとは言わせない。俺を探して協力させたかったって事は、俺に関する事も全て調べただろう。

 問題が無ければ言って差し支えの無い情報のはずだ。

 嫌な予感しかしない。


「情報は入っているんだろ? 無事なのか?」


「はい、全員無事です。死んでなどおりませんし、何らかの拘束などもございません。普通に自由に行動なさっております」


 なら何も問題はない。


「明日出発する。それはもう決定事項だ」


「畏まりました。それでは地上に関しての全ての説明を致します。さすがに何も知らない状態で送り出す事は出来ませんので」


「助かる」






 翌日、俺はこの世界に関しての講習を受けた。

 地上にはセーフゾーンがある。それは何があっても絶対変わらない出入り口。それこそが、この国の首都がここにある理由だ。

 それに大変動の度に発生するランダムな出入り口が複数個所だ。

 通常は、何があっても変わらないセーフゾーンの出入り口を使う。当然だな。

 逆に予定外に出てしまう出入り口は厄介で、そこから迷宮のモンスターが出現する。

 当然騒ぎになるため、そちらには警備の人間や、場合によっては召喚者が派遣されるという。


「こっそり地上に出るのは不可能そうだな」


「モンスターが対処され、もう出てこないと判断された箇所は手薄になります」


「そういやモンスターの生態ってどうなっているんだ?」


「正しい事は不明です。大変動と共に出現致します。種類も様々で、必ずしも生き物とは限りません。それに大変動の度に、出てくるモンスターの種類や性質も変化します」


 ゴーレムや幽霊ゴーストみたいなやつもいるって事だろうか?

 そういやブラッディ・オブ・ザ・ダークネスさんと一緒にいた双子。アレの正体は何なんだろう。

 聞きたいが、失礼な質問になると困るので控えておこう。


「生物の場合、捕食し繁殖する事も確認されています。ただそれも大変動までと言えるでしょう」


「大変動の度にそれまでの生き物は絶滅して、新たな生態系が出来るわけか」


「生態系と言えるほどに確立したものとは言えませんね。ただ外に出た怪物モンスターは厄介です。繁殖などされてしまうと、種類によっては害獣どころではございませんので」


 確かにそうか。迷宮内では生態系を作るほどの期間の余裕はないが、外であれば話も変わる。

 ひたちさんは収まれば手薄になると言ったが、それはあくまで見た目だけだろう。

 おそらくだが、相当なトラップが仕掛けられている。それに見張りは減っても、何か事があれば即集結するはずだ。軍隊なり召喚者なりがな。

 ランダムで空いた出入り口は、ある意味固定されたセーフゾーンよりも厄介かもしれない。


 しかし知恵を持つモンスターは、そんな環境をどう思っているのだろうか?

 そもそもあの黒竜なんかはどんな存在だったんだ?

 謎は深まるが、余計な事は今は置いておこう。

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