第6話 シキ
「結婚することになった」
今日は帰らなきゃいけないと言われたあと、その言葉が続いた。
「俺は籍だけって思ってたけど、向こうの親のために式もしなきゃいけない」
知ってた。
あの人、少し前からこれみよがしに左手の薬指を光らせてたから。
「泣かないの?」
あぁ、ホント意地悪。
「泣かないよ」
だって、籍入れたところできっと何も変わらない。
私達。
「式に呼んでくれる?」
「え……いいのか?」
「うん。顔、出しといたほうがいいと思うし」
まさかこれからは不倫相手になる女が、自分の結婚式に出ているなんて思わないでしょうから。
「貴明さんの部下だもの。出席しないほうが変じゃない?」
幸せそうに、勝ち誇ったように微笑むあの人を見たい。
滑稽かな。
どっちが?
「今日は帰るけど、週明けからの出張はちょっと良いところとったから」
「わぁっ。うれしい」
思わず、彼の胸に飛びついてしまった。
部下が出張にお供するのも当たり前。
出張手当も当たり前。
やったー。
今回の出張は名ばかりみたいなもので、ただの顔合わせだ。
日帰りでもいいぐらい。
なのに、彼はふたりのためにいい宿をとってくれた。
「式に出るなら、ドレスがいるな。今度買いに行こう」
「うん! 貴明さんが選んでくれたドレスででるっ」
大丈夫。シキだってセキだって、二人の関係を壊さない。
「私、お式で頑張って『おめでとう』言うね」
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