第33話 笠取山登山、「さらば笠取山。でも、また来るよ~」編
のどかな雁峠の草原で、のんびりとした一時を過ごした山楽部御一行と春海は、友香里の高らかな出発の音頭と共に、次なる目的地の笠取小屋へと向かって歩き出して行く。
来る時に通って来た森林の中の登山道を戻って行き、僅か15分ほどで小さな分水嶺の丘に辿り着くのだった。その分水嶺の丘の前に通り掛った時、先生が突然歩みを止めて後ろを振り向き皆んなに話し掛けた。
「諸君! 雁峠を出発して15分。もう、分水嶺の丘に戻って来てしまった。ここから笠取小屋までは、20分も歩けば到着してしまう。余りにも早く小屋に戻ってしまうから、ちょっと暇を潰して行こうと思う。如何だね、ここでいつもとは違った感じの記念撮影をして行こうと思うのだが」
突然、先生から、いつもとは違う記念撮影をして行こう! と声が掛けられて皆んなは、何それ~? と言う表情を見せながら先生をジ~と見つめるのだった。
「隊長! いつもと違う記念撮影って一体どんな風に撮るんですか。もしかして、何かポーズを決め込んで撮るとかですか?」
「いつもと違う記念撮影をするとなると、ジャンプをした所を撮るとかですか? それだと、有りがちな撮影に成ってしまいますが」
隼人と友香里から、何かポーズを決め込むのか、ジャンプをした所を撮るのか、どうゆう様な違った撮影を試みるのか、先生に質問が浴びせられた。
「皆んな、いつもと違う撮影の仕方が気に成る様だね。勿論、良く有りがちなジャンプをして空中に浮いている瞬間を撮るとかではないんだよ。私が提案したいのは、手でハートを作ってポーズを決め込んでみたら如何かなと思うんだ」
「えっ? 手でハートマークを作るんですか。そうすると、よく有る指でハートマークを作って皆んなで撮ると言う事ですか、先生」
手でハートを作ったポーズ写真を撮る! と言う事を先生から聞いた春海は、すかさず手の指でハートマークを作るジェスチャーをして見せるのだった。
「いやいや、違いますよ春海さん。その手の指を使ってハートマークを作るのは、ありふれていますし、ハートが小さすぎだと思うんです。もっと、大きいハートマークを手全体で作るんですよ」
「隊長! 大きいハートマークは一体、どの様にして作られるのですか? わたくしには指を使って作る事しか思い浮かばないんですが」
「穂乃花と同じく、あたしも指で作るハートマークしか思い浮かばないんですけど、手全体を使って作るのは如何やってやるのか教えてください、隊長!」
手全体を使ってハートマークを作ると言う事を聞いた女子達は、如何やって作るんだろう? と首を捻りながら問い掛ける。すると先生は、徐に春海に近寄って行き口を開いた。
「春海さん! 皆んなが分かる様に、私と一緒にハートマークを作りましょう。良いですか、私と1m位の間隔を取って向き合って立ってください」
「あっ、はい! 間隔を1m位取って向き合うのですね」
指示された春海は、先生と1mの間隔を開けて向き合って行く。
「それでは向き合った所で、右手を頭の位置に持って来て手首を曲げ、指先を下に向けてください。そして左手は真っすぐ斜め下に伸ばすんです。私と同じ様にやってみてください」
「分かりました、その様に手の形を作れば良いのですね。右手を頭の位置で手首を曲げ、左手は真っすぐ斜め下に伸ばすと。そしたら先生と手の指先を合わせれば良いのですね」
春海は言われた通りの手の形を作ると、先生の指先と合わせて行く。すると如何だろう、お互いが指先を合わせて作った形は見事なハートマークと成っていたのだ。
「うわ~見事に大きなハートマークが形作られたわね。なるほどね、こうすれば良いのね。やってみると簡単な事なんだけど、なかなか気が付かないものよね~」
春海は、手を使って形作られた大きなハートマークを見て、驚きの声を上げて居るのだった。その様子を見て居たメンバー達も、目を丸くして驚きながら口を開いた。
「隊長と春海さんのお互いの手で、こんなにも大きく形作られたハートマークが出来るなんて凄いわ!」
「わたくし、手全体を使ってハートマークを作るやり方を知りませんでしたわ。今日に初めて知りましたの」
「実際にやってみると簡単な事なんだけど案外、気が付かないものですね。私達も早速、型作ってみましょうか」
「そうしましょう、僕達も2人づつのペアを組んでハートマークを型作り、記念撮影に臨みましょう。では2人づつのペアを早速、決めませんか? 僕は華菜とペアを組もうと思うのですが」
大きなハートマークが形作られるのを見たメンバー達から称賛の声が上がる。そして隼人からは早速、ペアを組んで撮影に臨もう! と声が掛かり、華菜とペアを組む事を宣言するのたった。
(隼人ったら直ぐ様、華菜とペアを組みたい事を宣言したわ。これで自分達が、できてるって事を認めた様なものよね)
「まあ〜2人共、仲が良い事ですこと。いつの間に仲が良く成ったのかしら? まあ、2人で仲良くしてくださいな。私は穂乃花とペアを組むわ。宜しくね穂乃花!」
「隼人と華菜は仲が良さそうだから、ペアを組むのは決まりですね。わたくしは友香里とペアを組みますわ。宜しくお願いね、友香里!」
直ぐ様、華菜とペアを組む事を宣言した隼人に、2人は良い仲なんじゃないの? と言う印象を受けた友香里と穂乃花は、怪しい目付きで2人を見ながら話すのだった。
(もう、隼人ったら! ストレートに、あたしとペアを組むなんて口にするから、友香里と穂乃花に完全に怪しまれてしまったじゃない。でも……まあ、いづれは分かる事だからしょうがないか~)
(友香里と穂乃花の僕達を見つめる視線がキツクて、目のやり場に困ってしまうよ。これは、来週に学園に行ったら友香里から尋問を受けそうだな。気が重いけど、こうなったらいっその事、付き合ってる事がバレた方が気楽に成って良いよかな)
友香里と穂乃花の強い視線を感じ取った2人は、図星だとばかりに気まずい表情を見せて居る。すると、その様子を見ていた春海が気に成ったのか話し掛けて来た。
「まあまあ、大将と華菜の仲が良くてもいいんじゃないかしら。2人共、そんなキツイ目つきで睨んだら可哀そうよ。はいはい、皆んな自然にして記念撮影に臨みましょうよ。ペアを組むのは、わたしと先生、友香里と穂乃花、大将と華菜で決まりね。では先生、撮影の準備をしてくださいな」
「おお~そうだな、ペアを組む人同士が決まった様だから記念撮影に臨もうか。名付けて[ハートマーク大作戦]を実行に移すよ。では、三脚を出してカメラのセッティングをしようじゃないか!」
小さな分水嶺の丘の前で[ハートマーク大作戦]の記念撮影に臨むべく、ザックから三脚を取り出して撮影の準備に入る先生。そしてカメラの位置を決めた先生は、皆んなに立ち位置の指示を出す。
「はい、春海さんは一番北側に立ってください。その位置ならハートマークの中に笠取山の山頂が入りますので。星野と杉咲は分水嶺の看板が入る位置の、丘の真ん前に立ってください。沢井と如月は背後の森林が入る様に一番南側に立って欲しいです。
では、セルフタイマーをセットします!」
先生は、皆んなの立ち位置の指示をしてセルフタイマーをセットし終えると、自分の立ち位置である春海の隣へと駆けて行き到着する。そして、すかさず春海と一緒に手でハートマークを作って行く先生。
「さあ皆んな、ポーズを決めたか! 予備発光の後にシャッターが切られるぞ。ニッコリと笑って~」
予備発光の後に[カッシャ!]と言う音と共にシャッターが切られて写真が撮られたのだった。皆んなは、取られた写真を確認するべくカメラの場所へと近寄って行く。
「おお~私と春海さんとで作ったハートマークの中に笠取山の山頂が入っていて、これはこれは良く撮れているではないか」
「そうね、見事にハートマークの中央に山頂が入っているわ。先生の立ち位置の指示が良かったのですね」
「僕と華菜のハートマークの中に分水嶺の看板がピッタリと入って写っているよ。それに、僕達の笑顔も最高に良いね~」
「あたし達だけでなく、皆んなの笑顔がとても清々しく写っていて、凄く素敵な写真が撮れているわ。こうゆう変わったポーズで写真を撮るのも良いわね~」
「私達のハートマークの中には森の緑色が写っているわ。深緑の色合いがとても鮮やかで綺麗だわ〜」
「今までの撮影とは違って、変わったポーズで撮ると、凄く印象深い写真が撮れるわね。皆んなの顔が、生き生きとして写って居ますの」
皆んなはハートマークのポーズで決め込んだ写真を見て、見事にハートの中に収まった情緒溢れる情景に感動するのであった。そして、写し出されて居る素晴らしい笑顔に感激して居る皆んなの姿が、そこには在ったのだ。
「さあ、素晴らしい[ハートマーク大作戦]の写真が撮れた所で、次の目的地の笠取小屋に向かおうではないか!」
「そうですね、先生の言う通り最高の記念撮影が終わった所で、笠取小屋を目指しましょう! と、言ってもあと20分も歩けば着く近さですけどね」
「これは参りましたな、春海さんの言う通り、時期に着いてしまうんですがね。では諸君、笠取小屋に向けて出発しようじゃないか!」
〚はい、笠取小屋に向けて出発します〜!〛
掛け声勇ましく、僅か20分で到着する笠取小屋に向けて歩んで行く山楽部御一行と春海。心地よい風が吹き抜ける中、開けた草原を軽快に歩いて行くと樹林帯の中に登山道は入って行く。そして程なくして笠取小屋の建物が見えて来て、一同は到着をするのだった。すると、到着した御一行と春海を見て近寄って来る人物が。そう、小屋の主人の川辺さんが出迎えてくれたのだ。
「おお~皆さん、お帰りの様ですな。如何でしたか、雁峠は? 今日も天気が良かったから、雁峠の草原は凄く気持ち良かったんじゃないかな」
「ただいま帰りました、川辺さん。雁峠の草原で凄く気持ちの良い風を受けながら皆んなで、のんびり、まったりとして過ごして来ましたよ。やはり、この笠取山周辺の景観は人の心を和ませてくれる不思議なパワーを持っていますね。何度来ても、私はこの笠取山が永遠の第1位の山なんですよ!」
「そうかね山岸さん! この笠取山が永遠の第1位の山なのかね。それは嬉しい事を言ってくれるじゃないか。だから貴方は毎年この笠取小屋に足を運んでくれるのだね。そんなに、この笠取小屋を愛してくれてるなんて、わしは凄く嬉しいよ!」
「私の永遠の第1位の山、笠取山を守ってくれて居る小屋の主人に、感謝の言葉を貰えるなんて感激しましたよ。この山が私にとって聖地なんです。これからも毎年欠かさず、笠取山の聖地巡礼に来させて頂きます!」
「そうかそうか山岸さん! これからも聖地巡礼に毎年欠かさず来てくだされ。わしゃ、貴方が来るのを毎年待って居るからね」
笠取小屋に着くや否や、笠取山を褒め称える先生と、その言葉に感動してウキウキして居る小屋の主人は、意気投合して笑顔でガッチリと握手を交わすのだった。その様子を見て居たメンバー達と春海は、クスクスと笑って眺めて居たのだった。
「先生は、この笠取山が本当に好きなんですね。小屋の主人の川辺さんとも意気投合出来る位に仲が良いんですから、何回もこの笠取山に来て居る事が分かりましたよ。……それはそうと小屋に着いたんですから、荷物を降ろして一息入れたいんですが。
あと、山楽部の皆さんは、この後の行動予定は如何なっていますか? 今日の、わたしの行動は、山楽部の皆さんと同じ様にしますので教えてください」
「ああ~これは失礼しました春海さん。川辺さんと意気投合して皆さんを置き去りにしてしまい、すいませんでした。今日の今後の行動予定を申しますと、この後は自由時間を40分取ります。その間に身支度を済ませて貰い、11時には笠取小屋を出発して下山の途に着く予定でおります」
「分かりました、休憩の後は下山の途に着くのですね。そうすると、テントの片付けを早めに済ませたいですね。では、わたしは先にテント場に行かせて貰いますね、先生!」
春海は先生から今後の行動予定を聞くと、身支度とテント撤収を行う為、颯爽とテント場に戻って行くのだった。
「では山楽部の諸君も、小屋へと戻り40分間の休憩時間を使って、身支度を済ませて欲しいと思う。集合場所は11時に、この管理棟前に成ります。では皆さん、散開してください」
〚はい、小屋に戻って身支度を済ませます!〛
メンバー達も、先生の指示の元、掛け声を上げると身支度を済ませる為に宿泊小屋へと戻って行くのであった。
「それでは川辺さん、私も身支度の準備とテントの撤収に入ろうと思うので、この辺で失礼します」
「皆さんは、身支度が済んだら山を降りるのですな。自身の出したゴミは持ち帰りに成りますから、その点を注意してテントの撤収をしてくだされ」
「はい、分かりました。ゴミを持ち帰るのは、登山者のマナーですからね。その点は心得ております。皆んなの身支度が整い下山を開始する時は、また声を掛けますので。では、後ほどお会いしましょう」
先生も小屋の主人と挨拶を交わすと、自身のテント撤収作業に入る為、テント場へと向かうのだった。宿泊小屋の中ではメンバー達が自身の使っていた布団をたたみ終えると、ザックに荷物をしまい込み身支度を済ませて行く。
先生と春海は自身のテント撤収作業を終えると、ザックにテントと荷物をしまい込んで行き身支度を終えたのであった。そして、集合時間の11時。出発準備を終えた皆んなは、管理小屋の前に集合をするのだった。
「はい、皆さん集合しましたね。では、これより登山口駐車場を目指して下山を開始します。登山口までは緩やかな下りの登山道を降りて行きます。コースタイムは約1時間40分で、短い時間の下山ルートですので気持ちを楽にしながら降りて行きましょう。
では下山を開始する前に、2日間この小屋に宿泊してお世話に成った小屋の主人に、お礼を言いたいと思います。私は川辺さんを呼んで来るから、ここで皆んなで待って居てください」
先生が、お世話に成った小屋の主人を呼びに管理小屋の中に入ろうとした、その時! 小屋の出入り口から、お盆を持ちながら出て来る人物が! そう小屋の主人、川辺さんが現われたのだ。
「うおっ! これはこれは川辺さん。ばったりと出くわしましたね」
「おお~山岸さん! もうそろそろ君達がこの場所に集まる頃だと思ってね。わしからの餞別として、君達に笠取小屋特製のコーヒーを飲ませて上げようと思って煎れて来たんだよ」
「えっ? 私達の為にコーヒーを煎れてくれていたのですか。気遣いをしてくださり有難うございます。有難く頂かせて貰います」
「良いんじゃよ、山岸さん。今年は、君の教え子さん達がこの笠取小屋に訪れてくれて、こんなお若い方達と接する事が出来て、わしゃ嬉しいんじゃよ。では、下山する前に笠取山の源流水を使って煎れた[源流コーヒー]を皆さんで飲んでくだされ」
川辺さんは山楽部御一行と春海に小屋特製のコーヒーを飲ませて上げようと、煎れたてのコーヒーを用意していたのだ。その出来上がったコーヒーを一人一人に手渡して行く川辺さん。
「これで皆さんに[源流コーヒー]が行き渡ったね。では皆さん、煎れたてのコーヒーを飲んでくだされ!」
コーヒーを受け取った御一行と春海は、ニッコリと笑顔を川辺さんに見せながら煎れたてのコーヒーが入ったコップを口に運んで行く。
「うわ~これは旨いですね。この苦みが何とも言えないですの~」
「僕はコーヒーが好きでよく飲みますが、この重量感の有る苦みが舌を刺激してくれますよ」
「この苦みが、コーヒーに深いコクを与えてくれてるのだと思うわ。いつもとは違う味わいのコーヒーね~」
「こんなに、しっかりとした味わいのコーヒーは私は初めて飲んだわ。一体、何て言うコーヒー豆を使っているのかしら?」
飲んだ瞬間に、苦みと深いコクの味わいの源流コーヒーに舌を唸らせるメンバー達。その幸せそうに飲んで居るメンバー達の顔を見た小屋の主人は、どんなもんだい源流コーヒーは! と言う顔つきを見せながら口を開く。
「通常、皆さんが飲むコーヒーとは違った味わいの、少しクセの有る味でしょ。使用しているコーヒー豆はインドネシア産のマンデリンと言う銘柄なんだよ。いつもと違うコーヒーを飲みたいなら、お勧めのコーヒー豆じゃよ」
「そうなんですか、アジア産のコーヒー豆を使って煎れて有るのですね。一般的に飲まれている中南米産やアフリカ産の豆とは、また違った味わいに仕上がる訳ですよ。その上に、笠取山の源流水を使って煎れて有るのですから更に美味しさが倍増する訳ですな!」
「わたしも、アジア産のコーヒー豆を使って煎れたコーヒーは初めて飲みましたわ。少しクセの有る味わいを楽しみたい人には、うってつけのコーヒーに成りますね。それに、この風味豊かな香り。美味しい源流の水を使用して煎れて有るから風味も増すと言う事なのかしら」
「ホ〜ホッホッホッ! 皆さん、笠取小屋特製の源流コーヒーの旨さが分かって貰えた様ですな。使っている豆が良いのは勿論の事、何より笠取山の源流から取水した清らかな水を使って煎れているから、香りも風味も抜群に良く成るんだよ。この旨さを堪能しながら飲んでくだされ」
源流コーヒーの旨さを褒められて、小屋の主人は満面の笑みで、皆んなにコーヒーを飲む事を進めるのだった。御一行と春海は、そんな上機嫌の小屋の主人に見守られながら、味わい深い源流コーヒーを飲みほして行くのだった。
「ふう〜本当に香りも良く、風味の良いコーヒーだったよ。こんなに美味しいコーヒーを飲ませて頂き有難うございました、川辺さん!」
「わたしはコーヒーが好きで毎日飲んでいますが、アジア産のコーヒー豆の苦味とコクが舌を刺激してくれて、凄く美味しかったです。頂きました、川辺さん!」
「帰り際に、こんなに美味しいコーヒーを頂けて凄く身体がホッコリしましたの」
「頂きました! 帰りがけの、この一杯が私の身体を暖めてくれたわ。これで下山するパワーがみなぎって来たわ」
「川辺さん、お心づかい有難うございました。笠取山の天然水で作られたコーヒーの味は格別でした。美味しかったです!」
「特製コーヒーを作ってくださり有難うございました。こんなに旨いコーヒーを飲めて、僕達は幸せ者ですよ~」
源流コーヒーを飲み終えた一同はお礼を言いながら、小屋の主人の持つお盆の上へとコップを置いて行くのだった。小屋の主人は、自身の煎れた特製コーヒーを美味しそうに飲み干してくれた皆んなを見て、嬉しい気持ちでいっぱいに成ったのか満面の笑みを浮かべて居るのであった。
「皆んなに、美味しいコーヒーを煎れてくれて有難うございます。川辺さんからのお気遣いを貰って、我が部員達も喜んで居ます。この自然豊かな笠取小屋で思い出深い2日間が過ごす事が出来ました」
「わたしは、この笠取山は2回目なんですが、今回はテント泊で笠取小屋に泊まらせて頂き、この山域の景観の良さ、水資源の豊富さ、夜空に輝く星の綺麗さを体験させて頂きました。本当に思い出に残る2日間を過ごせました。わたしも機会が有れば、また笠取山に来させて貰いますね」
「そうかね、そうかね、それは良かった! そんなにこの笠取山を気に入ってくれて、わしゃ心底嬉しいよ。また来年も是非、この笠取山へ、わしの小屋へ足を運んで来なさい。これから下山する様ですが道中、お気を付けて山を降りて行ってくだされ」
「はい! また来年も、笠取山に来るのを楽しみにしています。では、これで下山を開始したいと思います。2日間お世話に成りました~!」
〚2日間、お世話に成り有難うございました。失礼致します!〛
「川辺さん、お世話に成りました。これで失礼致します」
山楽部御一行と春海は声高々に小屋の主人にお礼を言うと、小屋を後にして歩み出して行く。小屋の主人は遠ざかって行く一同に、笑顔で手を振りながら見送るのだった。皆んなは、その見送る姿を時折振り返りながら登山道を進んで行く。
「小屋のおじさん、未だ手を振っていてくれるよ。帰る私達も名残惜しく成ってしまうわ」
「そうね名残惜しく成って、ずっとここに留まって居たく成ってしまいますの」
「おじさん、顔は怖そうな人だけど、凄く気が利いて優しい人だったわ。人情味が有る人って事なのかな」
「この遠ざかって行く感じが寂しくて溜らないですね。僕達、この笠取山にまた戻って来たいですね。また、来年もここに来ましょう!」
小屋の主人に笑顔で見送られたメンバー達は、後ろ髪を引かれる思いで居るのだった。だが皆んなは、この思い出深い笠取山に来年も来る事を心に秘めて、決意を新たにするであった。
程なくして小屋の主人の姿も見えなく成り、御一行と春海は登山口である作場平橋を目指して登山道を歩いて行く。20分程進んで行くと最初の分岐点のヤブ沢峠に差し掛かった一同は、左に曲がり沢沿いの緩やかな登山道に入って行くのだった。
ここからの登山道は山間の谷を流れる沢の音を聞きながら、のんびりと歩けるので緊張感を解しながら進む御一行と春海。
「小屋からヤブ沢峠までは緩やかな林道歩きで、沢沿いの登山道に入ってからも比較的緩やかな登山道で、のんびりと歩いて行けるわね」
「そうね、こんなに緩やかな下山道を通って行けるなんて思いもよらなかったわ」
「わたくし、この位の斜度の登山道なら何時間でも歩けそうですの。何処の山に行っても、今位の登山道だったら楽で良いのにな~」
「穂乃花の言う通り、何処の山に行っても今位の斜度の登山道だったら、どんなにか嬉しい事だろうになあ。でも、楽ばかりしていたら自分のスキルアップがはかれないから、夏の鳳凰三山には登れなく成ってしまいますね」
「そうよ大将! 楽な登山道ばかり歩いていたら体力と技量が上げられないわよ。これから自身のスキルを上げて行かないとダメよ。君達が夏に臨もうとしている鳳凰三山は難度の高い山に成るから、登る事は出来なく成ってしまうわよ!」
「春海さんの言う通りですね。鳳凰三山に登る為には更なるスキルアップが必要に成る。だから君達には、今後の山行きで更なる奮起をして貰う様に成るから心して居てくれたまえ!」
緩やかな登山道で、のんびりと楽に下山出来ている事に、どっぷりと安堵感にしたっているメンバー達。だが先生と春海から、そんな生易しい考えでは夏の鳳凰三山には登る事は出来ない! と一喝されてしまいう。
その言葉を聞いたメンバー達は気持ちを引き締めて、今後の山行き行事での登山と向き合い、更なるスキルアップする事を心に誓うのであった。そして、沢沿いの登山道を歩く事40分。一同は一休坂分岐点へと辿り着く。
「さあ、一休坂分岐点に着いたよ。ここで一先ず休憩を入れようではないか。今日の下山はコースタイムが短いから、休憩ポイントはこの場所の1回のみとなるんだ。ここでの休憩時間を有意義に使って休んでください」
先生から休憩を取る事が告げられて、一斉にベンチに座って行く山楽部御一行と春海。だが、如何した事だろう。
今までの登山途中での休憩時間ならばザックを降ろして疲れた表情を見せながら休憩を取る所なのに、今の休憩時間ではザックも降ろさずに清々しい表情を見せながら休憩を取って居るのだ。
「はあ~もう休憩時間になっちゃったわね。今日の下山は緩やかな登山道の上にコースタイムも短いから、あまり疲れて居ないままでの休憩で拍子抜けしてしまうわ~」
「何よりザックを休憩中に降ろさずに居られる何て! 背中に汗をかいてないから、なのかも知れないですね」
「友香里の言う通り、背中に汗をかいてないですわ。やはり、今日の下山コースが比較的、楽だから汗もそんなに出ないと言う事なんですね」
「汗をかかない位、今日の下山コースが楽だと言う事なんですよね。下山も、行きの登る時に通った尾根沿いコースを降りてくれば、ひと汗かけて良かったかもですね。何だか物足りない感が否めませんよ」
如何やら休憩中にザックを降ろさずに居られたのは、下山する登山道が緩やかな上にコースタイムも短い為、身体に掛かる負荷が少なくて汗もかかない様なのだ。そんな、物足りない感が否めない姿を露呈して居るメンバー達を見た春海が話し掛けて来た。
「君達、今日の下山コースが余程、物足りない様ね。そんなに物足りない様なら、いっその事、再度降りて来た道を戻って笠取小屋に戻ったら、急な斜面が有る尾根沿いコースを降りて来たら如何かな?」
春海から、降りて来た道を戻って急な尾根沿いのコースを降りて来たら如何? と言う大胆な進言を聞いたメンバー達は、お互いに顔を見合わせて困った顔を見せるのであった。
「あら~皆んな、何を困惑した顔をしているのよ。君達は若者だから、もう一回登って降りて来ても大丈夫じゃないかしら~?」
春海から横目で見つめられたメンバー達は、更に困った顔つきに成りながら『やだやだ行きません』と小声で言いながら自身の顔の前で✖バッテンを作る意思表示をするのだった。すると、その様子を見て居た春海は何故か隼人に近寄ると、ニコッと薄気味悪い微笑みを浮かべた後、口を開いた。
「んん~何だか大将は、まだまだ余裕が有ります! って顔に出ているじゃない。これは、もう一回登って山を降りて来た方が良いんじゃないかしら~」
(ちょっとこの人、何で僕だけに、余裕が有りそうだからもう一回昇り降りして来い! って言って来るんだよ。それを言うんだったら女子達にも、そう告げてくれないかな。それに、いつもいつも大将、大将! って言わないで欲しいよ。
僕には星野隼人って立派な名前が有るんだい! もう、この呼ばれ方されるのが嫌だから春海さんに言ってみよう~)
「いえいえ、僕はもう一回登って降りると言う余裕も無いし、その気も無いですから遠慮しますよ。……所で春海さん、僕の事を大将って言われているけど、その呼び方はやめて欲しいのですが。星野隼人と言う名前で呼んで貰いたいです、、」
隼人は、春海が自分の事を名前で呼ばずに[大将]と言う事に不満を感じ、勇気を出して春海に星野隼人と言う名前で呼んで欲しい事を告げるのだった。
「なになに、大将と呼ばれる事が不満なのかい? 良いじゃないかいこの呼び名で。だって山楽部の部長なんでしょう。部員達を統率する者なんだから[大将]で良いじゃないかい。ねっ、女性陣と先生だってそう思うでしょ? 大将と呼べば良いよね!」
「ん、んん~まあ確かに部員を統率する人だから、その呼び名でも良いかなと感じますの」
「は、はい。本当は名前で呼ぶ事が良いとは感じますが、愛称で呼ぶ事も良いかなと思いますよ」
「あたしも、大将と言う愛称でも良いと思うわ。春海さんだけの、隼人を呼ぶ時の言い方で良いんじゃないかしら~」
「私は先ほどから静観して見て居ましたが、春海さんは星野に親近感を持って可愛がって要る様ですから[大将]と言う呼び方をされてるのでしょう。だから、杉咲の言う通り、春海さんだけの隼人を呼ぶ時の特権と言う事で良いでしょう!」
春海から、隼人の事を部員を統率する部長なんだから[大将]と呼んで良いでしょ? と聞かれた女子達と先生は、口を揃えた様に親近感の有る呼び方だから良いと答えるのだった。
「ほら、皆んなだって大将と呼ぶ事に賛成してくれて居るじゃない。もうこれで、わたしが君を呼ぶ時は大将で確定したわ。良かったわね、大将!」
春海は、皆んなから大将と呼ぶ事に賛同を貰えて上機嫌で隼人の肩をポンッ! と叩くのだった。
「あっ、はい! 皆さんの意見も、春海さんが僕の事を大将と呼ぶ事に賛成の様だから、その呼ばれ方でも良いかな、、」
(本当は、大将と呼ばれるなんて嫌なんだけど。そんな愛称で呼ばれたら、アニメの[田舎もの大将 ]が頭に思い浮かんでしまうよ。春海さんは、部を統率する者だから大将と呼ぶ様な事を言っていたけど、実際の所は僕を、からかってる様にしか見えないんだけどな〜)
「何だかブツブツ小声で呟いて居る様だけど余ほど、この呼び名が嬉しいんだね。君を大将と呼ぶのは、わたしだけの特権だから今後も、そう呼ばせて貰うよ。では、大将の呼び名が認定された所で、そろそろ下山を再開しませんか先生!」
「おお〜これはまた春海さんに仕切られてしまいましたな。そうですね、休憩を終わりにして出発しましょうか。ここから作場平橋の登山口までは30分で着いてしまうが、最後まで気を抜かづに下山をして行って欲しいです。では皆さん、出発しましょう!」
〚はい、登山口目指して出発しましょう!〛
「さあ、大将! 残り僅かだから気合を入れて下山しましょう」
「はいはい、大将の愛称を持つ隼人、下山を開始します~」
皆んなは、下山再開の掛け声と共に出発して行くのだったが、威勢の良い女子達とは違って、大将の愛称を春海から付けられてしまった事で嬉しいやら悲しいやらで、しょぼくれながら歩いて行く隼人であったのだ。
[大将]の意味は、よく知られている軍や集団を統率する者と言う事であるが、他の意味では目下の男性を親しみで呼ぶ時、からかって呼ぶ時、の意味合いもあるのだ。春海の場合は、部を統率する意味で大将と言っているのではなく、目下の隼人を親しみと、からかっている意味で[大将]と言っているのだろう。
そんな、からかわれ役の隼人の後ろに着いて、春海は隊列の最後尾を歩いて行く。そして山楽部御一行と春海は、緩やかな斜面が続く下山道を鳥の鳴き声や、川のせせらぎの音を聞きながら、のんびりと歩いてゴールの作場平橋を目指して行くのだった。程なくすると、前方の林間の隙間から車が見えて来た。如何やら、登山口の駐車場が見えて来た様である。
「さあ皆んな! 前方に駐車してある車が見えて来たよ。登山口が目前に迫って来ているからもう少しだ。頑張って歩いてくれたまえ!」
先生から、登山口が目前に迫って来ている事を聞いたメンバー達と春海は、前方をキッと見つめるとラストスパートを掛けて足早に進んで行く。そして一同は林間の登山道を抜けて、作場平橋の林道に出て登山口の案内看板前にゴールしたのであった。
「よーし、登山口に着いたよ。私達は、戻って来たんだ。皆さん、2日間の山旅、お疲れ様でした!」
「皆さん、お疲れ様でした。帰って来ましたね、隊長! ゴール出来てホッと一安心しました」
「ふう〜下山が完了して一安心ですね。何はともあれ、無事に帰って来れて良かったですの」
「そうね、山の中に2日間入って居たんだから、無事に帰って来れて何よりだわね。あたしもホッとしました!」
「皆さん、ご苦労さまでした。今日の下山道は難度も低くてコースタイムも短かったとはいえ、終わってみると足が疲れているわ。ゴール出来て、一気に緊張感が取れたから、足に来たと言う事かしら〜」
登山口に到着して下山を完了したメンバー達は、何事もなく山を降りれた事に安堵の表情を浮かべて居るのだった。そして、お互いに顔を見合わせながら、2日間の登山行程が完了した事の労を、ねぎらい合うのであった。すると、山楽部メンバー達の安堵の表情を見て居た春海が口を開いた。
「皆んな下山を完了して、ホッとした様ね。登山に来ると自然の中で行動するので危険な場面に遭遇する事も有るから、下山して登山口まで降りて来ると一安心しますよね。
何度も山に行っている、あたしでさえ、山を降りて登山口に戻って来た時はホッとしますよ。まあ何はともあれ、初めてのお泊り登山、皆さんお疲れ様でした~」
「春海さんも、お疲れ様でした! 思いもよらず笠取山の山頂で再開しまして、それからは我が山楽部と行動を共にして頂いて、春海さんとの楽しい時間が過ごせました。部員達とも優しく接してくれて有難うございまた。
……ところで、春海さんはこの登山口からは如何やって帰られるのですか? もっとも、この山奥ではタクシーを呼ぶか、自家用車で帰るかですが」
「わたしも、思いもよらず笠取山で皆さんと再会出来て、嬉しかったし、楽しく過ごせましたよ。山楽部の皆さんと行動を共にした笠取山での山旅は思い出深いものに成りましたよ。
あと、わたしは自家用車で来ていますから、自分が運転して帰りますよ。ほら、隣の駐車場に赤いロードステップが有るでしょ。あの車が、わたしの愛車よ!」
春海は自家用車で来ている様で、皆んなに、わたしの愛車よ! と言って自身の車を指さす。その指さす方を先生とメンバー達は一斉に目線を注ぐのだった。その目線の先には、真っ赤なオープンカー[MAEDAロードステップ]が停められて有ったのだ。
そのド派手で、おおよそ登山に来る車には似合わない様なオープンカーの出現に色めき立ち、一斉に車の周りに集まる山楽部の面々。
「うお~凄いド派手な赤いオープンカーが僕の目の前に! 濃いキャラの春海さんが乗りそうな車ですよね~」
「ちょっと大将、何よその言い方は! わたしの何処が濃いキャラなのよ。失礼しちゃうわね!」
濃いキャラだと指摘されて、ちょっとキレ気味に話しながら隼人のお尻をポンっと叩く春海。
「イタタタタ、冗談ですよ冗談。この赤いオープンカーは春海さんにピッタリ合っているって事ですよ」
「最初から、そう言う風に言いなさいよ、大将! まどろっこしい言い方をしては駄目だわよ」
「まどろっこしい言い方をして、どうも、す・い・ま・せ・ん~」
濃いキャラ発言で春海から叱られてしまった隼人は、苦笑いしながらその場をやり過ごすのだった。すると、その2人のボケとツッコミ劇場を見て居た友香里が話し出した。
「あの~お2人さんは、漫才コンビを組んでも良い位に息が合っていますね。見ていて、凄く面白かったですよ。
……それはそうと、気に成る事が有るんですが、このオープンカーの幌って今は屋根が被さった状態に成っていますが、この幌は如何やったら開く様に成るのかなあ。手で開ける様に成るんですか?」
「あ〜この幌が気に成るのね。どうやって開けるかと言うとね、手で開けるのではなくて、スイッチを押すと電動で開く様に成るんだよ。実際に今から開けて見せてあげるわよ」
友香里から幌の開閉の仕方を聞かれた春海は、実際に開閉している所を見せようと、車のドアを開けてエンジンを始動させると、幌のスイッチを押す。すると「ウィ〜〜ン」というモーター音と共に幌が、ゆっくりと開いて行き幌が折り畳まれてフルオープンの状態へ変身するのだった。
「うわ〜凄いなあ! オープンカーの状態に変身してしまったわ〜 」
「スイッチ1つで幌が開いて折り畳まれて行くんですのね」
「幌が折り畳まれると天井が無くなるから、開放感抜群ですよね!」
「フルオープンだと席が丸見えで、周りからの視線を浴びてしまいますね。でも、今日の様な晴れの天気の時に乗ったら気持ち良いだろうなあ」
「流石は春海さんですな。おおよそ登山を好きな人が乗らない車ですが、その車に乗って山奥の登山口まで来てしまう、春海さんのバイタリティには驚かされますよ!」
自身のオープンカーを山楽部の面々から褒めちぎられて、得意げな表情で車の前に立つ春海。
「こんなに、わたしの愛車が注目を集めているなんて凄く嬉しいわ。こうゆう趣味に徹した車を乗るのが夢だったのよ。皆さんに愛車を見せる事が出来て良かったわ〜」
「そうですな、この様な趣味に徹した車に乗ると、周りからの視線を受けて注目の的に成りますな。いや〜今日は良いモノを見させて貰いましたよ!」
「皆んなから注目されて良かったわ。では、わたしの愛車のお披露目が終わった所で、そろそろ車に乗って帰路に着くとしますか」
春海は自身の愛車が、皆んなから注目の的と成った事で、上機嫌でお披露目を終えるのだった。そして、帰路に着くべく車のトランクを開けるとザックを降ろしてしまい込んで行く。しまい込み終えた春海は、再び皆んなの前に来るとニッコリと微笑みながら話し出した。
「それでは皆さん、わたしはこれで帰路に着こうと思います。昨日に笠取山の山頂で偶然にも皆さんと再会してから、楽しく有意義な山旅を送る事が出来ました。山楽部ん皆さんと御一緒する事が出来て本様に良かったです。
次に会う時は鳳凰三山の夏合宿に成りますね。それまでに皆さん、山トレーニングを積んで身体と精神を鍛え上げておいてくださいね!」
「春海さんと御一緒出来た時間が、凄く楽しかったです。私達は、春海さんとは切っても切れない登山仲間に成りそうですね。また、夏の鳳凰三山でご一緒出来るのを心待ちにしています」
「あたしは、春海さんと笠取山で再会した時は運命的なものを感じました。きっと山の神様が出合わせてくれたに違いありませんね。春海さん! また会える日を楽しみにして居るわ~」
「わたくしが笠取山直下の急坂で苦しんで居る時に、春海さんがくれた声援が本当に心を振るい立たせてくれて、登り切る事が出来たんです。この御恩は、ずっと忘れませんわ。春海さん! また一緒に登山をしましょうね」
春海との別れが名残惜しい山楽部の女子達は、春海に近寄ると一斉に抱き付いて抱擁を交わすのだった。
「まあ~貴女達、そんなに、わたしの事を慕ってくれて有難う! また、夏に会えるのを楽しみにして居るわね~」
その抱き付いて抱擁をし合う春海と女子達を目の当たりにした隼人は、一人取り残された感が否めく、こう思って居たのだ。
(ああ~あ、女同士だと抱き付いて抱擁し合えるから羨ましいよ。僕も一緒に抱擁の輪の中に入りたい位だよ。無理やり抱擁の輪の中に僕が入ったら、エッチ・スケベ・マイペット! と言われて非難を浴びせられてしまうからな。ここは涙を呑んで静観して居る方が無難だろうな~)
隼人は、抱擁の輪の中に入れない事への葛藤が有ったのだが、エッチな男の烙印を押されるのを回避する為に、涙を呑んでジッと耐えて居るのであった。そして、それまで静観して居た山岸先生が最後に話し出した。
「春海さん、山楽部の諸君、抱擁を交わすほど別れが名残惜しい様だね。それだけ春海さんの存在が大きかったと言う事ですね。昨日から、我が山楽部と行動を共にしてくれて、部員達も楽しい山旅を過ごせたのではと思います。
また、夏の鳳凰三山でお会い出来るのを心待ちにしておりますよ、春海さん!」
「山楽部の皆さんと、ここでお別れするのが名残惜しいですけど、また夏の鳳凰三山で会える事が出来るから、その日が来るのを待って居ますよ。……あっ、そうだった! もし、あたしに会いたく成った時は[同日山荘]に買い物に来て貰えれば会う事が出来るわ。来て貰えればサービスしますよ。
あと先生! 電話番号を教えて有るから時々、わたしに連絡くださいね。では、わたしはこれにて帰路の途に着かせて貰います。それでは皆さん、お先に失礼致します。御機嫌よう~」
春海は帰り際に自分が店長を務める店[同日山荘 ]へと、また買い物に訪れて貰える様に、ちゃっかりとPRをし終えると、車の運転席に乗り込んで行く。そして、サングラスを掛けるとエンジンを始動させるのだった。
「それじゃあ皆さん、お先に失礼しますね。グッドバーーイ!!」
春海は、山楽部の面々に手を振りながら、アクセルを踏み込んで車を発進させて帰路に着いて行くのであった!
「春海さん帰り際まで賑やかで、軽快に車を走らせて帰って行かれたね。彼女と、また会える日が来るのを楽しみにしていましょう。では、私達も帰路に着こうとしよう。私の車に行こうではないか!」
「はい! 分かりました、隊長。僕達も帰路に着きましょう。それにしても春海さん、帰り際に愛車を走らせて行く姿がカッコよかったな〜」
「真っ赤なオープンカーに乗り、サングラスを掛けて愛車を走らせて行く姿が、女レーサーの様な感じでカッコ良過ぎでしたの」
「所で、隊長! 先ほど、春海さんが電話番号を教えてあるから連絡ください! と言っていたけど、いつの間にそんな良い仲に成っていたんですか?」
「そうですよ〜私達の知らない所で、春海さんと親密に成って居たなんて、隊長も隅に置けないわね。一体、いつ何処で親密に成る時間が有ったんでか?」
春海さんと、いつの間にか親密な関係? が構築されて居る先生の事が気に成って仕方がない友香里と華菜から、先生に質問の声が上がる。
「あっ、いや、何というか、昨日に電話番号を教え合う事に成ってね。まあ、今後に夏の鳳凰三山の事で連絡する事が有るから、その時の為に交換したまでだよ。……さあ、早く車に戻って帰り支度を済ませて、温泉に以降ではないか!」
「あ~! 隊長ったら、何だか話をそらそうとしたでしょ。増々、春海さんとの仲が怪しいわ~」
「そうね、隊長は今、わたし達と目線をそらしたわ。これは何か訳ありよね。もう、こうなったら車の中で真相を聞いてやるわ!」
友香里と華菜から、春海との仲が如何なって居るのか問い質された先生だったが、無言のままで車へと、そそくさと足早に歩いて行くのだった。その後の、温泉へと向かう車内では、先生は追及を受けながら車を走らせて行き、車内には緊迫したムードが漂っていたのは言うまでもない。
2日間の初の泊り登山に臨んだ山楽部メンバー達は、笠取山の源流に触れ、笠取山直下の「心臓破りの急坂」を克服し、山頂で東郷春海との再会を果たし、小屋での楽しい夕食パーティーを満喫し、雁峠での心地よい風を体感したのだった。
笠取山の山域で数々の体験をして思い出深い山旅を終えたメンバー達は、一回り大きく成長を果たした事だろう。そんな、春海との仲を追求される山岸先生と、笠取山登山で成長を果たしたメンバー達を乗せたホップワゴンは、沼津を目指して帰路に着くのでありました!!
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