5、
空白の世界から現実の世界に戻る、すると声は聞こえない
おばあちゃんはわたしの涙をそっとぬぐう
それからきれいに掃除した菜っ葉をザルにまとめてぐっと押す
下駄を履いて庭のすみの井戸に行く
菜っ葉を洗うつもりだ
わたしも涙をこらえてまた歌を歌いだす
君が代は 千代に八千代に
さざれ石のいわおとなりて
苔のむすまで
よくわからぬこわさがこわいの
どうにかしてほしい
この生活を守りたい
ぜんぜん知らないよその国の人のものになるのはこわい
わたしはここで安心して暮らしたい
でもどうしたらいいのかわからない
ねえ
みんなどうして平気なの
わたしはこわい
鶏がおばあちゃんの足元を追いかけた
茶色の短い尾羽を見せる
わたしは今度は太陽の方に顔を向けて目を閉じる
集中
なにかが迫ってきている
まがまがしい何かが
日の丸を狙うなにかが
ここで住まうと買い物にはとても便利だ。何でもそろう
電車や車で都心から離れたら大自然が心を癒してくれる
とても美しい日の丸の国
水道の水が飲める
夜も出歩ける
財布を落としても戻ってくる
やさしく暖かで誠実な人が多いこの国
我が祖国という言語がない稀有な国
だけど黒くて重い足音が聞こえるの
それを聞かせてくれる人は怖い話をするように常にひそひそ声
なのでとても小さいの
小さな声はだれもひろわない
許された事件だけが報道されるの
おかしいことはおかしいとすでに言えないの
もう日の丸は半分侵略されているという
あきらめ顔の人もいる
うそだというひともいる
おもいこみだと、とがめる人もいる
海の向こう人たちは日の丸からひどいことをされたので
謝罪すべき、お金で償うべきと何度も訴えてくる
政治家たちもお金を要求されたら、された分だけ渡した
そのお金で彼らは武器を整え周辺の国を脅かしている
それは戦争ではなく国を守っているのだと主張する
日の丸のが悪いことをしたので子孫が罪をつぐなうべきだよ?
まだまだ足りない
これでは不足だ
だから靖国神社も行ってはだめ
行ったらすぐに抗議する
何が参拝だ、何が参拝だ、何が参拝だと
謝罪もまだまだのまだまだ
全世界に訴えてやる
世の中やったものが勝つ
歴史は勝者が作るもの
幼い子供たちにもうそをついてうその歴史を教えていく
うその歴史にうそを塗り固める
かくして謝罪要求の連鎖が続く、永遠に
それを真実にしたら永久にそれが真実
わたしは こわい
わたし こわいの
こわい、こわい、こわいの……
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