第47話
準備室に戻るが、俺達は早く切り上げて来たので一年の皆は居なかった。
俺は丁度良いと二人に話し掛ける。
「相談なんですが…魔石ですが、一年の皆の分も合わせて均等配分でも良いですか?」
「ああそっか、この短時間でこれだもんねー」
矢吹先輩(姉)が魔石の入った籠を見て呟く。既に魔石が溢れて落ちそうな状態だ。短時間でこれでは、どうしても不公平感が出てしまうのだ。
「私は別に良いよー」
「僕も…それで構わない」
快く承諾を得られたので、俺は二人に感謝する。
「それにしても、魔法って凄いんだねー!あれだけ居たのに一気に倒しちゃったよ」
自然と俺の魔法へと話が移る。
「正直、私達も要らないかな、って思っちゃうよねー」
「悔しいけど…同意」
「いやいや、流石に複数に接近されたらお手上げですから。回避も未だ技量不足ですし」
あの大怪我を負った記憶は鮮明に残っている。幾ら高威力の魔法が使えても、先手を取られれば不利なのは変わらない。
「でもやっぱ強い魔物相手だから、成長速度が凄いよ。私達もその恩恵を得てるけど、これじゃ一年の皆との差が広がっちゃうね」
そう、其処が懸念事項なのだ。
魔物を倒す事による成長は、魔物の強さに比例する。なのでこのまま俺と矢吹先輩達が最下層に挑み続けると、中層メインの一年の皆とはどんどん差が開いてしまう。
だが最下層攻略の条件がSランクとされた以上、一年の皆は攻略する事が出来ない。安全を保障出来れば、条件付きで承諾を得られるかも知れないが。
確実なのはランクを上げて貰う事だが、現状紫雨がAランク、亮とエリスがBランクだ。今は紫雨をサブリーダーとして三人で行動して貰っている。Sランク、つまり矢吹先輩達と同レベルになるのは暫く先だろう。
三人だけでは下層にも挑めないので、別行動だと成長差はかなり大きい。俺が頻繁に下層に連れ出す必要があるのだ。
ならば矢吹先輩達が接近して来た敵を抑える事を条件に、一年の皆も最下層に連れ出す事を承諾して貰うしか無い。過去に死者が出ている以上、そう簡単にOKが出るとは思えないが。
そうして暫く雑談をしていると、一年の皆が戻って来た。中層なので特に疲れた様子は見られない。
「うぉっ、スゲーなこれ!」
亮が俺達の集めて来た魔石を見て驚く。彼の背負っているリュックを見る限り、満杯にもなっていないようだ。やはり中層では効率が悪そうだ。
俺は戻って来た皆に、魔石を合わせて均等配分する旨を伝える。
「そりゃこっちは助かるけどよ…良いのか?」
「先輩には了解を貰ってる。こっちはあまり苦労せずに大漁だからね、流石に不公平だと思って」
「…ならお言葉に甘えさせて貰いましょうか。正直助かるわ」
どうやら納得して貰えたようだ。俺は胸を撫で下ろす。
俺は魔石を合わせて会長の所へ持って行き、均等配分する旨を伝えた。
「成程な。皆が納得しているのなら問題無い。そのように処理しておこう」
「有難う御座います。それで、一つ相談なのですが…」
「ん、何だ?」
其処で俺は、一年の皆が最下層に挑めない事による成長速度の差について説明した。
「そうか…流石に中層と最下層とでは、その差は無視出来ないか」
「はい。それで矢吹先輩達が居る事を条件に、皆も最下層に挑めないかと思いまして」
「…力不足の者を危険に晒す事は出来ない。何か方策があるのか?」
「水属性で結界を張る魔法があります。戦闘中は一年の皆をそれで必ず囲う、という事でどうでしょうか?」
「…強度は?」
「別の異界ですが、最下層よりも強い魔物の攻撃を複数回防ぐ事が出来ます。それだけの猶予があれば、俺の方で対処可能だと考えます」
俺が其処まで言うと、会長は暫く目を閉じて思案し始めた。
そして目を開くと告げた。
「…良し、私の権限で提案を許可する。但し君を除く一年に負傷者が出たら、その時点で許可は取り消すからな」
「許可頂き、有難う御座います」
すると会長はふっ、と笑った。
「しっかり皆を守ってやってくれ」
俺はそれに頷くと、準備室へと戻った。
そして俺は一年の皆へと決定事項を告げる。
「…という事で、Sランクに上がるまでは基本的に同行のみになる。だけど成長度合いが大きいから、そうする価値はある筈だ。それに余った時間で他の層に挑んでも良いと思う」
俺の言葉に三人は頷く。納得して貰えたようだ。
「先輩達の役割は変わりません。今後もお願いします」
俺は先輩にそう告げ、話を終える。これで過剰に成長差は生まれないだろう。
そして俺達は帰路につく。其処で亮が話し掛けて来た。
「んでよ、そんなに成長差って大きいのか?」
「最下層だと、魔物を倒した後に身体がぴりぴりするんだ。ゲームで言えば、大量に経験値が入っている感じなのかな」
「そっか、それじゃあ更に差が開いちまうわな。同行するだけなのは申し訳無い気もするが、ナイス判断だぜ!」
「皆が怪我したらアウトだからね、必ず結界の中心に固まっててよ」
「折角の機会だもの、フイにはしたく無いわ。ちゃんと指示には従うわよ」
「そーそー。心配しないで」
兎に角これで一つ、肩の荷が降りた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます