第46話

 週末、俺は再度異界特務庁が管理する異界へと訪れていた。属性魔法の訓練の続きを受ける為だ。

 前回同様に俺は杖を借り、一週間で扱えるようになった属性魔法を使って見せた。

 初級魔法の氷結風(フリーズ・ウィンド)で魔物の動きを鈍らせ、複数なら上級魔法の水刃螺旋陣(カッター・スパイラル)、単独なら中級魔法の氷結槍突(フリーズ・ランス)を中心に放つ。これが自分なりに考えた戦い方だ。

 母さんは俺の戦い方を一通り見ると、大きく頷いた。

「たった一週間で随分扱えるようになったわね、大したものだわ。流石は私達の息子ね」

「はっはっは、そうだな母さん」

「…何そのやり取り?」

 両親は息ぴったりで、とても仲が良い。息子としては恥ずかしくなる事もある程だ。

「これだけ扱えるようになったのなら、地属性も問題無く扱えそうね」

 其処で俺は疑問を口にする。

「ちなみにだけど、水属性と地属性を使い分ける理由って何かあるの?」

「そうね…地属性は地形を変えるような効果も多いから、防衛や足止めには効果的よ」

「うーん、異界ではあまり有効じゃないかなぁ」

「緊急時、例えば逃走する時とかには有効よ。使えれば大怪我もしなかったでしょう?」

「…まあ確かに。じゃあ地属性も使えた方が良いか」

 俺は納得し、先を歩く二人の後を追う。

 其処からは父さんに魔物を抑えて貰いながら、地属性魔法を使う訓練をした。

 もう魔法陣を描くコツは掴んだので、陣の文字を覚えるだけだ。先ずは画像を見ながら、間違えないように描く。

 地属性魔法は石を飛ばしたり落としたり、後は穴を開けたり壁を作ったり。そんな効果だ。

 補助系の魔法は学園の訓練で充分なので、攻撃魔法を主体に使って行く。

 使ってみると判るが、地属性魔法は魔法とは言うが要は物理攻撃だ。特に初級の飛石弾(ストーン・バレット)は速度、中級の巨石落天(ストーン・フォール)は質量がそのまま威力となる。

 なので硬い魔物にはダメージ面での効果は薄い。だが吹き飛ばしたり圧し潰したりと、阻害効果が大きい。確かに使いどころによるだろう。

 ちなみに母さんと俺の魔力量を比べると、倍以上の差があるらしい。勿論母さんの方が多い。だが学園の最下層や此処の魔物を相手にしていれば、かなりの成長速度が見込めるそうだ。その成長は魔力量にも影響する。

 そして最大魔力消費量は魔力量に比例する。つまりは魔力量が魔法の威力に影響するのだ。なので同じ魔法でも、俺と母さんとでは倍以上の威力差がある。

 それが地属性魔法では目に見えて判る。石の大きさや速度が大きく変わるのだ。

 そんなこんなで異界を巡り、地属性魔法を一通り使い続けた。これだけで最初と最後とでは飛石弾(ストーン・バレット)の威力が変わっていたので、目に見えて成長しているのだろう。


 週か開けて月曜。俺は矢吹先輩と一緒に扉の前に居た。

 会長より、最下層攻略はSランクのみとの指示を受けている。一年の皆は今日は中層攻略だ。

 俺は扉の鍵を開け、通路の先を覗く。突き当たりの階段までの間に、魔物の姿は見えなかった。

「大丈夫そうだし、行きましょうか」

 俺はそう言い、二人と一緒に階段を降りる。初めての最下層だ。

 降りて直ぐに予想していた光景が目に入る。通路に魔物が溢れていたのだ。その内の数体がこちらに気付く。

 俺は反射的に魔法を唱える。

「防護石壁(ストーン・ウォール)!」

 現れた石の壁が通路を塞ぐ。其処へ続けて魔法を放つ。

「氷結風(フリーズ・ウィンド)!」

 これで魔物の動きを鈍らせる事が出来た。石壁を乗り越えて来た一体は二人に任せ、俺は後ろの群れに向けて杖を向ける。

「氷結連槍陣(フリーズ・ファランクス)!」

 群れの足元から尖った氷柱が生まれ、魔物達を次々と貫く。だが塵となった魔物の陰から、次々と後続の魔物が押し寄せて来る。

「巨石落天(ストーン・フォール)!」

 大きな岩が後続の先頭を圧し潰し、更に魔物の通行を阻害する。混雑して進行が遅れる。

 その隙に、俺は次の魔法を唱えた。

「水刃多層旋陣(カッター・ウォール)!」

 水の刃が隙間無く放たれ、後続の魔物を切り刻む。

 そうして二人が引き付けた魔物を倒した頃、俺は視界内の魔物を一掃していた。だがこれで数割は魔力を消費してしまった。やっぱり燃費は悪いようだ。

 その間にも二人は、台車に積んだ大きな籠に魔石を入れて行く。リュックでは2~3体でキャパオーバーになるので、苦肉の策だ。それでも籠の相当量が一杯になる。

「…長時間の攻略は難しいみたいですね。魔力残量も考えると、次の戦闘で今日は終わりかな」

「早いねー、でも仕方ないかぁ。私達だけじゃ攻略は厳しいし」

「…うん」

 二人も納得してくれたようだ。俺達はそのまま先へ進む。

 通路の曲がり角から先をこっそり覗くと、やはり通路に魔物が溢れていた。

 俺は二人に尋ねてみる。

「先制で大半を一掃して、残りを相手にしようと思うんですけど」

「それで良いよー」「…判った」

 二人の答えを聞き、俺は直ぐに魔法を準備する。

 そして曲がり角から通路に飛び出し、魔法を放つ。

「水刃多層旋陣(カッター・ウォール)!」

 魔法は近い魔物から順に切り刻む。残った魔物も傷を負っていた。

「氷結風(フリーズ・ウィンド)!」

 これで魔物の動きも鈍った。先程と同様に一体は二人に任せる。

 俺は残り数体を相手に魔法を放ち、止めを刺す。


 その日の攻略は其処で終え、俺達は準備室へと戻った。

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