第13話
「桐原君、私とデートをしようじゃないか!」
週明けの月曜、放課後に生徒会室を訪れての第一声がそれだった。
一年の二人には先週同様に上層を攻略するよう指示を出し、会長に従う。冗談なのか本気なのか判らぬまま付いて行くと、行先は異界だった。
上層の通路をどんどん進み、階段を降り中層へ。そして更に突き当たりの階段を降り、初めての下層へと到達した。
…これはどう考えてもデートでは無いだろう。俺は会長に尋ねた。
「あの、何が目的なんですか?」
「まあ待て。…良し、お出ましだ」
会長がそう答えると、正面から大型の魔物がやって来ていた。
胸の中央に宝石が埋め込まれた石の身体…ゴーレムだろうか。
「では桐原君、先週の中層と同様に戦ってみてくれたまえ」
俺は言われるがままに行動を起こす。先ず魔法の鎖で動きを封じ、魔法の槍で弱点らしき宝石を狙う。槍は胸を完全に貫き、魔物は塵となって消えた。
後にはソフトボールより一回り大きい魔石が残った。彼女はそれを拾うと笑みを浮かべた。
「流石だな。下層でも通用するとは思っていたが、一撃とはな」
「…えーっと、有難う御座います?」
俺は気の抜けた声で返す。週末は戦い方について悩み続けた結果、結論が出なかったのだ。そんな中で褒められても、素直に喜べなかった。
そんな俺を見て何か感じたのか、会長が語り始めた。
「私はな、最初は普通に役員として生徒会に入ったのだ。特に運動が得意だった訳でも無いしな。だが対魔特別班の話を聞き、自ら参加を申し出た。面白そうだったというのもあるが、どういう物か知りたかったのだ」
彼女は当時を思い起こしながら語る。
「そして異例だが、私は生徒会役員と対魔特別班の両方に所属する事となった。だが所詮は未経験の素人だ、幾ら訓練と実戦を重ねても、ずっとCランクのままだった。自分は向いてないからと、諦めようと思った事もあった」
彼女は遠い目をしている。当時を思い出しているのだろうか。
「一年の夏に、私はその悩みを三年の先輩に打ち明けた。そうしたら言われたよ。スタート時の差は、努力さえしていれば確実に縮まると。寧ろその努力する姿勢こそが、実力を身に付ける糧であると」
そこまで話すと、彼女は俺の方を向いた。
「さて桐原君、先週見た二年の戦い方。何を感じた?」
「常人には出来ない動きに、多彩な戦い方。一言で言うと凄かったです…自分の戦い方を顧みる位には」
「成程な。だが君達一年も、来年になれば同程度には動ける。私ですら二年の時、初めての後輩にはそう評価されたものだ」
俺が二年の二人を見て感じた事は、経験の差でしか無いと言いたいのだろう。
「寧ろ、桐原君は君自身の実力を客観的に評価するべきだ」
彼女は俺を指差し、そう告げる。
「武道の経験も何も無い一年が、一月経たずに下層の魔物を一撃で倒す。これがどれだけ異常な事か。一年間の経験がある彼女らでも無理なのだぞ」
彼女はそのまま捲し立てる。
「戦い方の引き出しが少ないのは、魔法使いとして既に完成されているからだ。魔物の動きを封じ、一撃で倒す。安全確実な戦いの理想形じゃないか。誇るべき所業だぞ」
…そうか。二年の二人から俺の話を聞き、励ましてくれているのか。
未だ日は浅いが、彼女は冗談は言うが嘘は言わないタイプだ。ならば先程の話も本音なのだろう。
「…有難う御座います。何だか俺の事でお手を煩わせてしまって」
「気にするな。先輩として当然の事だ。…少しは気持ちの切り替えが出来たようだな。ならばデートを続けるとするか!」
そう言うなり、通路を更に進み始める。もしかして、彼女にとって異界デートは本気で有りなのだろうか。
その後は初見の魔物の特徴を聞きながら、お互い交互に倒して行った。本気の彼女の動きは凄まじく、何とか目で追えた二年のそれを上回っていた。
途中で彼女は、ふと思い出したように口を開いた。
「そうだ桐原君、最近筋肉が付いてきていないか?」
「…良くご存じですね。筋トレなんてしてないのに、腹筋が割れてきましたよ」
「それは身体強化の魔法による効果だそうだ。あの魔法は使うだけで筋肉を酷使するからな、効果は筋トレ以上だろう」
そうだったのか。最近風呂に入る度に身体が引き締まってきて、何事かと思っていたのだが。
「なのでリーダーとして他の一年を育てるのなら、身体強化の魔法も活用した方が良いだろう。…但し、御堂君には一言念押しするように」
「…何でですか?」
「桐原君、君は女心が判っていないな。うら若き女性が無条件で筋肉を付けたいと思うか?」
そう言われてはっとする。そりゃそうだ、筋肉を望む女性なんてアスリート位のものだ。忠告通り一言確認してからにしよう。
「さて、では試しに私に身体強化の魔法を掛けてみてくれ」
「え、筋肉を付けたいんですか?」
「…脂肪よりは筋肉の方がマシだ、そう思う時も女性にはあるのだ」
ああ太ったのか、などと口に出す事は流石にしなかった。その位は俺でも判る。
取り敢えず彼女に身体強化の魔法を掛ける。初めてなので弱めだ。
「おお…、体中の筋力が増す感じなのだな。不思議な感覚だ。これでも相当弱めなのだろう?」
「はい、身体が慣れていないと反動が大きいので」
「ちなみにだが、君自身はどの程度強化しているのだ?」
「だいたいですが、会長に掛けた魔力量の10倍程度ですね。大分慣れて来ましたので」
「…それはまた、末恐ろしいな。優秀な新人が入ってくれて嬉しいよ」
どういう意味だろう、一応褒められているのだろうか。
その後も魔物を倒し続け、会長とのデート?は終了した。
下層でも充分に通用する事、それに会長の言葉で俺は気持ちを切り替える事が出来た。今まで通りに頑張れば良いのだ。それだけでも今日の意味は大きかったのだと思う。
今度は同じ一年の仲間の育成について思考を巡らせ、家路についた。
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