第11話

「同学年で行動する事が多いからな。三年なら私、二年なら矢吹弟がリーダーを務めている。まあ学年内の意思決定を担う程度の認識で良い」

 そう言われ、俺達は顔を見合わせる。

「俺はそういう面倒なの嫌いだからな、二人のうちどっちかで良いんじゃね?」

 亮はあっさりそう告げた。本人も本当に面倒そうだ。

「じゃあ俺としては、御堂さんが向いてると思うんだけど」

 俺は正直にそう話す。少なくとも俺よりは向いているだろう。

「…私は、桐原君がやるべきだと思う」

 御堂さんは俺を指名して来た。これで一対一だ。俺達は亮の方を向く。

「…それぞれ理由を言ってみてくれ。俺はそれを聞いて判断する」

 そう言われ、先ずは俺から理由を説明する。

「じゃあ俺から。御堂さんは既に戦う技術も高いし、多分だけど冷静な判断が出来るタイプだ。私情も挟まなそうだし、リーダーに向いてると思う」

 その俺の言葉を聞き、続いて御堂さんが説明する。

「次は私ね。まず実力が学年内で抜きん出ている所。そして後衛である事。特に戦闘時の判断は、戦況を俯瞰出来る後衛が向いているわ。それに冷静さで言えば、あの魔物と相対した時は私より冷静だったわ。以上が理由よ」

 彼女が言い終わり、俺達は再度亮の方を向く。亮は腕を組んで少しばかり唸ると、口を開いた。

「…プレゼンの結果、茅人の方が向いてそうだ。てな訳で会長、茅人がリーダーをやりますよ」

 俺が口を挟む間も無く、亮は会長に結果を告げた。

 会長はうんうんと頷いた。

「私も同意見だ、結果が同じで安心したぞ。そういう訳で桐原君、君が一年のリーダーだ。あまり気負いせず頑張ってみたまえ」

「…判りました。頑張ってみます」

 俺はそう答えるしか無かった。

「さて、じゃあついでに細かい所の説明をしておこう。先ず魔石についてだ。複数人で魔石を回収した場合、貢献度などは考慮せず必ず均等配分とする事だ」

「…その理由は?」

「魔物の取り合いを防ぐ為だ。無理すれば怪我の危険もあるし、軋轢も生まれる。均等配分ならば、その心配も無いだろう」

 其処へ亮が口を挟んだ。

「つー事は、サボってても同じだけ配分されるって事っすか?」

「それを諫めるのもリーダーの仕事だ。それに日本人の気質として、あまりそういう事は起きないのでな。寧ろ申し訳無くなるだろう?」

 確かに、何もせずに配分を受けるのは気が引ける。一般的な思考ならそう思うだろう。

「続いて成長の話だ。魔物を倒す度、僅かずつだが身体能力と魔力が成長する。これは実際に検証して実証されている事実だ。理論までは不明だがな」

「…何かゲームみたいな話ですね」

「そうだな。だがそう聞くと、やる気も出るだろう?終始ゲーム感覚なのは困るが、モチベーションに繋がるのは良い点だろう」

 そうなると、俺自身も成長の余地があるという事か。確かに面白そうだ。

「最後に、森川女史の派遣元についてだ。防衛省と環境省の合同組織である異界特務庁、其処から派遣されている。組織の役目は高難度の異界の攻略と、魔石の次世代エネルギーとしての活用研究だ」

 成程、だから唯姉も公務員という話になっていたのか。

「更に魔石の買取もして貰っている。だがこの組織は非公式でな、関係者以外への口外は禁止されているのだ。其処は注意してくれ」

 其処は既に異界について口外禁止となっているので、問題無いだろう。

「それで早速だが、明後日は別行動をして貰う。桐原君は二年の二人と一緒に中層を攻略して欲しい。一年の二人は上層だ。また中層から魔物が上がって来ては困るからな」

 二年…矢吹姉弟か。お姉さんの方は取っ付き易そうだったが、弟さんの方は不安が残る。

 まあ実際に行動してみないと判らない事もあるだろう。

「では今日は以上となる。魔石を提出したら帰って良いぞ」

 俺達は会長に魔石を渡し、帰路につく。

 何時も通り御堂さんは一人でさっさと帰ってしまい、俺と亮は途中まで一緒に帰った。

 俺は其処で気になっていた事を尋ねてみた。

「リーダーが嫌だと言ってたけど、何か理由があるの?」

「ああ、中学の時にな。俺はバスケ部だったんだが、三年の時に主将をやらされてな。皆を纏めるのに手一杯で、自身を鍛える事も儘ならなかったって訳だ」

「成程なあ、そりゃ嫌にもなるか。でも今から覆すつもりも無いけど、俺がリーダーに向いているとは思えないんだよなぁ…」

「そうか?俺は反抗する気も無いし、あいつも自身が推薦した以上は言う事を聞くだろ。やってみりゃ、案外上手く行くと思うぜ」

「なら良いけど…」

「それにしてもあいつ、お前の事を良く見てるのな。まともに一緒に行動したのなんて、この間の一件ぐらいだろ?」

「…言われてみれはそうだな」

 それだけ、あの時の印象が強かったという事だろうか。命の危険もあったし当然か。

 しかしこうなると少々プレッシャーだ。選ばれた以上は、落胆されたくない。

 最優先するのは全員の安全だ。ならば実力を付け、より確実に魔物に勝てるようになる事。其処を目指すのが良いのかも知れない。

「…前途多難だなぁ。明後日は先輩と一緒だし」

「三年の久遠寺先輩は優しかったからな、二年の先輩も大丈夫じゃね?」

「だといいけど。あの会長だから大丈夫だとは思うんだけどね」

「女子は美人が多いからな、誰か狙ってたりしないのか?それとも顧問推しか?」

「…そんな気持ちの余裕は無いって。強くなるのが最優先だよ」

「そりゃそっか。俺も訓練を続けねぇとな」


 そんな事を語りながら、俺達は途中で別れた。

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