第10話

 火曜の放課後は訓練に費やし、翌日の放課後。

 俺は異界の小部屋で、唯姉の前で訓練内容を実践して見せた。

 一通り終えると、唯姉は感嘆の声を挙げた。

「…凄いわ、想像以上よ。これなら前衛に当ててしまう心配も無さそうね」

 どうやら合格ラインはクリア出来たようだ。俺はこの一週間を思い出し、ほっと一息つく。

「じゃあかーくん、貴方を正式にBランクに認定します。おめでとう」

「…え、Bランク?Cじゃなくて?」

「宮前さんから先日の件は聞いているわ。中層の魔物を単独で倒せる力量を加味したの。身内贔屓じゃなくて、ちゃんと客観的に評価した結果よ」

 流石にその結果には驚いた。あの二人がCランクだから、俺が出遅れていたと思っていたら抜いてしまった事になる。

 でも引き下がってCランクにして貰うのもどうかと思うので、潔く受け入れる事にした。

「さて…早速上層にと言いたい所だけど、今日はその前に追加で魔法を覚えて貰うわ」

 そう告げられ、2つの魔法を教えて貰った。

 先ずは「槍よ、貫け」。「針よ、穿て」より魔力消費が大きいが、その分威力も増した魔法だ。

 次に「鎖よ、縛れ」。魔力の鎖で魔物を地面に縫い付ける、阻害魔法だ。

「特に阻害魔法は、仲間との連携で大事になるわ。これからは実戦で鍛えてみてね」

 そうか、これでもう堂々と異界を進めるのだ。若干の不安はあるが、ワクワクする。

「じゃあ私は宮前さんに報告してくるから、かーくんは早速実戦経験を積んできなさい」

 そう告げて彼女が小部屋を出て行った。

 俺も小部屋を出て、扉とは逆の方向を向く。これが俺自身の、対魔特別班の本格始動だ。

 早速慣れた魔力量で身体強化を掛け、通路を進み始める。

 中層への階段を通り過ぎた先は、迷路状になっている。事前に地図は渡されているので、迷わないように歩を進める。

 すると天井に何かがゆっくり這っていた。芋虫のように見える。天井は高く、近~中距離の武器では届かないだろう。

 俺は杖を天井に向け、魔法を唱える。

「針よ、穿て」

 動きも遅いので外す事無く、魔法は魔物を貫いた。そして天井から小さな魔石が落ちて来た。親指の先ぐらいの大きさだ。

 その魔石を見て、先日の魔物が強かった事を改めて実感する。魔石の大きさは強さの目安だ。

 良く見ると芋虫は、この先の天井に何匹も張り付いていた。試しに真下に踏み入ってみるが、何もして来ない。攻撃手段を持たないのだろうか。

 そう考えると、皆も敢えて倒さずに放置している可能性が高い。

 俺は魔法を当てる練習とばかりに、次々と芋虫を倒して行く。

 其処で新しく教わった魔法について思い出し、試してみる事にした。

「槍よ、貫け」

 すると大きな魔法の矢が放たれ、芋虫を天井ごと砕く。魔石だけでなく破片がぼろぼろと降って来た。

 魔力消費は感覚で針の10倍位だろうか。これだけの威力だと、上層では出番が無さそうな気がする。

 通路に落ちた魔石を拾っていると、前方から久遠寺先輩と亮、それに御堂さんがやって来た。

「おう茅人、一人でどうしたんだ?」

「一応攻略中だよ。…実はBランクになったんだ」

「マジかよ!?…まあでも、あの化け物を倒したんだ。当然だわな」

 どうやら亮は俺のランクに納得したようだ。妬まれなくて良かった。

 すると久遠寺先輩が話し掛けて来た。

「ワームを倒してくれたんだね。流石に矢が勿体無くて、放置してたよ。魔力に余裕があれば、弓より便利だね」

「そうですね。未だ魔力切れを経験していないんで、ちょっと心配ですけど」

「聞いた話だと、貧血みたいな前兆があるらしいよ、気をつけてね」

 そう言い俺の横を通り過ぎて行く。

 そして御堂さんが通り過ぎる際、ぼそっと「Bランク、おめでとう」とだけ言って去って行った。意表を突かれ、俺はぽかんとしてしまった。

 皆は正面から来たので、俺は途中を左に曲がってみる。

 すると一番最初に見た魔物…確かカニだったか。そいつが居た。

 俺は練習とばかりに、覚えたての魔法を唱える。

「鎖よ、縛れ」

 魔法の鎖が魔物を絡め捕り、身動きが取れなくなった。効果範囲も広めなので、素早い敵などにも有効だろう。

 俺は試しにショートソードを抜き、斬り掛かってみた。

 スパッという斬った感触ではなく、ぐしゃっという叩き潰す感触が手から伝わる。剣の扱いは素人なのだ、当然の結果だろう。

 それでも致命傷は与えられたので、魔石を拾う。それは小指の先程で、芋虫のそれよりも小さい。所謂「美味しくない敵」だろうか。

 そうして魔法を試しつつ通路を進み、少し早めに戻って来た。

 やはり魔石は小さい物ばかりで、全部合わせても先日の拳大には及ばなかった。だがこの調子なら、来月の収入はある程度期待出来そうだ。

 扉を通る直前、小部屋では二人が久遠寺先輩から指導を受けていた。恐らく今日の実戦の反省会か何かだろう。

 俺が準備室に戻ると、然程間を置かずに三人も戻って来た。そして会長に呼ばれたので一緒に向かった。

 会長は俺達を見ると、口を開いた。


「これで一年生だけで異界を攻略出来るようになった訳だ。其処で、君達には学年のリーダーを決めて貰う」

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