第8話
日曜の大半を家事や買い物に費やして、明けの月曜日。
放課後、俺は先週同様に訓練を続けていた。唯姉は水曜に来るので、それまでに出来る事をやっておこう。
なお亮は会長判断によりCランクに認定され、早速御堂さんと2人で上層を進んでいる頃だ。俺自身の認定判断は唯姉に委ねられているので、俺だけDランクという状況だ。
正直言って出遅れている気持ちが強いが、こればかりは仕方ない。雑念を振り切るように訓練に集中する。
すると通路の方から、何かが軋むような音が聞こえた。魔物が近付いているのかも知れない。
許可されていないのに勝手に魔物を倒したら、怒られてしまうだろうか。自分に危険が及んだら多分許されるだろう。そんな事を考えていると。
先程よりも近い距離で金属音が響く。何事かと通路に出ると、前方に2人が居た。しかも亮は床に倒れている。そして2人の先には大型の何かが居た…魔物だ。
御堂さんが薙刀を振るうが、魔物の前足で弾かれてしまう。その勢いに負け御堂さんが尻餅をつく。
俺はその光景を目にし、自身に魔力全開で身体強化を掛けた。
一気に通路を駆け、御堂さんと魔物との間に割り込む。そして杖を向け魔法を唱えた。
「盾よ、遮れ!」
御堂さんに向け振り下ろされた前足が弾かれ、魔物が後ろに仰け反る。だが同時に盾は一撃で破壊されてしまった。
「………え?」
御堂さんが声を挙げる。見た所大きな怪我は無さそうだ。亮の方を見ると、意識は無いが呼吸はしている。気絶しているだけだろう。
最悪の事態に陥っていなかった事に安心するが、眼前で魔物が体勢を整える。
四つん這いの人型で、真っ白な手足の関節に節がある。そして顔は目や鼻等のパーツが無く、のっぺりしていた。
魔物が身体を動かす度、潤滑油の切れた機械のような軋み音が響く。先程聞こえたのはこの音か。
亮と御堂さんの2人掛かりで押されていたのだ、只の上層の魔物では無いのだろう。恐怖に足が震える。
だけど俺が敗ければ全員が殺される。上級生の助けも呼べないこの状況では、魔物を倒すしかない。
俺は攻撃魔法を放とうと杖を向けるが、それに合わせるように魔物が腕を振るう。
ぶおん、と空気を切り裂く一撃が襲い掛かり、俺はギリギリで横に躱した。だが頬を掠り、血が飛び散る。
傷口がズキズキと痛むが、集中力を切らす訳にはいかない。身体強化の魔法は動体視力や反射神経も強化されるらしく、何とか躱す事が出来た。だが逆に言えば、身体強化が切れたら終わりだろう。
俺は前足の攻撃を躱しながら、相手の隙をどう作るか考える。そして初撃を防いだ時に魔物が仰け反った事を思い出す。
すると丁度大振りの振り下ろしが来たので、俺はそれに合わせて魔法を唱える。
「盾よ、遮れ!」
再度盾が破壊されるが、魔物が又も仰け反る。俺はそのタイミングを逃さず杖を胸部に向けた。
「針よ、穿て!」
鈍い音と共に、胸部を抉り取る。だが傷口から血などは流れず、まるで岩のようだった。
胸部は急所じゃないのか、それとも浅かったのか?そう考えている間にも、魔物からの攻撃は益々激しくなる。
俺は手汗で滑りそうになる杖を強く握り締め、次の隙を狙う。
次々繰り出される攻撃を避け、盾の魔法で防ぎ、何とか凌ぎ続ける。
すると魔物は両手を持ち上げ、振り下ろして来た。
…ここだ!
「盾よ、遮れ!」
魔物の両手が弾かれ、頭部が露わになる。俺は杖を突き出し、限界まで魔力を流し込んだ。
「針よ、穿てぇっ!!」
ドゴォン!!
凄まじい音を立て、魔物の頭部の上半分が吹き飛ぶ。そして放った魔法はそのまま天井を抉った。
魔物はそのまま後ろに倒れ、仰向けになった。だが未だ身体が僅かに動いている。
俺は杖を抉った胸部に当て、再度魔力を思い切り込めて魔法を放った。
魔法は胸部を貫き、床を深く抉った。そして魔物はびくんと跳ねたかと思うと、徐々に塵になって消えた。
俺は最後に残った拳大の魔石を拾うと、2人の方を向いた。
「怪我は?自分で歩けるか?」
「え…ええ、何とか大丈夫」
御堂さんはそう言うと立ち上がる。腕を怪我したのか反対の手で押さえているが、歩く事は出来るようだ。
俺は亮を背負うと、扉へと進む。御堂さんも後を付いて来る。
そして戻ると生徒会室へ向かい、会長に告げた。
「会長、治療をお願いしたいのですが」
すると会長は真剣な顔で立ち上がり、廊下に向かった。
「こっちだ、付いて来てくれ」
廊下に出ると、彼女は突き当たりの方に向かった。そっちにあるのは業者用のエレベーターだ。
「緊急時には使用しても良い事になっている。早く乗ってくれ」
エレベーターで1階に降り、部活棟から技術棟へと向かう。そして保健室に辿り着くと、彼女は扉を開けた。
「先生、治療を頼む」
「あら宮前さん、…急ぎのようね。此処に寝かせて」
言われるままに指定されたベッドに亮を寝かせる。
先生は亮に手を翳すと、その掌から淡い光が溢れ出した。すると腕や顔にあった傷が消えて行く。
「…治癒魔法ですか?」
「そうだ。先生は治癒魔法使いでな、大きな怪我を負った時は治療を頼んでいる」
先生は会長の言葉を受け、自己紹介をした。
「私は保険医の胡桃沢 翔子。宜しくね新人さん」
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