天才少女発明家は兄のアレコレに興味津々!

さこゼロ

第1話

「ただいまー」


 学ラン姿のゼロ介が玄関のドアを開けると、妹のゼロ美が仁王立ちで待ち構えていた。


 ぴょこんと可愛く跳ねたツインテールに薄桃色のワンピース、保健の先生のような白衣を羽織っている妹は、兄の姿を確認すると腰に手を当て足を大股に開く。


 それからすうううと息を吸い込み、


「お兄ぃ、オシッコしてるとこ見せてよ!」


 大きな声を張り上げた。



   ~~~



 天才少女発明家は兄のアレコレに興味津々!


 第一話



   ~~~



「……は?」


 バタンと背後でドアが閉まる音がする。ゼロ介は靴を脱ぐのも忘れて思わず聞き返した。


「お兄ぃ、オシッコしてるとこ…」

「いやいや聞こえてるからっ!」


 ゼロ介が両手を突き出して、慌てて止める。


「だったら見せてよ」


「…だったらの意味分かんねーし。見せる訳ねーだろ、そんなとこ」


 そう言って靴を脱ぐと、ゼロ美の横を通り抜けて自室へと向かう。


「お願い、お兄ぃ。大事な事なんだよ」


「それなら親父に頼めよ。お前の頼みなら絶対聞いてくれるから」


「嫌だよ、気持ち悪いっっ」


 ゼロ美は顔を歪めて「オエ」と何かを吐き出す仕種を見せる。


「とにかく絶対見せないからな、そんなとこっ」


 ゼロ介はそれだけ言い残すと、さっさと自室へと入って行った。


   ~~~


 家族も寝静まった深夜25時。


 ゼロ介の部屋の扉がキィーとゆっくり開いていく。


「くくく、お兄ぃに拒否権なんて無いんだよ」


 ゼロ美は音もたてずにベッドに忍び寄ると、白衣のポケットから黒いチョーカーを取り出した。


「夢遊排尿チョーカー」


 何処かで聴き覚えのあるBGMを背負いながら、黒いチョーカーを高々と掲げる。


 着用者の尿意をチョーカーがキャッチすると、直接脊髄に電気信号を送り込み、無意識下で排尿行為を行わせると云う恐しい発明品だ。


 興味のある事は、この目で直に確認する派。カメラを仕込むなど、彼女の矜持が絶対に許さない。


 ゼロ美はいそいそとゼロ介の首にチョーカーを装着すると、ベッドの横に座り込んでその時を待つ。


 どれ程の時間が経っただろうか。どうやら少しウトウトしていたようだ。


 ベッドの端に頭を預けていたゼロ美は、何かが動く気配に目を覚ます。


「どうやら成功みたいだね」


 性能テストなんてやってない。しかし天才少女発明家の辞書に「失敗」なんて二文字は無い。


 ゼロ美はゼロ介のベッドの端に座り直すと、フラフラと立ち上がった兄の姿を期待を込めて見つめた。


 あとは後ろを追いかけて、目当ての瞬間を記録に残すだけだ。…とその時、ゼロ美の目の前に、何かがボロンと零れ出た。


「むぐ…⁉︎」


 そして次の瞬間、その何かがゼロ美の口の中に押し込まれる。ゼロ美は訳も分からずに、兄の顔を上目遣いでジッと見上げた。


 ゼロ美の瞳に映ったその表情には、全面に解放感が浮かび上がっている。


 ウソ……まさかまさかまさかっ⁉︎


「んぐぅーーーーっ!」


   ~~~


 ゼロ美は茫然自失のまま、ゼロ介のベッドの端に座り込んでいた。自分に何が起きたのか、天才の頭脳を持ってしても理解が追いつかない。


 時間の経過すらも判断出来ない中、横になっていたゼロ介の身体が再びムクリと起き上がった。


(そう言えば、チョーカー外してなかったな…)


 天才の無意識が、そんな事を考える。


 その瞬間、ゼロ美の意識が唐突に覚醒した。目の前には再び兄が立っている。


「お兄ぃ、ちょっと待って! 私もう、お腹タプタプ……むぐっ⁉︎」


 待って待って待って…っ!


 もうホントに無理ムリ無理ムリ無理ーーーっ!


   ~~~


「うーん」


 翌朝、ゼロ介が何やら難しい顔をしながらリビングへと入って来た。


「おはよう、ゼロ介。朝からなんて顔してるの?」


 それに気付いたエプロン姿の母ゼロ江が、心配そうに声をかける。


「今トイレに行ってきたんだけどさ、何か全然出ねーんだよ…」


「アンタまさか、お漏らし…」


「ち…ちげーよっっ!」


 慌ててゼロ介が全力で否定したとき、


「ゲプ」


 と、食卓から大きな音がした。


「こら、ゼロ美! ハシタない」


「…ごめんなさい」


 先に席に着いていたゼロ美が、真っ赤な顔で恥ずかしそうに口元を押さえる。


 そうして今日も、ゲプ…いつもの毎日が始まった。

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