第4話『携帯とった!』


ユキとねねことルブランと…… 4『携帯とった!』


栄町犬猫騒動記




大橋むつお






時  ある春の日のある時


所  栄町の公園


人物


ユキ    犬(犬塚まどかの姿)


ねねこ    猫(三田村麻衣と二役)


ルブラン   猫(貴井幸子と二役)




上手から、ユキを呼ばわる声がして、麻衣があらわれる。




麻衣: ユキ……ユキ……!


ユキ: ねねこ!?


麻衣: ちがう、ねねこじゃないよ。麻衣だよ麻衣!


ユキ: ……庭の木の下で骨になってるんじゃあ……


麻衣: それは、ねねこのハッタリよ。わたし、ねねこにブタの人形に変えられていたの。ほら、ねねこが首からぶら下げていた。


ユキ: あのブタの人形?


麻衣: ねこばけは、生きた人間を物に変えてそれを肌身離さず持っていることで、その人間になりかわれるの。化代(ばけしろ)っていうんだって。


ユキ: そうだったんだ……でも、よかった、生きていてよかった! 生きていてほんとうによかった!(抱きつく)犬の姿だったら、ちぎれるほど尻尾をふってるとこ!


麻衣: ハハハ、顔をペロペロなめたりすんのもカンベンね。


ユキ: うん、ほんとはペロペロしたいんだけどね。(今にもペロペロしそう)


麻衣: アハハ、あたしもちょっとハメをはずして、いいかげんな生活していたから……ねねこ、それを見て、うらやましくなったんだろうね。ねねこが、ねねこだけが悪いんじゃないんだ。


ユキ: でも、相当性格悪いよ、あの猫。


麻衣: うん、でも、子猫の時からいっしょだったからね。


ユキ: じゃ、一人と一匹で、いっしょに反省だ!


麻衣: はーい……で、そっちの方、まどかはまだ見つからないんだよね?


ユキ: うん……犬の国へ行っちゃったかな……


麻衣: あたしもいっしょに探すよ。まどか、方向オンチだから、きっとまだそのへんをウロウロしてるよ。


ユキ: ありがとう。


麻衣: あ、ルブラン!?(遠くに着替え終わったルブランを発見する)


ユキ: もう着替えたんだ……あいつ、全部知ってたよ。わたしたちがここにいることも、水鉄砲で撃っていたことも……あいつには、この水鉄砲の薬、効かないんだ……


麻衣: 当たってなかったんじゃないの?


ユキ: 当たってた。ここへ来て、自分でもそう言ってた。だから、服も着がえに行ったんだ。


麻衣: けたちがいの化け物なんだ……


ユキ: 遊んでるように見えてるけど、ああやって、猫たちの訓練してるんだ。


麻衣: 猫好きの女の子が遊んでいるようにしか見えないもんね……


ユキ: ねこばけを増やして、何かとんでもないことを企んでいるんだ……


麻衣: 革命とか、世界征服とかね……


ユキ: うん。 


麻衣: アハハ、あたし冗談で……


ユキ: ルブランならありえる。


麻衣: ……幸子はどこだろう……化代にして身につけてるはずだけど。その薬、ルブランには効かなくても、化代には効くって。男爵がそう言ってた。化代を幸子にもどせば、ルブランも化けていられなくなる。


ユキ: 持ち物もみんな薬でびしょぬれ、もう何も身につけていないよ。


麻衣: でも、なんかあるでしょ、ポケットの中とか……


ユキ: それはないよ。全身ビチョビチョだったから、隠して持っていても水びたしだよ。


麻衣: 携帯で、誰かとしゃべってる……


ユキ: 誰としゃべってるだろう?


麻衣: 意地悪な顔して笑ってる。あれは人をいたぶって喜んでる顔だよ。何をしゃべってるんだろう?……ねえユキ……ユキ……


ユキ: (目を開けたまま固まってる)


麻衣: ユキ、ちょっと……どうしちゃったのよ、ユキ! やだ、固まっちゃた……


ユキ: (麻衣が叩くと、金属音がする)


麻衣: ちょっと、ユキ! ユキ!


ユキ: ……大丈夫、ちょっと手ごろな奴に魂とばして、話を聞いてたの。


麻衣: そういうことは、ヒトコト言ってからやってくれる。びっくりするでしょ。で、誰とどんなことしゃべってたの?


ユキ: 幸子さんと話してたみたい……「あんたのふりしてんのも飽きてきた。そろそろ消えてもらおうか」とか言ってた。


麻衣: あいつは並のねこばけじゃない。RPGで言えば、ラストの大ボス! 特別に魔力が強いんだ……薬も効かないし、化代も身につけなくていいくらいに……幸子は、きっと、どこかに閉じ込められているんだ。


ユキ: 閉じ込めるって、どこへ?


麻衣: とりあえず、幸子の家。行ってみよう。


ユキ: 待って、何かがひっかかるの……


麻衣: ひっかかるって、何が?


ユキ: 何かが……


麻衣: 何かじゃしょうがないでしょ。早くしないと、幸子は消されちゃうよ!


ユキ: ……ねねこが言ってた、猫は携帯電話なんか持たないって……そうだよね?


麻衣: だから、あいつは並のねこばけじゃないって! 携帯使って世界の支配をたくらんでるんだ!


ユキ: ちょっと待ってて(水鉄砲を麻衣に渡し、下手に去る)


麻衣: ユキ……! ったく、何を考えてんだ……あ、携帯とった!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る