第28話 ルナVSクロエ!
怒りを露わにする伍長。
確かに、わしひとりで行かせたとなれば、その力量を問われることになるが。それでもわしの力を見くびられては困る。
「いくら子どもでも、いや子どもだからこそいってはならぬ」
「わしひとりでも倒せると申しても、かえ?」
「そうだよ。キミはまだ子どもなんだから」
ヒースは前に出て遮るように呟く。
相手は時間遡行を持つものじゃ。どうやって勝つのかのう。
他の方法を考えなくてはならぬ。
「このまま、待っておれば今次作戦も応用できると思うのです」
「なるほど。そして後ろから矢を放つのだな」
「そうです。これでなんとかなるでしょう」
ヒースと伍長が話し合っているが、それも無駄。こちらの戦法はすでに分析されているじゃろうて。
「まったく。厄介な敵だよ」
ヒースがそう呟くと、テントの中に入ってくる兵士ひとり。
「報告です。敵が攻めてきました!」
「よし。ならその身体に矢をぶち込んでくれる。作戦を開始する」
「はっ!」
敬礼をし、わしらを含めた弓兵と槍兵が川沿いに逃げ込む。そのあとを剣士たちが下がる。
敵兵に矢を引き放ち、次々と倒れていく敵兵。
視界がぐにゃりと歪み、目の前が怪しく変化していく。
「まったく。厄介な敵だよ」
ヒースがそう呟く。
「また時間遡行かのう。時間遡行の能力はこんなにも厄介じゃとは」
「どうした? ルナ嬢」
「いや、また敵が時間遡行を使ったのじゃ。このままじゃ、こっちの手の内を知られてしまうのじゃ」
「そうなのか? おれたちには分からないんだ。すまぬ」
どうやら時間遡行をしているのが分かるのはわしだけらしい。
その後も敵兵は何度かに分けて襲ってきたが、どれも時間遡行で回避してされてしまった。
このままでは、こちらが負けの目がでるまでサイコロを振り続けることになるのじゃろう。
微妙にタイミングや時間をずらして攻撃してくることから、こちらの作戦の全容を把握しているわけじゃないらしい。
こちらにももう一つくらい作戦を立てないとマズいかもしれない。
「しかして、どのようにして敵を倒すのじゃ?」
「さあ? こちらから仕掛けてみるか?」
「それじゃ!」
「え。なに?」
「こちらから仕掛けるのじゃ! もちろん、逃げるかのう」
「どういう意味だ?」
ヒースが首を傾げる。
「さあ?」
「わしが手本を見せるぞい」
テントを出ると、暗闇の中に向かってウォーターカッターを放つ。
飛んでいったカッターが樹木と敵兵を巻き込んでいく。
「わしが手本を見せるぞい」
テントを出ると、暗闇の中に向かってウォーターカッターを放つ。
飛んでいったカッターが樹木と敵兵を巻き込んでいく。
どうやら時間遡航は失敗したらしい。
敵兵が巻き込まれると、怒ってこちらに向かってくる敵。
「作戦通りじゃ。退け!」
わしが退くと槍兵と弓兵も引き下がる。
引き下がると、矢で撃ち抜く味方の兵士。
「作戦通りじゃ。退け」
再び同じ文言を言うが、敵兵の感情は止まらない。攻撃を受けたときの反感、怒り、憎しみが糧となり、襲ってくる。人を動かすことはできても、感情まで制御できるわけじゃない。
茂みの中に隠れていた敵兵のおよそ半分をそぎ落とす。これで相手側もこれ以上の人員はさけまい。
「撤退だ。撤退!」
森の中に響き渡るハスキーな声音に一瞬びくりとする。魔族の中でも魔女と呼ばれる類いの敵だったのだ。
それも時間遡行を持っている。そんな敵兵の言葉に反応した敵兵は引き下がっていく。
「前線を押し返すぞ!」
伍長が声をあげるが、わしは否定する。
「今の命令は撤回する! 全軍その場で待機!」
わしは可能な限り大声を上げる。
普段使っていない筋肉を使ったためか、喉が痛む。
「なぜ。退かせるのですか!?」
伍長が否定の声音をあげる。
「このままじゃこちらの不利になるぞい。今退かねば後戻りできなくなるんじゃ」
「どういう意味だ?」
「地の利という奴だな」
ヒースがテントから横合いから入ってくる。
「このままじゃ、相手の思うつぼじゃ。敵に有利だったのはこちらの地の利があればこそ、じゃ」
「……」
苦い顔になる伍長。
「だが、これから襲ってくるやもしれない相手ですぞ。どうするのですか?」
「まずは援軍を求める。こちらは領土拡大戦を行っているのだ。陣地を増やすにはは分かりやすく人を増やせばいい」
ヒースがそう言いながら手紙をしたためる。そしてフクロウの足にくくりつけると、夜の空へと放つ。
「まあ、わしは追うんじゃがな」
走り出すと、わしを止められるものはいない。
カリッと漬物をかじる。漬物に秘められたルーン文字ゆらいの魔力が身体の中を駆け巡り、全身の力がみなぎる。
「さて。ちと暴れてくるかのう」
逃げている敵兵に向かっていき、手にした剣を振り回す。
「悪い子はいねがー!」
わしはそう言いながら魔族に斬りかかる。
「悪い子はいねがー!」
わしは再びそう言いながら魔族に斬りかかる。
どうやら時間遡行を使ったようだが、遅い。きっとタイムラグがあるのじゃろう。
「ぎゃ――――っ!」
魔族の断末魔を聞き届けると、三人目の敵に斬りかかる。
「少しでも気勢をそぐのじゃ」
わしは剣を片手に敵兵へ斬りかかる。
四人、五人目。
切り倒すと、わしはウォーターカッターで遠くにいた魔族を切り飛ばす。
扇状に広がった敵兵は端から端までに行くことはできない。だから少しでも敵を倒す。今後、二度とこちらに攻撃したくならないように。
相手の放った火球がわしを包み込む。が、暖かさを感じるだけで、特別ダメージはないようじゃ。
「な、あいつ化け物かよ!」
そい言った魔族は取り残し、次の目標を狙う。その首を落とすまでに二分。
次々と撤退していく中、大蛇を身体に巻き付けた魔族が目の前に現れる。
「よくも、我のかわいい下僕たちをいじめてくれたな! この人間風情が!」
「それはこっちも同じじゃ。よくもまあ、わしのかわいい子らをいじめてくれたのう」
「お前の名は?」
「わしはルナ=キルナー。して、お主は?」
「クロエ=クレイ。時の番人よ!」
「ほう、やはり時間遡行を行っておったのじゃな?」
「な、なんでそれを!?」
「わしには分かるぞい。貴様のことなど」
「知ったふうな口をきくな!」
怒りのあまりクロエは氷の魔法を放つ。つららのように尖った切っ先がこちらに向かって飛翔する。
わしの身体に直撃すると、つららは粉々に砕けて消えていく。
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