第14話 レストラン経営と危険視!

 そうして、日本食の契約書を書き終えて、国営のレストランを経営することになった。

 〝日本食〟を世に広める機会が得られた。

 自分の故郷の味を知ってもらえたら、嬉しいものだ。でも、そこにわしはいない。だって和紙を作るのに集中したいから。そう言ったのはわしか、それともミアか。

 とにもかくにも、貴族であるミアがわしたちと活動するのに問題なくなった。

 貴族と民衆という垣根を越えた国営のレストランが始まっている。そして今は紙を作ろうとしている。

「こうして、こうすればいいの?」

「そうじゃ、そうやってほぐしていくのじゃ。繊維のひとつひとつをあとで絡めていくのじゃ」

 わしはコウゾという植物を熱湯でほぐしていき、皮を剥ぎ取る。そうしてできた繊維は乾燥させて一晩待つ。

「ずいぶんと力仕事なの~。疲れたの」

「そんなときはこれじゃ」

 わしは持っていた漬物を差し出す。

「おお! 漬物なの! 嬉しい」

 テンションが上がるミアにわしは嬉しく思う。

「できあがったら、知識として帝国内で大切に扱わせていただくの」

「そうじゃろう。良かったのう」

 わしはミアの頭に手をおき、わしゃわしゃとなでつける。

「えへへへ。くすぐったいの」

 抵抗するかと思えば、身を預けてされるがままのミア。素直でいい子じゃな。

「もう。子ども扱いしないで。同い年なの」

「そうじゃったわい」

 まるで我が子のように接してしまった。でもミアは嫌がっている様子は見せない。

 そうされるのが好きみたいじゃ。


 午後になると、日本食を食べにヘンリーの店にいく。名前は〝エンジェルビーズ〟。郷土料理を始めとするこの地の料理が並んでいる。その中で〝日本食〟という異彩を放つ料理がある。

 というか、そうしたのはわしじゃ。

「うまいな、これ!」

 と叫ぶ客。

「ニホンショクとやらがうまい! それに加えてツケモノがいい!」

 客の評判は上々。それに漬物が民衆に受け入れられている。

 最初はただの野菜だとバカにしている者も多いが、食べてみるとひと味違ってみえるらしい。

 わしはミアと一緒に昼飯にする。

「こっちでは米がないから、これくらいしかできぬのう」

 レンコンとニンジン、鶏肉の煮物と、ネギの味噌汁をふるまう。

「なに、これ。おいしいの……!」

 わしの作った料理に舌鼓を打つミア。どうやら気に入って頂けたらしい。

「今度はハンバーグやシチューも作ってみるかのう」

「はんばーぐ? しちゅー。なにそれ。おいしいの?」

 ミアはじゅるりとよだれを垂らして聞いてくる。

「うまいぞい。今よりももっと!」

「こ、これよりもおいしいもの」

 ごくりと喉を鳴らすミア。

「牛丼や親子丼、カツ丼も捨てがたいのう」

「未知の食事ばかりなの~」

 テンションの上がったミアは足をばたつかせる。

 名前だけで、想像がつくわけがない。それでもおいしいと言ってもらえたのはひとえにわしの料理を知っているからなのじゃろうて。

 食に飢えていたこの世界にはまだまだ伸びしろがありそうじゃわい。

 それにしても紙が大切なものと知った。確かに日本では紙の進歩が早かった。それが文化の発達と結びつくのかもしれない。


 次の日になると、和紙の様子を見に行く。

 乾燥が終わった植物(黒皮)は川さらしと言い、川で黒皮を一日つけておく。

「なんだか思ったよりも時間がかかるの」

「そうじゃな。その間に日本食でも作るかのう」

「ニホンショク! それが食べたいの!」

 元気よく手をあげるミア。

 忙しそうにしているヘンリーの店に上がり込み、シャーロットの隣で料理を始めるわし。

「ここにいる客全員にも配るかのう」

「「「やった――――――っ!」」」

 とみんな欲張りな声音をあげる。

「今作っているのはなんていう料理なのかな?」

 ソフィアがおずおずと聞いてくる。

「今回作っているのは、ハンバーグじゃ。安いお肉を叩いてミンチ状に」

「なんでそんなに細かくしているのさ? 僕なら焼いて塩をかけるよ?」

「これは繊維質でかみ切れない肉を、柔らかく、おいしく食べるための工夫じゃ」

 みじん切りにしたタマネギとミンチ肉を混ぜ込んで卵とパン粉を混ぜ合わせる。塩コショウで味付けをし、形を整えてフライパンで焼く。

「これっておいしいのか!?」

 ダニエルが驚いたような声音をあげる。

 こっちの世界では食材はあまり加工しない方が有名らしい。

「おいしいぞい!」

 手でこねているのを見て、不安そうになるみんな。

 ジューッと焼く匂いにつられて鼻をひくひくさせる客とヘンリー。

「小さいのはミートボールにするかのう」

 ソースがないこの世界では、醤油がベースになるじゃろう。

「できたぞい!」

 できあがったハンバーグとミートボールを皿に分けていく。その脇にレタスやキュウリ、トマトといった野菜をのせていく。

 みんなに行き渡ったところで、食事を始める。

 わしとミアが勢いよく食べる始めると、そこにいた客とヘンリーたちも頬張る。

「「「うまい!」」」

 そこにいた全員が口をそろえて言う。

「柔らかくて、ジューシー。それでいて香ばしい香り」

「臭みがなく、上質な肉を使っているかのうな味わい」

「うまい! しか言えないのが悔しい!」

 驚きの声で満たされていくエンジェルビーズ。

 これもレシピに加えておくかのう。

 ボロボロの和紙に書いておくと、隣からヘンリーが覗きみる。

「これがハンバーグのレシピ?」

「そうじゃ。読み書きができるヘンリーとシャーロットに聞いてのう」

「おれには分からないぞ……」

 ダニエルが横で小刻みに震えている。

「ダニエルはそのうち、読めるようになるんじゃ」

「おれも読めるようになるのか! それはすごいな!」

「ダニエルは代々、鍛冶屋の家系に生まれていたから」

 ヘンリーが補足説明する。

「鍛冶屋か。わしも興味あるぞい」

「「「え!?」」」

 みんながびっくりして言葉を失う。

「なんじゃ? おかしなことを言ったかえ?」

「いやいや、ルナが何かをしでかすんじゃないか、とみんな驚いているのさ」

 ヘンリーが言葉にすると、みんながうんうんと頷く。

「わし、そんなに危険視されているのかのう」

「うん。している」

「わたしもそう思うの」

 ヘンリーとミアが首を縦に振る。

「だな! おれも思うぞ!」

 ダニエルも首肯する。

「うふふふ。これは全課一致で肯定されてしまいましたね」

 ヘンリーの母・シャーロットまでも肯定的な意見だ。これは参ったのう。そんな危険視されておるとは。

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