第13話 日本食と決闘!

 オレンジ色のソースがのった鶏肉のソテーに、香り立つ鶏肉のスープ。

 わしはそれを口にすると、驚きのあまり目を丸くする。

「おいしくもまずくもないのう。普通じゃ」

「そうだな! まるで家庭の味だな!」

「母さんの料理を悪く言わないでほしいな」

「ほう。興味深い。庶民はこんなものを食べているのか?」

 ソフィアの言葉にヘンリー母が青ざめている。

 この辺りの郷土料理なので、おいしさよりも安心感の残る味わいだ。

「それじゃ、わしらの日本食も食べてみてほしいのじゃ」

「ニホンショク? それが国営にさせた食事なのね!」

 ヘンリー母は顔色を変えて目を輝かせる。先ほどまでに青ざめていたのと一緒な気がしない。食に対する欲は人一倍強いのかもしれない。

 お陰で説明する手間が省けるというもの。

 漬物に、肉じゃが、豚汁を料理する。

「簡単に、じゃが、これで良かろう」

 料理を食べたダニエル、ヘンリーとその母、ソフィア、ミアが目を輝かせて料理を楽しむ。

「久しぶりに作ったが、受けるもんじゃな」

「私たちの料理が嘘みたいにおいしいわ」

 ヘンリーの母がうっとりとする。

 同意してくれたのか、ヘンリー母は喜んでいる。

「これで今までの借金ともおさらばよ! これからは毎日がステーキ三昧ね!」

 それはそれで嫌じゃないか? と思うが、口にしないでおこう。ステーキはうまいからな。

「それでは認めてくれるのかえ?」

「はい。認めざるおえないわ。こんなにもおいしいもの。国営にしてもいいわ」

「くくく。これで明日から営業が可能なの!」

 ミアは嬉しそうに顔をほころばせる。

「それでは、レシピをお教えしようではないかのう」

 わしは和紙にレシピを書いていく。

「ちょっと待て。その紙はなにかな?」

 ミアが不思議そうに訊ねてくる。

「これかえ? わしが作った紙じゃが?」

「「「え!」」」

 紙を作ったことに驚きの声をあげる一同。

「これは困ったの。まさか紙の量産ができそうなんて……」

 ミアは驚きのあまり首を振って否定したがる。

「ニホンショクはシャーロット、ソフィア、ヘンリー、そしてダニエルに任せるとして、わたしはルナの紙造りに協力したいと思うの」

「やっぱり。僕たちの負担が増えるわけだ……」

「おう! おれたちの頑張りが必要だな!」

 ヘンリーとダニエルが焦りの色を見せる。

「紙くらいで、そんなに驚くことかえ?」

「もちろんです。紙がないと口約束、言づてで済ませるから、曖昧になってしまうことが多いんです」

 ヘンリーは説明してくれるが、前世の記憶では紙なんて腐るほどあったのに。

「なら、わしだけでもちゃんとした契約を結ぼうかのう」

 和紙に契約書としての文字を書き連ねていく。

「おう! 何をしているのだ?」

「契約書じゃ。これで問題なく、契約ができるかのう」

「ええと。私含め、子どもたちは字が読めない、書けないのですけど……」

 そういえばそうじゃった。この国には紙がないから、識字率も低いのじゃ。勉強をすることすらできないのじゃ。

「紙をつくったなら、勉強をするべきじゃの」

「無理でしょ。こんな低脳の、民衆なんて、勉強したところでなんの意味もありません」

 ぎぃっと木製のドアが開く音が聞こえると、若い男の声が響く。

「ジャック! どうしてここに?」

 ミアが純粋な驚きの声をあげる。

「ミア様が良からぬ者にほだされていると、お聞きしました。民衆なんて、ミア様の魅力にも気がつかない、荒くれ者。わたくしのもとで学べばいいのです」

「なんじゃ、こいつ。単に失礼な奴じゃな」

 わしは怒りのあまり、思ったことを口にしてしまう。

「貴様! 死にたいのか!?」

 ジャックは怒りのあまり、声を荒げる。

「すぐに〝死〟を呟く辺り、お前の人間としての浅はかさが透けて見えるわい」

「貴様! 今すぐ切られたいのか!」

 ジャックは腰にある剣のつかに手をかける。

「よせ。ルナは二重字勲章を持っておる。お主だけだと力不足だ」

「なに!? こいつが二重字勲章だと!」

 驚きのあまり顔をしかめるジャックとやら。どんなに強かろうが、わしにはかなうまい。なにせチートがあるからのう。

「ますます倒せなければなりません。こいつの二重字勲章を返却してもらいます」

「は。何を言っておるのじゃ? こやつは」

「ともかく、こんな民衆の、しかも小娘に負けるわけにはいかないです」

 ジャックは頑なに自分の意思を変える気はないらしい。

「なら、中央広場で戦おうぞ。お主に民衆の強さを知ってもらうぞい」

「いいだろう」

 わしが提案すると、大仰に頷くジャック。

 ここでは被害が予測できまい。


 場所を移動して中央広場。その噴水の近くで戦いを挑むことになった。

「見ていてください。ミア様」

「わしは勝つぞい」

 吹き荒れる風が土埃をあげる。

 決闘が始まる。

「始めじゃ!」

 ミアの合図で駆け出すわし。

 剣を引き抜き、構えるジャック。

「終われ! 民衆ごとき!」

 ジャックが振るう剣は風を切り、音を立ててわしの懐に飛び込んでくる。

 わしはその身体で受け止めると、跳ね返す。

 やはり。この身体は刃物などで切れるほど、やわにできていないようじゃ。これも女神の力――チートのお陰じゃろう。こればかりはセクメトに感謝せねばなるまい。

「ぬおっ!?」

 弾かれた切っ先に驚きの声をあげるジャック。

 わしはその拳で殴りかかる。

 剣の柄を手放し、片手で拳を受け止める。

 そのままの勢いで、わしはもう片方の拳を伸ばす。

 剣を完全に捨てたジャックがもう片方で受け止めるが、そこに蹴りを加える。

 顔に突き刺さった蹴りが、ジャックの繊細な顔を歪ませる。

「ぐっ!」

 小さくうねった後に、後ろに吹き飛ぶジャック。

 露店の隣にあるマンションタイプの家屋、その壁にめりこむジャック。

「これで終わりじゃな」

「それまで!」

 ミアの言葉に二人とも戦意を失う。

「ここまでとは……。剣士が剣を捨てるはめになるなんて……」

 心底ショックを受けているジャック。

「はっはっは。これでもわしは強いんじゃよ。民衆をなめるもんではない」

 昔から一揆などを起こしてきた民衆は、殿様を堕としてきたものじゃ。

「お主のバカにしている民衆がすべての基板になっていると、思い知れ」

「くっ。分かったよ。少しは学んだ」

 ジャックは苦々しそうに呟く。

 こうしてジャックとの決闘を終えたのじゃった。

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