第3話 授業中

 私は、窓の外で桜色から鮮やかな緑色に染まった葉っぱが優しい風で揺れているのを、にやけた顔で見ていた。


 にやけた顔になってしまうのは先生が原因だ。

 告白したあの日から、先生の行動が変わった。

 想像していたのと同じように距離は置かれてしまったけれど、先生とよく目が合うようになった。


 授業中、黒板に古語を書く先生を見ていると振り返った先生が私を見て目が合ったり、廊下で友達と話していると通りかかった先生と目が合うことも。

 想像よりずっといい現実に嬉しくなって、にやけた顔になってしまったのだ。

 先生に告白したときはこれからどうなるか不安でいっぱいだったけれど、今では告白して良かったと心から思えている。私を意識してもらえているから。


 顔のにやけが治まったから窓の外を見るのをやめ、教卓で教科書をめくる先生を見つめる。

 最近、先生が持っている物まで愛おしく感じることが多い。先生がよく失くすボールペン、プリントを入れて持ち運んでいる茶封筒や教科書。一番愛おしく感じることが多いのは先生が付けているバレッタだ。

 先生のバレッタを見つめていると、先生がチラッとこちらを見て目が合った。でも、すぐに逸らされてしまう。


 逸らされてしまうのは残念だけど、私を意識していると雄弁に語る行動にときめいてしまう。意識している意味が私と違くても、嬉しくなってしまうのだ。

 古語のポイントを説明する先生の声を聞きながら、またこちらを見ないか期待して先生を見つめる。


 そうすると、また目が合った。これで3回目。

 さっきと違い、すぐに逸らされない目を見つめたまま微笑む。

 私の表情を見た先生は、目を逸らし眉を寄せて口を真一文字に引き結んで、黒板に向かう。

 先生は私と目が合うと困った顔をしたり、そっぽを向いたりする。

 普通なら傷つきそうな行動をされてしまっているのに、私はその反対にときめいている。ドキドキする。今の私は先生にどんなことをされても好きの気持ちが増す一方だ。


 自分自身、大丈夫かなと自分のことを心配していると、授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。

「今日はここまでです。授業の内容などで質問がある方は気軽に聞いてくださいね」

 そう言い、手早く教卓に置いていた教科書などを手に持ち、教室から出ていってしまう。


 いつもより早い退出に驚き、慌てて先生を追いかける。早歩きで廊下を歩く先生の後ろ姿が見え、追いつこうとするが、距離は一クラス分程離れてしまっていた。

 先生の逃げるような行動に意識されているのを感じながら、先生の後ろ姿が見えなくなるまで眺めていた。

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