偽りの英雄
七草 みらい
第1話 依頼
とある場所にて秘密の会談が行われていた。
「ローガス陛下、私に一体何の用でしょうか?」
金髪の少女が目の前にいる人物にそう声をかけた。
ローガス・エルライト。エルライト王国にてただ一人国の頂点に立つ国王だった。それにもかかわらず周りには護衛など一人も見えない。暗殺者からしたら絶好の機会ともいえる状況だ。だがそんなことを国王ともあろうものが対策していないはずがない。
二人が話している場所は、今ここにいる二人以外誰にも知られていない。裏を返せば国王にとって最も信頼できる存在が彼女であるということだ。
「近頃帝国がきな臭い動きをしているのは分かっているな、アリア?」
アリア・ロスライト。それが彼女の名前だった。
「はい。」
ヴァルガス帝国…先ほど帝国と呼ばれた国の正式名称だ。エルライト王国の隣に位置する大国で王国と違うのは武力によって周囲にある国を次々と支配していることである。当然属国にされた国としてはたまったものではない。だがこの国で最も大事とされているのは徹底された実力主義であること。
武力でも知識でも技術でも何かしらに秀でていれば、名誉や金、地位を得ることができる。それ故に属国から次々と優秀な人材が帝国へと流れていくため属国からすればたまったものではない。クーデターなど起こせるはずもなかった。
そんな国が王国に喧嘩を売ってくるのも必然とも言える。結果としては王国側の勝利と言えるだろう。
勝敗の差を分けたのは、七聖剣と呼ばれる存在が大きい。全員に二つ名がつけられ、それぞれ迅雷、爆炎、砕剣、神速、不屈、聖女、幻惑と呼ばれている。彼らはいつまでも戦場で立ち続けた。次々とくる敵に対して彼らは倒れることなく敵をなぎ倒していった。聖女はどちらかというと回復専門だったこともあり、ほかの6人と比べると戦果は乏しかった。だがそれ以上に彼女の回復魔術が味方にとって頼もしかった。それ故に彼女も七聖剣の一人として認められている。
彼らの存在が兵士たちの士気をあげたのは間違いなかった。彼らがいれば俺たちは負けない、彼らがいれば勝てる。そう思わせられるほどに。
結果としては勝てた。だがそれ以上に被害が大きかった。この戦いで多くの人々が死んでしまった。そのせいで家族を失った人がいるのもまた事実である。
だからこそ国は、大々的にこの7人をたたえた。七聖剣という名のもとに一人一本国宝級の魔剣を授けるほどに。少しでも悲しみを忘れられるようにと…。その甲斐もあってか国民たちは大盛り上がりだった。その盛り上がり様はすさまじいものであった。
「あの戦争から3年だ。帝国が黙りっぱなしとは思えない。」
ローガスの言葉に少女も無言で頷き返す。あの帝国がこのまま引き下がっておくなど彼女にも思えなかった。
「今年は、エリンが学園に入る年だ。護衛も当然いるから本来なら何も問題はない。だがそれでも懸念が残るのだ。だから・・・」
ローガスは途中で言葉を発するのをやめアリアの目を見つめてこう言った。
「迅雷 アリア・ロスライト殿。わが娘第2王女エリン・エルライトの護衛を引き受けてはもらえないだろうか?」
「分かりました。この命に代えても殿下の安全は私が保証します。」
アリアは右手を左胸に置き、片膝を付け頭を垂れた。これは騎士にとって最上位の忠誠を誓うものでもあった。
「そうか。なら堅苦しい話はここまでだ、リオン。」
それまでの王としての威厳を表した覇気のある雰囲気とは異なり、随分と穏やかや口調でローガスはアリアに話しかけた。アリアは一瞬眉をピクッと動かしたが…。
「分かったよ、父さん。」
その言葉は皮切りにアリアの姿が変わっていく。金髪の方まで伸びたきれいな髪が短く整えられた白髪に女性らしい体も線の細いながらも鍛えられているのが分かるような体つきへと変わっていた。一気に白髪の美青年へと変化していた。
七聖剣と呼ばれる者たちはみな有名である。その中でも特に象徴的な存在であるのがアリアであった。七聖剣の中で最も若く、彼女の剣技と魔術には、味方でさえ衝撃が走ったほどだ。美しい容姿に加え、体に雷を纏い目にもとまらぬ速度で次々と敵を倒していく姿はまさしく迅雷という二つ名にふさわしいものだろう。七聖剣の中で最も強いのはだれか?という議題は良く上げられる。その中でも特に多いのがアリアである。そんな彼女であるが実は最も世間に対する露出が少なく、七聖剣の中で最も秘密が多い存在であった。
アリアはなぜほかの七聖剣と違って姿を見せないのか?その理由はアリアと呼ばれる少女はリオンという少年が変身しているだけの存在であるからだ。こんなことが知られてしまえば大スキャンダルである。その秘密を知っているのはローガスただ一人である。だからこそこうして二人は秘密裏に会っている。
「でもどうしてこの依頼を?砕剣でも不屈にでも任せればよかったのに。」
砕剣や不屈は、学園…リデア魔術学園で教師として働いている。護衛としてつけるならば彼らの方が向いているとリオンは思っている。
「確かにその通りなのかもしれない。これはお前のためを思って言っているんだ。」
「俺の?」
「アリシアが亡くなってからというもののお前は、死に物狂いで強くなろうとしていた。それは別にいいことだ。だがあまりにも生き急ぎすぎている。」
「…。」
リオンは無言でローガスの話を聞いていた。
「学園とはいいものだ。学年には、同年代の多くの子供たちが集まる。中には生涯に渡って関わることになる人だっている。」
ローガスの言葉を聞いてリオンが思い出すのは、自分の姉の言葉だった。
『強い人、賢い人、面白い人、学園にはいろんな人がいっぱいいるの。もちろん、辛いことだってある。でもそれ以上に学園での生活はかけがえのないものでとっても楽しものよ。』
「うわっ。」
いつの間にかローガスに髪をなでられていた。突然のことでびっくりしたものの嫌な気分にはならなかった。
「髪のことだっていろいろ言われるだろう。それでも私は王として、そして一人の父親として学園には通ってほしいと思う。」
「分かったよ。」
その後、ローガスとリオンはしばらくの間話し込んだ。久しぶりの父と息子の会話でもあったのかとても話が弾んだそうな。
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