494話 終決戦そ 12
「存外晴れやかな気分だ」
神のしるしを喪失すれば、待っているのは何か。大神が光臨して直接裁きに来るか、あるいは───
いいや本題はそこにはない。もっと根源的な、俺には分からない恐怖というものがあるはずだ、彼らには。
神が自明のものとして存在し、その寵愛ありきで廻る《九界》において、神のしるしを喪失するということは自殺にも等しい……はずだ。ましてや信庁の頂点に君臨する彼ならば、その苦痛たるや想像を絶することだろう。神に見放され、この世界に存在する証明を自分の手で破り捨てて、晴れやかな気分だと?
「だろ? もっと早くそうしていりゃあ、俺とも仲良くなれたかもしれないってのに。惜しいことをしたなディレヒト」
「それはないさ。しるしがなくとも君と私が相容れることはないだろう、ユヴォーシュ」
───君に勝つために私はこうしたのだから。そう絶叫して、白刃を振りかざすディレヒトは喜色満面。
きっと鏡写しだろう、俺も頬が吊り上がっているのを感じている。だってやっと、あのディレヒトが、高きから俺を見降ろすばかりだったあの男が、俺と同じところに立っているんだ。これを笑わずして何を笑えと言うのだろう!
《心折るアルルイヤ》と《列聖するもの》、黒白対を成す刃がかち合って火花を散らす。割り込みの天龍をぶった斬った時よりも本気で、嘘偽りなく全力だ。それが拮抗している。
打ち合う。斬りかかって斬り返され、防ぎながら蹴って殴って投げ飛ばし、およそこれまでの人生で積み上げてきた鍛錬というものを全て吐き出すような勢いで挑んでいく。ディレヒトも同じで、必死になって斬り込んでくるから手を抜けない。悠々といなすような実力差はないと確かめられる。
数十合が一瞬で過ぎ去る。前蹴りに吹き飛ばされて復帰しようとしたそのとき、ディレヒトのやつは手に握っていた聖剣───《列聖するもの》をひょいっと自分の後ろに放り投げた。何を考えている、自分から武器を捨てるなど。さっきの今で負けを認めたということもあるまいし、まさか───
「全てだ、ユヴォーシュ。私が全てを掛けるのだから、君も全てを掛けてかかってこい!」
「のヤロッ……!」
彼の空いた手に光剣が現れて魔剣と斬り結ぶ。その間に聖剣は床に突き立ち、ディレヒトが触れてもいないのに光を溢れさせる。どうにかして輝くあの柱を奪おうとする俺をキッチリ押し止めて、《輝きの騎士》たちが三度《人界》にその姿を現した。
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