486話 有頂天動その6

 ドン、ドンドン、と壮絶な音が連続したかと思うと、振り向いた先で天龍たちが焼き鳥のようになって墜ちていた。ほんの一瞬前まで我が物顔で聖都の空を支配していた奴らが、目を離した隙に一体何があったというのか。


 その答えは、すぐにした。


 


 間一髪で回避したナヨラの横、抉れた舗装路が吹き散らされる。


「───見つけた!」


「化、者……ッ!」


 爛々と瞳光らせて、《悪精》の彼女ヒウィラが吹き抜けたのだ。一段上の格へと至った《真なる異端》、聖究騎士たるナヨラであれば相性が良くても保たせられるものではない。ユヴォーシュと未だ相対できてきるディレヒトがおかしいだけなのだ。


 《九界》の外に由来する化身として生み出され、《真なる遺物》を握り、《真なる異端》に至った埒外の例外。ユヴォーシュ・ウクルメンシルの所詮は腰巾着───と思っていた。なるほど神聖騎士よりも強かろう、聖究騎士にも匹敵し得る、けれど足止め程度ならば十分に叶う存在だ。そう判断して、出来る仕事だから請け負ったのに。


 ───なんだ、これは!


 ヒウィラの《信業》の出力を十として、先刻までならナヨラは《付和雷同なるイルキシャル》を打ち振るえば半分、四五くらいは奪えたものだ。半分に届かずとも奪ったもので残りを相殺してやればどうとでもなった。それがどうだ、空中でどんな心境の変化でもあったのか、こんな突進モノに戦旗を差し挟めば流れを奪うことも出来ずに圧し折られるだろう。ここからは死力を尽くせ、死線をくぐり抜けるしかないのだぞ───と、歯を食いしばって鼓舞しながら、立ち上がる。


 その足が勢いよく挫けた。


 ドン、と、


 天が鳴動した。


 地はうねり、人は震えた。つまり世界のすべてが揺るがされ、根本から変革する予感に畏れ慄くしかない。この《九界》に生まれて神のを刻まれた者たちすべて、逃れ得ない本能よりも強い源感情。


 そして棒立ちになったのは、を失ったヒウィラもまた同じ。元より蒼白な顔色は《悪精》ゆえだが、それでも血の気が失せていると一目で分かる恐慌だ。まあ、無理もないだろうとナヨラは案外冷静に思考の片隅で考える。だってこれは───


 宙に走る魔法線。


 信庁大議場から地平の彼方まで、一瞬で広がる波動。


 一度ではない、連続する。幾度も幾度も、規則正しく、絶えず同じ間隔同じ強度で───


 これは、脈動だ。


 流転し新生する《人界》の最初の鼓動。混乱と狂瀾の果てに旧き《人界》に満ち充ちた想念を燃料と焚べて、竟に廻り始めてしまった《大いなる輪》の内側に、胎動する


 ───《人界》の終わりのカタチが、鐘の音のような産声を上げた。

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