461話 機神解体その2

 機神ミオトが暴れる。その内部、入り組んだ回廊の中でバランスを崩したンバスクが手をつく。


「っく、急がねば───」


 彼はメール=ブラウとの交戦を途中で切り上げ、機神ミオトが暴走するのを阻止するべく内部に突入していた。メール=ブラウあちらは神聖騎士たちに任せて来はしたものの、裏切り者とはいえ聖究騎士を彼らがどうこうできるとは思えない。足止めにもならないだろうから、迅速に対処する必要がある。


 ンバスクは知る由もないことだが、彼が走るここは搭乗回廊。機神ミオトの操縦者が乗り込むための経路であって、一応は人が通るためのものなのだが、それにしては───


「広かったり狭かったり、何だここは……!」


 ンバスクが今いるところはひどく細まっていて、這って進まねばならないほどだ。それがただの狭い道であれば《無私》のンバスクはその《神血励起》でいくらでも通り抜けられるが、ここはすべて機神ミオトの躯体であるものとされ、干渉は妨げられてしまう。力づくで広げようとする行為もおそらくは制限されるはずだ。


 ここはンバスクと相性の悪いフィールドだ。さっさと用事を済ませて、さっさと退散したいと考えるのは自然なこと。そしてその期待は、残念ながらあっさりと外れることとなった。


「──────」


 這い出た先、唐突に広くなった回廊に待ち構えている物があった。それは鋼で形作られた蜘蛛のような、多脚の防衛機構。内部に許可なく侵入した異物を排除するべく配置された機神のいわば免疫と呼べるものだった。


 大きさは大型の野犬ほど、《神血励起》が上手く機能せずとも聖究騎士ンバスクの相手ではない。だが免疫機構とは得てして数で攻め立てるもので、事実、回廊の見える床、壁、天井まで隙間なく防衛機構がひしめいている。果てしなくげんなりする光景。しかも、ンバスクの《信業》は多を相手取るのに向いている性質とは言い難い。


 手こずるのは目に見えていた。


 後ろからメール=ブラウが追ってくるのではないかと警戒しながらの戦闘はしたくなかった。もともとンバスクは始末屋、暗殺者としての働きが多い。透過の《神血励起》で敵のそばまで密やかに潜行し、そこから真っすぐ突撃して急所を突けばそれで済むというのが、彼の仕事に対しての主観だった。こういう数えきれないような敵を薙ぎ払って殲滅するのはもっと他の騎士の仕事のはずだ。それがどうしてこんな配管と金網とで構成された迷宮で孤軍奮闘する羽目になったのか、すべての元凶は、


「───おのれ、ユヴォーシュ・ウクルメンシル……!」


 彼の瞋恚は、果たして適切なのか逆恨みなのか。因果の糸が絡まり過ぎていて、整理するのもうんざりするほどだった。

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