208話 聖都帰郷その4

「それで、どうしてオースロストが遅れたんだい? それがなければ、墓参りも問題なかったんでしょ?」


「何々───ロジェスの野郎だ」


「また彼か」


 手紙によれば、オースロストは現役の聖究騎士全員が揃うことが条件とある。その条件に、《魔界》に行っていたロジェスが引っかかった。


 彼が独断で《魔界》アディケードから《魔界》インスラへ行き、重傷を負って帰ってきたことでオースロストは後ろ倒しになったのだ。結果として命日に被ったため、その代行を頼みたいというのが流れか。


 彼の判断があったからヒウィラが今ここに居ることを考えれば非難する気はさらさら起きないが、それにしても自由な奴だ。


「っていうけどさあ。ユーヴィーだって墓参りはずっとしてなかったんだろう? それってどうなの?」


「ああ、まあ───だって、行って何すればいいか分からなかったしな……」


 この《人界》で、死んだ人間の魂は大神の御許へ還るとされている。公開処刑と同じく、先天的異端の身としては彼らのために祈るのは、どうしても不誠実のように思えて仕方なかったのだ、と言い訳させてほしい。


 俺よりもニーオの方がそういうところは真面目だから、欠かさず行っていた彼女に任せきりにしていたというのもある。そんなニーオにこうして書面で頼まれてしまえば、嫌とは言えないわな。


「会期中、神聖騎士たちはオースロストに集まってるから、騒ぎを起こさない限りは安全だって言うしな……。いい機会だし、久しぶりの帰郷と行くか」


「い……行くのですか。聖都へ……」


「何だい何だい、怯えちゃって。大魔王と切った張ったを繰り広げたというには随分と臆病な発言じゃないか?」


 バスティが茶化すと、ヒウィラは目に見えてむっとする。とはいえバスティの口調もかなり煽るようなで、やけに喧嘩腰なのは気にかかる。俺がヒウィラを《魔界》から連れ帰ってからというもの、お互いにやけにいがみ合うから仲裁に一苦労なのだ。


 やはりと言うべきか、挑発を受けてヒウィラも強気に言い返す。これはまた長引くパターンだ……。


「別に怯えているとかそういうわけではありません。魔族の私や異端のユヴォーシュには危険なのを理解してほしかっただけです。……ああ、貴方はそうではないんですっけ。何といってもだそうですからね」


「なッ……馬鹿にして、ボクがいなければユーヴィーはただの無計画なだけの青年なんだからな! 彼に助けられたって言うなら、キミもボクに感謝して然るべきだってのに!」


「ユヴォーシュには感謝していますが貴方にする道理はありません。記憶喪失だからと神を僭称するのはどうかと思いますよ、バスティ」


「せ───僭称! 言うに事欠いて僭称だって! この、この……! ちょっと面倒見てもらってるからって調子に乗って……!」


「あーもう止め止め。毎日喧嘩しやがって、そんなに喧嘩したいなら二人でやってくれ。墓参りは俺一人で行ってくるから」


「「えッ!?」」


 二人揃って口をあんぐりと開く。そういうところは息ピッタリなのにな、二人とも。


 二人きりでこの屋敷に残るのがそんなに嫌だったのか、結局付いてくることにしたらしい。実のところ、バスティとヒウィラの二人だけでこの屋敷に置いていくつもりなんてハナからこれっぽっちもなかったから、そうなってくれないと困るのだが。


 だってどうなってるか分からないだろ、帰ってきたとき。最悪、屋敷が吹っ飛んでたりしそうだし。

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