201話 人界生活その6

「魔剣でもなければ、用立てられると思うわ。女性向けの細剣がいいのかしら」


「いえ、普通のロングソードで構いません。……ところで、魔剣というのは───やはり、彼の?」


 言外に視線のみで、俺の腰に差したアルルイヤの話題と示すヒウィラ。ジニアもすぐにそれと悟って、


「ええ。彼の魔剣は私の父が打ったものよ。ジーブル・メーコピィ、《土妖》だったの」


「そう……。その方は、どちらに?」


「死んだわ、もう五年も前」


 まさか初対面でそこまで踏み込んだ話をするとは思っていなかったから、俺はヒウィラに事前に説明しておかなかったのを後悔する。とはいえジニアも、以前俺に語った時とは違ってふっきった……ようには見えるが、身内の不幸の話だしな。勝手に察した気になるのはダメだろう。


 そう思っていると、ヒウィラはなんと踏み込んだ。


「もしかして、魔剣は遺作?」


「どう、して、それを……?」


「───もう一つだけ質問させて。貴方の父上は、《信業遣い》……だったりしなかった?」


「えっ? いや、そんなことはなかったと思うけど」


 困惑のジニアに、ヒウィラは顎に手を添えて少し考え込む。俺はその放置しておくといつまでも考え込んでしまいそうだと危惧して、早々に割って入る。


「急に何を言いだすんだヒウィラ。すまない、彼女ちょっと世間知らずなところがあるんだ」


「適当なこと言わないで。いいから、剣の話をしましょう。柄の太さなのだけれど、こだわりがあって……」


「あ、オーダーメイドなのね……?」


 で、いざ鍛冶屋に入るとアレをしろココはこうコレは嫌だとまあ注文の多いこと。あれだけ剣は要らない嫌だ嫌だと言っていたのが嘘のようで、俺は口を挟む隙間もなかった。つかがらをつけろなんてどうでもいいことじゃないか?


 その時点で嫌な予感はしていた。剣でこれなら、他はどれだけ、と。


 ───予感的中。


 ほとんど着の身着のまま、俺がディゴールに帰ってきた時に手あたり次第用意していたワンピースくらいしか服の持ち合わせの無かったヒウィラに、一揃い服を買ってやったころには日が完全に沈んでいた。一日では必需品の類も買い切れないということで、買い物の続きは明日に持ち越し。俺はぐったり疲れながら、屋敷で待つ(待ってるのか? 正直疑わしい)二人のぶんも夕飯を買い込んで帰路につく。


 帰り道、思い出した俺は問う。


「さっきの質問は、どういうことだ?」


「さっきの質問とは?」


「ジニアにした質問だよ、ホラあの半人半妖の鍛冶師の子。彼女の父親が《信業遣い》だって、どうして思ったんだ?」


「ああ、その件なら───貴方の魔剣が、《真なる遺物》なのではと思いまして」


「《真なる遺物》。何なんだそれ、前にも聞いたぞ」


「……はあ、呆れました。知らずに使っていたのですか」


 止めろ、その蔑んだ目。傷つく。

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