148話 悪嫁攫取その6
「……で、お前は姫君に庇われてそのザマか」
「ぐっ……!」
ロジェスの冷え冷えとした視線に晒されながら、俺は一言も言い返せない。俺やヒウィラが説明するまでもなく事情をすべて把握していた彼は、おそらく神聖騎士に俺を監視させていたんだろう。俺はそれを見抜けないまま、まんまと踊らされていたことになる。
日の出から遅れること僅か、配下の神聖騎士たちだけを合流したロジェスはそのまま今の面子だけで《人界》へ向かうことを提案。ヒウィラとタンタヴィーはそれを受け入れた。
魔王軍や征討軍の大部隊を引き連れての移動はどうしたって目立つ。そうなれば、《人界》《魔界》どちらでも妨害がしやすくなるから今回は少数精鋭で迅速に移動するのを優先する方針だ。
《魔界》側でそういう妨害、婚礼阻止があるだろうことはヒウィラの説得で聞いていたが、
「《人界》でも起こり得るのか、そんなことが」
「ある。必ずな」
断言するロジェスの顔は、そういう流れになることを予測しているそれではなかった。明確な一個人をイメージして、『あいつならそういうことをしてくる』と予見している緊張感。
その
「そいつも、聖究騎士か」
「───盆暗かと思ったが、勘は冴えているな。その通り、《鎖》のメール=ブラウだ」
「そいつは、何故───」
質問しながら、愚問だなと思い直す。《人界》を守護する神聖騎士、その中でも選ばれし聖究騎士が魔族の姫君の《人界》経由など許すはずもない。それを自分の欲、『大魔王を斬りに行きたい』というがためだけに無理を通そうとしているロジェスの方がおかしいのだ、と納得しようとしたのに、
「ヤツは人格破綻者だ。まともな倫理と論理を期待するな、疲れるだけだ」
同僚に向けてそう言い放つロジェスの表情には嘘も衒いもなく、彼自身心底ウンザリしているのが窺えたから反駁もできない。冗談だろと言いたいのは彼も同じなのだろう。
ロジェスにそこまで言われるなんて、よほどだろう。関わり合いは避けるが吉か。
合流したロジェスと神聖騎士四名、ディゴールに留めておいた一名を回収して計六名。それ以外、連隊二千の大多数と、その同行を命じられた神聖騎士二名はあとから来るが、彼らを待っている暇はない。タンタヴィーやムクジュら魔族精鋭兵と、ヒウィラ付きの侍女たち、人族魔族合わせて三十にも満たない手勢で、俺たちは《人界》を駆け抜け《魔界》インスラへと向かうのだ。
その間では、迷っても立ち止まることはできない。《人界》にいる魔族を許容する道理は、どこにもないからだ。
「……お前、聞くところによると随分と恥ずかしいだろうに。付いてこなくてもいいんだぞ?」
「うるせえ、庇われてすごすご引き下がってられっか! 同行するに決まってんだろ!」
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