128話 人魔境界その1
前線都市ゴルデネスフォルムで、ウィーエとクァリミンと分かれる。
ウィーエはカストラス家の家督相続の条件───父祖カストラスの発見を完遂したため、家に帰ってこれからは晴れて当主となる。「何かあれば言ってください」とは言っていたが、当主として忙しくなるだろうから無闇に押しかけるのも気が引ける。それに俺は『バズ=ミディクス補記稿』とシナンシスをニーオのところまで送り届けないといけないから、しばらくは会うこともないだろう。
クァリミンは、ゴルデネスフォルムの都市政庁に自首した二人───《幻妖怪盗》クィエイクと《冥窟》の主マゴシェラズの弁護と、彼らの罪を償う手伝いをするという。情状酌量の余地があるかどうかは分からないが、司法取引の余地はあるように思う。《幻妖》二人と魔術師なら、使おうと思えばいくらでも使い道はあるはずだから。
それでもどうにもならなければ、いつでも頼ってくれと言って、二人とも手を振って分かれていった。
馬車を走らせ、ニーディーキラ交易路を逆戻り。三人───二柱と一人が道中であれこれと我儘放題を言ってくるので、時間的にはともかく疲労度は行きの五割どころか体感で倍近い。まったく、味が分かるようになったからってシナンシスは食い意地が張り過ぎだ!
さておき、ディゴール。
無事かは疑問の余地があるが、全員揃って、かつ目的を達成して帰ってこられたのは感慨深い。久しぶりに見た外壁正門は出て来たときと何ら変わりないように見える。
まあそんな考えは、全くの的外れだったのだが。
「ユヴォーシュ……? ユヴォーシュ・ウクルメンシルだよな!? あんた」
「そういうあんたは誰だ」
街中に入るなり見知らぬ男に声を掛けられる。この街の住人、一般人としか思えない風体。見覚えはない───はずだ。
男は「ユヴォーシュだ! ユヴォーシュが帰ってきたぞ!」と叫びながら走り回り、どこかへ行ってしまった。何だったんだと疑問に思う間もなく、“アルジェスの星見”亭へと馬車を向かわせる俺たちのところへ、都市警邏が隊伍を組んで駆けつけて来た。
「ユヴォーシュ様、どうか! お疲れでしょうが、都市政庁までお越しいただけますでしょうか!」
「えっ、ちょっ、何で?」
「事情はあちらで説明します、どうか!」
有無を言わせぬ勢いで、馬車を先導して俺を都市政庁へ引き立てていく。どっちみちニーオには会わないといけないし、顔を出すつもりではあったがこの強引さはどうしたことだ。
あれよあれよという間に見覚えのある都市政庁に到着して、通路を「こちらです!」と案内される。もうちょっとゆっくりにしてほしい……。
警邏が大扉を開いた先には、会議室らしきラウンドテーブルが据え置かれていた。楕円の机についている人数はざっと二十人はいるか。その中には見覚えのある人間の姿もある。
ディゴール総督の妻、オーデュローシサー・ラーゼン。噂じゃ《蟒蛇》のオーデュロとか呼ばれているそうな。
冒険者
神聖騎士の中から選ばれし聖究騎士の一人にして幼馴染。《火起葬》のニーオ。
そして、
自制する間もなく悪態が口をついて出る。
「お前───ロジェス、ロジェス・ナルミエ……!」
「……座れ。ユヴォーシュ・ウクルメンシル」
ニーオと同じ聖究騎士、かつてロングソードを斬り折った、《割断》のロジェスがそこにいた。
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