004話 信心問答その2

 気づけば俺は洞窟の外にいて、アレヤ部隊長が俺の前にいた。


「ユヴォーシュ。お前、どうしたんだ」


「部……隊長」


 部隊は既に撤収の準備を始めている。もう何十回と見た光景に、ああ、任務は完了したんだなと───《悪精》は全員殺したんだなと分かる。


 混乱していたのだろう。自分が最後の一匹を斬り殺したのだのだから当たり前だと、その時は思えなかった。


 アレヤ部隊長は俺を座らせると、自分はその向かいに座る。戦にその身を捧げた戦乙女であるからして、勇壮でありながら金に輝く御髪が美しい彼女。紺碧の瞳を、俺と目線を合わせて、


「あの子《悪精》か。お前は正しいことをしたんだ、気にするな」


「正しいこと───」


 正しいこととは何だろう。


 きっと神を信じること。


 そう考えたとき、『きっと』とつけてしまう時点で俺は不信心なんだ。


 そして、そんな俺と違って、《悪精》の少女は神を信じていた。


 気づけば俺は思いの丈をぶちまけていた。


 どうして魔族を殺さねばならないのか。《人界》の神々を信じる魔族がいれば、それは殺さなくていいのではないか。そもそも神とは何なんだ。どうして俺は心の底から神を信じられないのか。


 ……随分長いことアレヤ部隊長を独り占めしてしまった。いつの間にか日は完全に沈み、撤収作業の現場は《奇蹟》の光に照らされている。


 アレヤ部隊長は俺が一部始終を語り終えるまで黙って聞いてくれて、そして一つ頷いた。


「分かった。よく話してくれた、ユヴォーシュ」


 彼女はしかつめらしくそう俺に言うと、撤収作業中の他の部隊員に向けて、


「《悪精》との戦闘でユヴォーシュ隊員が負傷した! 本日より五日間の療養に入るため、配置等再編成するように!」


「了解!」


 急に何を言いだすのかと思った。俺はどこも怪我をしていない、アレヤ部隊長も隊員の皆もそんなこと知っているだろうに───


 と、アレヤ部隊長は俺にウィンクをしてみせた。その仕草だけで、いっぺんに疑問が氷解する。


 俺の悩みを聞いて、少し考える時間があったほうがいいと配慮してくれたのだ。彼女のもとで働き始めて六年、初めて見る一面だった。




 信庁から二名の《信業遣い》がやってきて俺を拘束したのは、療養三日目の早朝のことだった。

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