終わりなき友情に終止符を打って
三郎
1話:俺の好きな人
俺には好きな人がいる。
「おはよう、まこちゃん」
可愛いらしい声で、まこちゃんなどという可愛いあだ名で俺を呼ぶ、俺より少し背の高い女の子。
彼女は俺の幼馴染の
しかし、俺たちは付き合っていない。俺たちの関係はただの幼馴染以上の何物でもない。
好きだと自覚したのはいつだっただろうか。分からない。分からないが、いつの間にか俺の好意は幼馴染に対するそれから異性に対するそれに変わっていた。
「よっ、お二人さん!今日もラブラブだねぇ」
「もー!
いじられる度に彼女はため息を吐きながら「私たちはただの幼馴染で、それ以上の関係じゃない」とばっさり否定をする。俺はそれを聞くたびに心が痛い。
『俺はそれ以上の関係になりたい』と伝えたら彼女はどういう反応をするのだろうか。もしもそれが原因で拗れてしまうようなことになってしまうなら、このままでいいなんて思ってしまう。フラれてしまうくらいなら、好意を隠したまま側にいる方がマシだ。
だけどそれではだめなのだ。親友という立場では、彼女の一番にはなれない。今は一番かもしれないと、そう言えてしまうほど、彼女と仲がいい自信はある。だけどいつか彼女に恋人ができてしまえば、きっと俺よりそっちを優先することになるだろう。
そして、幼馴染の俺でさえ知らない顔を恋人に見せるのかと思うと、どうしようもなく苛ついてしまう。彼女の全てを独占したい。まだ誰も知らない彼女を—俺でさえ知らない彼女を知りたい。
これは紛れもなく恋だと思う。
彼女は俺のことをどう思っているのだろうか。聞きたい。確かめたい。だけどこの距離を壊すのが怖い。
そんな想いを内に秘めたまま、気付けば一年が経ち、俺たちは中学二年生になっていた。
彼女も俺も何度か異性から告白を受けたが、未だにお互いに恋人はいない。
『空美、彼氏作らねぇの?』
『うん。作らない。好きな人居るんだ』
『えっ、マジで?』
『…うん』
『あ、相手は?』
『…好きって言ったけど、私はまだこの気持ちに整理がついてないんだ。友情かそれ以外か…まだ分からないの。君は?好きな人いるの?』
『おう…居るよ』
『そうなんだ…じゃあ、お互い頑張ろうね』
そんな会話をしたのは去年の末だ。相手は教えてくれなかったし、一年経っても恋人がいないということは未だにその人とは付き合えていないということだ。
しかし、失恋した様子もないため、その好きな人もまだ誰とも付き合っていないのだろう。
その好きな人というのはまさか、俺だろうかという期待もなくはない。
なくはないが、やはりなかなか言い出せない。
「お前の好きな人って俺なの?」なんて、よっぽど自分に自信があるか、確信できるような証拠でもないと無理だ。
それに、相手が俺だったら『お互いに頑張ろうね』なんて言うか?そんな他人事みたいなこと言う?
「はぁ…」
「ヘタレだなぁ。いつになったら告白すんの」
机に突っ伏す俺の頭を突きながらそう煽ってくるのは彼女の従姉妹の
「早く告白しなよー。そしてさっさと玉砕しなよー」
彼女はやたらと俺に告白を勧め、そしてフラれろと心ないことを言いながらケラケラと笑う。
「早く告白しないと、取られちゃうぞー。みぃちゃんモテるし、ライバルは身近に居るかもしれないよ?取られちゃってから取り返すのは大変だぞー?それとも何?略奪愛したくてわざと言わないの?」
「うるせぇなぁ…」
「まこちゃんが告白しないなら、私が取っちゃおうかな」
「あぁ?何の冗談だよ」
「…ふふ」
海菜は中学に上がってからずっとこうだ。まるで、俺と彼女にささっとくっついてほしいと言わんばかりに定期的に煽ってくる。
海菜は身長170㎝を超える長身で、手足が長くてスタイルがいい。髪は腰あたりまで伸びたサラサラで綺麗な黒髪をいつも一つにまとめている。髪をおろすと割と可愛い。中性的な顔立ちだが、パーツは整っており、まつ毛は長くて目はぱっちりとしており、美少女—いや、美少年といった感じだ。女性の象徴である胸はほとんど膨らんでおらず、髪の長さでしか性別を測れない。
よく男性だと勘違いされるが、彼女は女子だ。あだ名は王子だが。
見た目が男っぽいのもあるが、言動や行動も男らしいところがある。例えば、教室に出たゴキブリをなんの躊躇いもなく叩き潰したり、いじめられっ子を庇って「いじめなんてカッコ悪いからやめなよ」とはっきりといじめっ子に注意したり。
それから、頭の回転が恐ろしく早く、人の心が読めるのではないかと疑うほど鋭い。年齢性別問わず人気があるが、特に後輩女子からの人気が高い。
そんな彼女と仲の良い—いや、一方的に付き纏われている俺は、彼女のファンから敵視されている。
「藤井、彼女がいるのに他の女といちゃつくなよ」
と、茶化されることが最近増えた。
「まこちゃん先輩はヘタレだから彼女とはまだ付き合ってないですよー」
とけらけら笑いながら海菜は返す。ムカつく。
「王子さ、まこちゃんのこと好きなの?」
「好きですよ。友達として」
「友達として?」
「…先輩、男女だからって何でもかんでも恋愛に結びつけちゃ駄目ですよー。てか、私も好きな人居るんで。この人じゃない別の人」
「あぁ?んだよそれ。初めて聞いたぞ」
「ふふ。君と仲良くしてたら嫉妬してくれないかなってちょっと期待してるんだ」
「俺は当て馬かよ…」
彼女が恋をするイメージが出来ない。仲の良い男子は何人かいるが、いすぎて誰のことだか分からない。いや、校内の人間ではないのかもしれない。彼女の交友関係は恐ろしく広いから俺の知らない人というのは普通にあり得る。と、彼女の好きな人を考察していると彼女は俺の心を読んだのか「私の好きな人は君がよく知ってる人だよ」と揶揄うように笑う。彼女の一番仲の良い男子の名前をあげるが「ハズレ」と手でバツを作った。
「…その様子じゃあ一生気づかないかもね。私から答えを言わない限り」
と、何処か含みのある寂しそうな顔で笑うものだから、まさか俺か?と勘違いしてしまいそうになるが「残念ながら君ではないよ」と思考を読んで苦笑いする。
「なんも言ってねえだろ」
「えー。『まさか俺か?』って顔してたよ」
「してねぇ」
「してた。まぁ、いずれ教えてあげるね。近いうちに私、その人に告白するから。それが終わったらね」
「あぁそう。頑張れよ」
「…頑張っちゃっていいんだ?」
「あぁ?」
「…後から怒らないでね」
「はぁ?怒る?なんで?」
その意味深な言葉の意味が分からずに首を傾げてしまうが、彼女のことだからまた適当なことを言って俺を困らせているだけなのだろう。
この時はそう思っていた。
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