カタシロの剣

シューギュ

カタシロの剣

闇夜の草原で、二人の男が剣を持って対峙し、戦おうとしていた。

紫の剣を持つ男、クサリが先に仕掛ける。

裂帛の気合を響かせながら、相手に突進していく。

「アアアアアアアアアアアアアアアア!!! ・・・・・あ?」

草木も、それを支える大地ごと震えるような気合が、一瞬途切れる。

信じられぬものを見た。

剣と命をかけて戦う決闘の場において、相手の男はあろうことか手に持つ銀の剣を天高く放り投げ。

素手のまま、殴りかかってきたのだ。

「あんた・・・何考えている・・?」

クサリはとっさに剣の平面で相手の拳を受ける。

「無論、勝つため、お前を殺すための最善手を講じているだけだ。つば迫り合いにもなって、私の剣が傷ついては困るのでなァ!!」

上段、中段。腕を大きく回した裏拳。同じところに蹴りも混じえて計6発が何周も。

クサリが剣で弾いた拳が、蹴りが、周囲の岩や草木を粉々にしていく。

刃で斬ることも、腕を掴むことも叶わぬ攻撃にクサリは少しづつ後退していく。

相手は殴り、蹴るほど調子があがっていくのか、身体から蒸気のような白いモヤが上がっているように見える。

(だが・・・それでこそ、俺の術中だ)

にも関わらず、クサリはニヤリと笑う。

「どうした? 何が可笑しい!!」

男はクサリの挙動に苛立ちを覚えたのか、距離をつめ、胴の蹴りでクサリを吹き飛ばす。

うずくまり、しばらく話せそうにないクサリを、男は見下ろす。

「私の攻撃を防ぐばかりで反撃の一つもできない。素早かったのは最初の突進のみ。恵まれた体躯の持ち腐れよ。剣ではなく、盾を持った方が良かったのでは、ないかね?」

呆れるような男の言葉に、クサリはニヤニヤ笑いながら答える。

「・・・・そりゃー『反撃しなかった』んじゃなく・・・『する必要がなかった』んでさ、おじさん」

「何・・? ぐっ」

男の身体から立ち上る汗かと思われた白いもや、それが男の手と足を溶かしているのだ!!

「・・・・それが貴様の剣の力か」

「ああそうさ、『剣に触れた敵の身体を溶かす』って能力さ。一対一の戦いで相手を攻撃しないバカはいない。 ・・・・素手でって言うのが意外だったが、まぁ好都合だったよ。普段なら溶液を相手に触れさせたあと、溶かすのに時間を稼がなくちゃならないからな」

「回りくどいことをする。一思いに首を刎ねればいいものを」

「あ! おじさんもそう思う? でもさぁ・・・」

今までの窮地に追い込まれていたのが、演技だと隠しもしない軽々しさで、クサリは男に近づく。

「もう、肘と膝まで溶けてるじゃん、おじさん」

そのままクサリは男を蹴り飛ばす。

「これじゃあもう、戦うどころか、動くこともままならないねぇ!! 俺、そういう自分の体が溶けていく奴の苦しむ顔が見たくてさぁ、この力が手に入って、ホンッッットにラッキーだったよ!!!!」

「フフフ・・・」

「ん? どうしたおじさん? 脳まで溶けてきたの?」

本来くるしみ、悲鳴をあげることを期待し、それゆえに興奮していたクサリに男は微笑んでいる。

「いや何・・・はじめに投げた剣がな、『もうそろそろだと』おもってつい、な」

「は? 何を言っ         て」

鈍い音がした。 肉を骨ごと断つような音が。

だが、その剣のあまりの鋭さにクサリは、「男が放り投げた剣に、頭を貫かれていること」をしばらく認識できなかった。

「そういえば、言ってなかったが。私は『斬った相手の体を奪い、自由に構築する』能力を持つ。『私自身』に傷がついてはかなわぬので素手にて死合ったが・・其の体格、技、・・・・偏執狂な心は捨て置くが、必要なものは、頂いていくぞ」

「そ、んな、アんタ、なニもの・・」

其の問いに男は、溶けた足と腕を構築し治し、哀れで偏執狂な毒剣使いの体から「本体」を引き抜いてようやく、名を尋ねられたことに気がついた。

「他人の肉を我が物にする私に、名など無いさ。だが、強いて言うなら・・・『カタシロ』、「呪剣、形代」・・・とでも名乗っておくさ」

毒剣使いの亡骸は、もう何も。語らなかった。

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カタシロの剣 シューギュ @syugyu1208

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