第191話 ゲームマスターのプライド

 シロが僕に向かって振り上げたのは『ダイヤモンドソード』だった。

 レベル5の戦士職のシロにとっては不釣り合いな装備だった。

 どうせ、パパに買ってもらったのだろう。


「くっ……」


 僕は銅の剣で応戦する。

 これでも僕はレベル8だ。

 職業は……職業のステータスはまだ奴隷のままだ。

 でも、こいつよりは強い。

 格好良く勝ってエリスを振り向かせるんだ。


「うわわ!」


 シロはダイヤモンドソードを使いこなせていなかった。

 その重さを操れるほどの体幹や筋力(隠しパラメータ)を持っていなかった。

 剣に振り回されて、ふらついている。

 僕はそこを狙った。

 膝をつき四つん這いになった。

 無防備な彼の首を狙う。


「いたっ!」


 後頭部に激痛が走る。

 温かいものが頬を伝い、顎からポトリと落ちる。

 血だ。

 足元には大きな石が落ちている。


「奴隷、鬼畜!」


 甲高い声に振り返ると、歯ぎしりをさせながら僕を睨みつけるエリスがいた。

 まるでこの世の憎悪を一人で背負っているかの様な形相だった。

 両手に石を握り締めている。

 僕は我に返ると激痛が走り、倒れた。


「おい! この僕をよくも傷付けたな! 親にも殴られたことが無いのに!」


 呆然とする僕にシロが攻撃をしてくる。

 ダイヤモンドソードが僕の身体を切り裂き、打ち据える。


「奴隷のくせしやがって、エリスに手を出すなんて1億年早いんだよ!」


 ふと見上げると、エリスと同じように歪んだ顔をしたシロがいた。

 貴族の仮面を脱ぎ捨てたシロはモンスター以下の存在だと思った。


「このくらいにしておいてやる。ソロのプレイヤー殺しはペナルティの対象だからな」


 僕は倒れたまま、シロとエリスが去って行く足跡を聞いていた。

 惨め過ぎて涙が出た。



「ひどいな……」


 私は呟いた。


<リンネ、私の役目はこれで終わり。ユウタに限ら人間個人の過去を教えるのは重大なルール違反だ>

「もうルールも何もないだろう」

<否、このルールだけは守らなければ、ゲームを作ったもののプライドにかかわる。情報が重要なこの世界で、他のプレイヤーの過去を流出させるのは……このゲームのプロヂューサーの意に反する>

「プライドを捨ててでも、魔王を倒して欲しい訳だな」


 アスミは無言で頷いた。


<これがルール無視のハッキングに対して許されるルール無視の抵抗。これが限度だ。これ以上やると、ハッキング下奴らと同じレベルになってしまう。そして、このルール無視は、私の存在で清算される>


 そう言い残すと彼女は、無数のドットに分割されボロボロと崩れて行った。

 後には何も残らなかった。


つづく

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