第190話 最悪

 沢山の情報を持つ者がこの世界では勝利に近づくことが出来る。

 例えば、どこの狩り場で沢山のモンスターが出るか?

 幻想級のアイテムはどのクエストのどのモンスターがドロップするのか?

 どの素材とどの素材を、どう組み合わせれば強力な武器が作れるのか?

 数え上げればきりがない。

 個人のレベルの高さだけが強さじゃない。

 過酷な情報戦を制する者が、この世界での勝者になれる。


<この世界、つまり魔界プロジェクトはそうデザインされている>


 アスミはそう説明した。

 私もずっとそう思って来た。

 そして、私が彼女に頼んだことはこの世界においてルール違反だった。


「ユウタとエリスの過去を教えてくれ」


 私はアスミにそうお願いした。

 アスミは彼女の権限で、運営側を説得し私の脳内にユウタとエリスの過去を流し込んでくれた。

 ユウタの過去の情報が必要だ。

 そこにユウタを目覚めさせる糸口があると確信している。



「シロ様……」


 エリスは胸に手を当てたまま、立ち尽くしていた。

 視線は宙をさまよっていた。

 僕と一緒に、辺境がある方角を見つめていた力強い瞳はどこかに消えていた。


「パパとママは君を人間と思っていない様だけど……僕は君の事、奴隷市場で売られているのを見た時から好きだったんだ。僕がパパとママを説得する。何不自由ない生活を約束するよ。何たってパパは街で有力なギルド『銀の剣』のギルマスなんだから」


 シロは手を差し伸べた。

 エリスは僕のことを振り返ることなく、その手を取った。


「エリス! 僕と一緒に!」


 僕は壊れそうになる自分を必死に抑えていた。

 彼女の肩を掴んだ。

 彼女が振り返る。

 眉根を寄せ、三白眼が僕を睨みつける。

 彼女の口から信じられない言葉が発せられる。


「気安く触るんじゃねぇよ。この奴隷ウジ虫が。あんたって前から気持ち悪いと思ってたけど、やっぱ気持ち悪いわ」


 僕は壊れた。


 腰に刺した銅の剣を引き抜き、エリスとシロに切り掛かる。


「うっ!」


 僕は剣を持った右ひじに激痛を感じた。

 腕はだらりと垂れさがり、剣を落としてしまった。


「シロ坊ちゃま! 大丈夫ですか!?」


 茂みの奥から弓を持ったアーチャーの男が飛び出して来た。

 激痛の理由は奴が放った矢が原因だった。


「カネヨシ。どうしてここに?」

「ご主人様がシロ坊ちゃまがいないことに気付いて、探しに行って来いと」

「どうしてここが?」

「このカネヨシ。シロ坊ちゃまのことなら何でも知っています」


 シロはカネヨシに向かってサムズアップした。

 

「エリスを頼む」

「はっ!」


 カネヨシはエリスの手を取り茂みに潜んだ。


「おい、よくも歯向かってきやがったな! 覚悟しろ!」


 シロは腰に刺した剣を引き抜いた。


つづく

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