第186話 死んでも忘れない

「危ない!」


 僕は咄嗟にエリスに覆いかぶさった。

 背中に冷たく凍てつくような痛みが走る。

 無数の光のつぶてだ。

 辺りを見渡した。

 それはどこから降って来たのか分からない。


「ユウタ! こいつらの誰かが私達を攻撃したのよ! 早く殺しなさい!」


 エリスが僕の腕の中で、怒りの形相で叫んだ。

 明らかに聖魔法による攻撃。

 アスミやリンネは魔法は使えないし、フィナも、だ。

 ならばガイアか。

 だが、彼女は詠唱した様子が無い。

 残るはセレスだ。

 彼女の姿だけが見えない。


「セレス! 出て来てくれ! 僕は君と戦いたくない!」


 僕は叫んだ。

 だが返事は無い。


「ユウタ、私を守って」

「うん」


 エリスは僕の手をギュッと握り締めた。

 僕は決意を新たにした。

 目を凝らし、敵を探す。

 ある建物。

 その建物のドアの下にある隙間。

 そこから人の影が伸びている。


「エリス、ちょっとだけ離れてて」

「うん」


 彼女をそのドアの一直線上に立たせる。

 後ろ向きで。

 そして、僕は詠唱を始める。

 その瞬間、ドアをぶち破り光の球が飛び出した。

 それを予想していた僕はエリスの前に立ち、唱えた。


超聖攻氣スーパーホーリーアタック!」


 セレスだって頑張ってレベル40になった。

 だけど、レベル90越えの僕には勝てない。

 ごめん。

 彼女の聖なる光の球を、僕の身勝手な光の球で弾き飛ばす。

 そのまま僕の放つ光は閃光となり、破壊されたドアの向こう側にいるセレスに襲い掛かる。

 白い光に包まれた彼女は、僕に向かって笑顔だった。


「セレス!」


 自分の声がかすれている。

 涙が出そうで出ない。


「ユウタさん……」


 建物の壁にめり込んだ彼女は、白く輝いて綺麗だった。


「あなたが辺境の狩り場で私を助けてくれたこと……忘れない」


 彼女は喋る度に口から血を吐く。

 白く染まった体に紅い血の筋が幾重にも出来て、イチゴかき氷みたいだ。


「先に地球ちきゅうで待ってる……」

地球ちきゅう……」


 僕はその言葉を久々に口にした。


「ユウタ!」


 エリスに睨まれ、我に返る。


「私、ユウタさんのことが、す」


 建物が突然倒壊した。

 壁にめり込んだセレスもろとも。

 巨人の足踏みの様な振動と共に、土煙が舞う。


つづく

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