第185話 魔王のAI

<魔王は、救世主の弱点となって現れる>


 アスミの言葉を思い出す。

 最後に力だけじゃない相手を持って来たところに、このゲームの難しさを感じた。

 ユウタ自身が真の救世主か試されている。

 ここで私達を裏切る様なら救世主として失格。


「だけど、運営……というか日本は、早く魔王を倒して欲しいわけで、ゲームを難しくしてプレイヤーを楽しませる方針は捨てたんだろ?」


 だから、ユウタを誘惑する仕組みは今すぐ外すべきなのでは。

 そう思った矢先、アスミがこう言った。


<リンネ、魔王はAIで作られている>

「AI?」

<人工知能>

「知能……」


 時間が無い。

 全てはユウタが変わってくれることにかかっている。


<魔王のAIは、ユウタの生い立ち、それまでの行動や言動、全てを学習し、彼が最も弱点としている部分を把握している。そこを攻撃してくる>

「今、対峙しているエリスという女がユウタの弱点だとAIは判断したわけか」

<うむ>

「AIを無効にすることは?」

<出来ない>


 ユウタはエリスの前に立ち、私達にこう叫んだ。


「皆! 戦いはもうやめよう! ここで一緒に暮らすんだ!」

「ユウタさん、目を覚ましてください!」

「ガイアさん、言うことを聞かなければ、僕はあなたを……」


 だめだ。

 完全に乗っ取られている。


<本来ならもう少しライトな精神攻撃をするAIだったんだが……。AIの部分もA国に乗っ取られた様だ>

「ふー」


 私は鼻から息を抜き、肩の力を抜いた。

 この危機をどう打開すべきか。

 思えば、ユウタと出会ったのは4年前で彼が奴隷だった頃だ。



 タイチに街の市場とやらに初めて連れて行ってもらったのは、私が10歳の時だ。

 賑やかな市場は沢山の露店が出ていて、見たことも無い珍しいアイテムが売られていた。

 その中の一つ、ボロボロのテントの下で、沢山の子供が座っている場所があった。

 私はその中の一人に目が釘付けになった。


「タイチ、あそこにいる男の子」


 私の指差す先にはボロ布をまとい、ホコリにまみれた男の子が倒れていた。

 身体が傷だらけで、いたるところにあざがある。

 その男の子と私は目が合った。

 鋭い目つきで、誰も信じないと言った感じが伝わってくる。

 それがユウタだった。


つづく

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