第183話 僕が君を守ってあげる
「ユウタ? どうした?」
立ち尽くしたままの僕にリンネが声を掛けて来た。
その声はものすごく遠くから聞こえている感じで、僕には響かない。
目の前にいるエリスに僕の気持ちは引き寄せられたままだった。
魔王が作り出した幻影だと分かっていても。
「ユウタさん、あの女の人? 知り合いですか?」
ガイアが僕の真横に来て、エリスのことを指差す。
幻影に対して知り合いも何もないだろう。
だが、僕には幻影に見えなかった。
僕の前から姿を消した彼女は、僕の前に現れて、こうして話し掛けて来ている。
「ユウタ」
「あ……う……」
彼女に呼び掛けられるたびに、僕の心は揺らいだ。
人間不信になるほど酷い別れ方をされたのに、実際、再会してみるともう一度一緒に過ごしてみたいと思ってしまう。
こんなことやってる場合じゃない。
きっとこれは魔王の作り出した幻影なんだ。
そう分かっていても、一歩も足を踏み出せない。
「ユウタ。私と一緒にこの世界でずっと暮らそう」
◇
「僕が君を守ってあげる!」
奴隷市場で売られていた僕にそんな力なんてないのに、僕は彼女にいつもそう言っていた。
彼女もまた奴隷市場で売られていた。
僕は定期的に醜い金持ちの人間に買われた。
彼女は奴隷と言っても人気があり、複数の買い手がついたので値段が高かった。
だから比較的まともな人間に買われていた。
それでも、過酷さは変わらない。
飽きた奴隷は、買った時の半分の値段で売主に引き取られ、また市場で売られる。
僕と彼女は、売られて戻って来た時のタイミングが合う時があった。
奴隷商人が奴隷の子供を詰め込む部屋で僕らは再び出会う。
「もういや!」
彼女はそう叫び、泣いていた。
どんな目にあわされたか、僕は自分が合わされた目を思い出し、彼女のことが可哀そうだなと思った。
そして、僕は自分を捨てた両親を恨んだ。
僕は彼女の手を握り締め、こう言った。
「僕が君を守ってあげる!」
◇
「いてっ!」
激痛と共にHPが減った。
僕の太ももに、クナイが突き立てられていた。
「ユウタ! 目を覚ませ!」
リンネが僕を怒鳴りつけた。
彼女は眉を吊り上げ、顔から炎が出るんじゃないかと思う程真っ赤だった。
「お前がやらないなら、私がやる!」
リンネが地を蹴った。
「待って!」
黒装束の裾を掴んだ。
リンネが驚いた表情で僕を振り返る。
「エリスを殺さないで」
「バカ! あいつはお前の心を惑わす敵だ!」
「違う! 僕にはわかる!」
「何が分かるというんだ!」
「彼女は僕の元に戻って来てくれた!」
つづく
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