第181話 バグによる犠牲者

 残り10分。

 あと10分で、この世界が崩壊する。

 サーバに刻まれたタイムリミットが発動して、ゲームのデータとプログラムが消去される。

 その瞬間から、地球ちきゅうではゲームによるA国討伐が終わる。


「アスミさん、すいません」

「何だ? 救世主ユウタ」

「タイムリミットが来てゲームが終わったら、A国の討伐はどうなる?」

「恐らく、別の方法でやるのだろう。その辺の方針は国が決めるので、分からない」

「なるほど……」


 ゲームの中で、プレイヤーがモンスターを殺す。

 プレイヤーに楽しませることで、地球ちきゅうにいる敵国の人間がドローンによって殺される。

 遠隔による殺人だった。

 もしかすると、地球ちきゅうでは魔界プロジェクトの様なゲームが沢山作られていて、それらのゲームの中でも同じようなことが行われているのかもしれない。

 だから、僕らが魔王を倒せずタイムリミットが来ても、他のゲームのプレイヤーが魔王を倒すのかもしれない。


 そうこう考えているうちに、魔王の段に足を踏み入れていた。

 そこは僕達が住んでいた街だった。

 見慣れたギルドホールや武器、防具屋。

 アイテム生産センターもある。


「これは一体……?」


 僕は一瞬、ラストダンジョンを抜けて外に戻ったのかと思った。

 

「きゃあっ!」


 後方から叫び声が上がった。

 振り返ると一番後ろに控えていたウエンディに異変が起きていた。


「助けて!」


 彼女の身体は足先から消え掛かっていた。

 消え掛かっている部分を良く見ると、小さく四角く分割されたもので凸凹になっていた。

 まるで、サイコロが集まって組み合わさったかのようだ。

 そう思っているうちに、四角が増えて行った。


全回復オールリカバリ!」


 ガイアが治癒魔法を唱えるが、ウエンディは消滅した。


「ああ……何と言うことだ。これが魔王の攻撃なのか」


 この街は恐らく幻影なのだろう。

 幻影に惑わされている僕らを、魔王は不意討ちして来たのか。

 それにしても治癒魔法すら効かないとは。


「魔王! 姿を現せ!」


 僕は叫んだ。

 だが、叫びは虚しく響くだけだった。


「ユウタ、これは魔王の攻撃じゃない」

「え?」


 アスミの冷静な声に僕は振り返った。


「ウエンディはバグによって消えた」


つづく

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