第148話 師匠の自分語りがうざい

「うわわぁ! 師匠、ちょっと、待って、ちょっと!」


 漆黒の剣がフィナを追い掛け回す。

 ……ってこの剣、喋るは、ひとりでに動くわで、何でもありだな。


(おい、エルフよ。逃げるな。我が刀身の餌食となれ。その方が幸せだぞ)

「え~!? 師匠、何で?」

(俺はこの世界にある様々な剣に変化することが出来る。俺と一体となることで、まさに無双の夢の世界が見れるぞ)

「へぇ~、そりゃ楽しそうだね。でも、ごめんだよ」


 赤んべーで舌を出し逃げるフィナの後を、宙を舞う剣が追い掛ける。

 彼女は踊る様に漆黒の一閃を避ける。

 器用だな、フィナ。

 剣の突進をフィナが回転し、よける。

 剣の連撃をフィナがクイックステップで、よける。

 まるで、僕とジルバを踊った時みたいに華麗な姿だった。


(おいおい、こんなに追い掛けてて楽しい相手は初めてだぞ)


 師匠、もとい、剣はフィナがお気に入りの様だ。


「フィナさん!」


 ガイアが追いすがる。

 彼女の手の平が光始める。


聖攻氣ホーリーアタック!」


 剣に向かって光の球を放つ。

 剣、それをヒラリとかわす。

 剣だから表面積が広くない。

 だから、攻撃当てるのが難しい。

 そして、人間と違って次の行動に入るモーションが無いので、動きが読めない。


「おい、剣」


 リンネが剣の前に立ち塞がっていた。

 逆手に持ったクナイで剣の刀身を受け止める。

 剣も彼女の気配を感じることが出来なかったのか。


(邪魔だ! 俺はフィナと遊びたいんだ!)


 剣とリンネのクナイが交差する。

 キン、キン、キン!

 刃物の鳴る音がダンジョン内に響く。


「くっ!」


 リンネのクナイが弾き飛ばされる。

 ひとりでに動く剣には、人間という付属物が存在しない。

 その分、動きは軽く素早い。

 腰に刺した小太刀に手を掛けようとするリンネを無視し、剣はフィナを狙う。


「アスミさん、フィナを助けてください!」


 僕は叫ぶ。

 だが、彼女は首を縦に振らない。

 その代わりこう言った。


「剣に乗っ取られた戦士は、防具が布の服だけの人間を攻撃しても、ダメージを与えられることは出来ない。だが、剣は今、ひとりでに動いている。だから、私はフィナの盾にはなれない」


 アスミは僕らに協力すると言ってくれた。

 だが、それは時と場合による様だ。

 彼女の非情な一面を見た気がする。

 アスミ以外の皆が、剣を何とかしようと追い掛ける。

 だが、誰もそのスピードに追い付けない。


(俺の基本戦略は、パーティにいる戦士の精神を乗っ取ること! そして、俺とその戦士の力でパーティを全滅させること!)


 空気を切り裂きながら、フィナを追い回す剣。


(だが、その戦略が見破られたとしても……俺には代替策がある。それが、こうして剣単体で戦うこと!)


 剣は誇らしげに自分を語る。


「あ!」


 フィナが地面から出っ張った石につまずく。


「フィナ!」


 剣がうつ伏せに倒れたフィナに迫る。


つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る