第149話 綺麗なジャイ●ンになった日

「フィナ!」


 僕は叫んだ。

 剣が彼女を刺し貫こうとする。

 間に合わない。

 奇跡を起こしたい。

 マリアンと戦った時に発動した様な奇跡を。

 だが、奇跡の発動条件が僕には分からない。

 叫ぶだけしか出来ない自分が情けなかった。

 絶望で目の前が真っ暗になる。


「ユウタ」


 暗闇の中、ソプラノが響く。

 いつも聞き慣れた声。

 徐々に暗闇に光が差す。

 胸の高鳴りを抑えながら、僕は振り向いた。

 そこには紛れもなく、エルフの王女にして、僕を救世主に導いてくれた恋人が立っていた。

 しかも無傷で。


「フィナ!」


 不思議なことだ。

 これは救世主である僕が起こした奇跡なのか。

 何が条件で発動されたのか。

 神の祝福ならば喜んで受け入れよう。


「ユウタ! 早く!」

「え!?」


 フィナは険しい顔と硬い声だった。

 まるで喜ぶ僕とは正反対の位置にいるかのようだった。


「マリアンを助けてあげて!」

 

 僕は振り返り、フィナが指差す先を見た。

 マリアンは剣に刺し貫かれていた。

 みぞおちの辺りから背中にかけて、一突きに。

 

「こっ……これは!?」


 驚く僕は背中に衝撃を感じる。

 思わず前につんのめる。


「ユウタ、早く助けてあげて!」


 僕の背中を押したのはフィナだった。

 その目元からはとめどなく涙があふれていた。

 その頬は乾く暇がないかのように濡れて光っていた。


「マリアンが私と入れ替わって助けてくれたの!」


 フィナの言葉で思い出した。

 マリアンは敵と位置を入れ替えるスキルを持っている。

 そのスキルを使ってフィナと自分の位置を入れ替え、自らが犠牲になった?

 何故?

 フィナに尊敬され、不老不死を得るためか?

 それとも、本当に心が変わったのか?

 兎に角、今は彼女を助けなきゃ。


「ガイアさん! マリアンさんに治癒魔法を!」


 僕はマリアンに走り寄りながら、指示を出す。


「ガイアさん!」


 彼女は無言で僕から目を逸らしたままだった。

 無理も無い。

 ガイアはマリアンに身内を殺されている。

 助けてくれないのは分かり切ったことだ。

 だが、だが、それでも皆、魔王を倒し地球に転生するために……一つにならなきゃならない。


(こいつ! 邪魔しやがって! 死ね! 死ね!)


 剣はマリアンをめった刺しにしていた。

 彼女のHPが徐々に減って行く。

 剣は疲れ知らずなのか、素早さは衰えない。

 だが、マリアンも剣の動きを見極めだしたのか、剣が自らの身体から引き抜かれると同時に後退する。

 竜神の剣を両手に持ち、壁を背に構えなおした。


「お前、一撃、一撃が卑怯すぎるほどに強力過ぎるぞ」


 赤毛の戦士は、今や髪の毛だけでなく、その全身を自らの血で赤く染めていた。

 ところどころ砕け、ひび割れ、裂けた黒い鎧が赤黒く光る。

 彼女のHPは100しかない。

 あと一撃でも剣の攻撃を喰らえば、死。


(そういう設定なんだよ! 俺様は!)


 剣が胸を張る様に、刀身を反らせる。

 確かにそのステータスは攻撃力、素早さにステ振りしたかの様な値だった。

 その代わり、防御力は皆無だった。


つづく

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